平井さん
平井さんのスカートにネコ型ロボットを描いてみました。
傍観者・平井さん、彫刻家。
芸術家というより職人肌の人でこだわりや個性を作品に込めるよりもひとつひとつを丁寧に完璧に仕上げていきたいタイプ。情に厚く理に聡く、頼られるときちんと応えてあげるが自分からはけして踏み込まない。
物事の善悪は自分が決めるものではないと思っている節があり、仲間や友人がどんなことをしていてもけして止めはしない。常に一歩引いた視線から周りを眺めていて、助けが必要だと判断したときだけ最低限の手を貸す人。
実は未亡人。お腹に男の赤ちゃんも居たが結局流れてしまった。それを境に自分の価値観になんとなく自信をなくして、他人と深く関わりあうのを辞めたらしい。柳に風と物事を受け流すので、ある種の人間にとっては実態の見えない煙のように映るようだ。
私鉄運転士・清永さんは友人。彼に篠原さん一家の身体を「くっつけて戻してくれ」と泣きつかれ少し逡巡したが結局引き受けた。
だが数週間後に平井さんの友人、義肢装具士・田中さんの不治の病が発覚した際、仕事の責任をまるまる彼に委任することを決意する。田中さんの存在を形として残せる何かが必要だと考えたためだが、その判断が正解だったのか否か、今でもわからない。
平井さんがサポートしながら続けた作業は田中さんの死を以って完成する。死の床で田中さんは筆談で礼の手紙を書き、平井さんはその場で受け取った。そこには、田中さんの母に対する労りと心配の言葉がのせられていた。
『夫を亡くし息子を亡くし一人取り残される母の人生こそ、一体何だったのだろうと今では思う』
その夜、平井さんは亡き夫と息子を静かに想い、偲び泣いた。
完成品引渡しの日、平井さんは一対の羽を用意する。篠原さん夫婦の一粒種、幸雄ちゃんの背中に取り付けると『サービス』ということにして清永さんに押し付けた。「息子」が天国に飛んでいけるように、という平井さんなりの弔いだったらしい。