第0章 黒衣の少女
ふと窓の外に目をやると、未だに景色が止まる様子はなさそうだ。
時計に目を落とすと、実家を離れてから3時間といった所だ。
久々の帰郷も、最初は良かったが、長居する程の用があった訳でもなし、長居すれば家業を手伝わされるしで、結局早めの帰宅となった。
この時期だと、友人達はまだ実家だろうし、学校は開いている訳がないので手持ち無沙汰だ。
だが、幸い口座の残金と見送りの時に親がくれた小遣いを合わせればそれなりにまとまった金額になりそうだ。
その上、特に大きな出費が無かったのも幸いだった。
そんな事を思いつつ、バスターミナルに着いてから、どう時間を潰そうかと考えを巡らせている内に、バスは乗り換え予定のターミナルに止まった。
「そうだな…」
誰にともなく呟くと、俺はバスを降りて荷物を担ぎ上げ、駅へと入った。 サラリーマンと買い物客で混み合うバスターミナルを抜け、コインロッカーに荷物を預けると、取り敢えず一番近いゲームセンターを目指し、俺は歩き出した。
その時、違和感と言うにはハッキリと、威圧感と言うには柔らかい奇妙な物を感じ、反射的に振り返った。
その正体と思しき人物は、10歳前後の少女で、見かけだけなら、さっき感じた感覚は完全に錯覚と言えるだろうけど、逆にその少女の姿を人混みの中に見つけた時に確信に変わった。
少女から、確かに先程感じたのと同じ感覚を覚えた。
僕がその感覚に圧倒され、動けないでいると、少女から声を掛けてきた。
「どうかしましたか?」
全身を黒いゴシック調のフアッションで固めた少女の身に纏う雰囲気に圧されつつも、平然を装いながら僕は答えた。
「いや、別に何も…」
「そう」
少女は一言、そう答えると、ブロンドの長い髪を翻し、再び人混みの中に消えていってしまった…
思えば、これが彼女との出会いであり、これから始まる奇妙で刺激的で、もう二度と過ごしたくない日々の始まりだった。