これから始まるものがたり
いってぇ、ケツいってぇ…。風呂入ったら水が滲みて余計いてぇ…。
万希葉と麗ちゃんからまさかのダブル告白。一人から告白されたなら今頃興奮して全裸で駆け回ってるだろうけど、どっちか一人に決めなきゃいけないとなると、もはや鬱だ。
気持ちがどっちかに傾いてるならまだしも、保守的な日本の一夫一妻に囚われない自由な発想を持つ神たる俺は、二人とも愛してしまってるのだから仕方ない。
っておいっ! ふざけてる場合じゃねぇーぞっ!
今日まで告白した経験はあれど、された経験はなかった。いつも言い寄られたり告白されてる万希葉や新史さんって、こんなにツライんだな。
いっそ寅さんみたいに旅に出ようか。小樽くらいなら行けるカネあるぞ。普通電車で一時間もかかんないからな! 足りなくなったら大道芸でもやって稼いで、函館でのんびり異国情緒に触れて…。
あぁ、なんか柄にもねぇこと考えてるぜ…。
ちょっと二人について考えてみる。
先ずは万希葉。万希葉は気が強いフリをして実はそうでもないイイコちゃん。エロいイタズラを仕掛ける俺に対しては火鉢を投げたり殴る蹴るの暴行を加えるが、殴る時は脇からブラが見えたり、蹴る時はパンティーが見えたりする。それはさておき、なんやかんや面倒見良くて優しいヤツだ。
んで、麗ちゃん。ぶっちゃけ雪まつりに行くまでは長い艶やかな髪の美人だけど、地味で大人しいイメージだった。けど、笑顔は‘ぱぁっ’と華やかで、メッチャ可愛い。しかも普段はなかなか見せないから尚更だ。それに、話してみると駄洒落とか下ネタも意外とイケるみたいで、俺と相反するようで実は気が合ったりする。ふわふわしたオーラを漂わせてる麗ちゃんを見てると、知らぬ間に危ない所へ足を踏み入れそうで、放っておけない。
あぁ、そうか。答えがハッキリしたぜ。
デジタル式目覚まし時計は午前3時1分を示している。正直、答えを告げるのにはかなりの勇気が要るけど、俺なりにガチで悩んで出した結論だから、ちゃんと告げよう。
ホント、人生で最高に苦しくて、ハッピーな一日だったぜ。
あぁ、ケツいってぇ…。
◇◇◇
せっかく結論を出したのに、ケツの擦り傷が酷い。てか起きたらベッドに赤いシミが出来てた。これが夜の営みによるものだったらいいけど、単なる怪我による流血だから厄介なだけだ。
くそっ、マンガみたいに朝起きたら完治みたいな展開にはなんなかったぜ…。
8時過ぎ、そろそろ出掛ける時間だから、身を起こして制服に着替えるために立ち上がろうとした時…。
「うおおおっ!!」
「神威ー!! 朝からうるさいよ!! 発狂してないで早く支度して学校行きなさい!!」
母チャンに怒られちまったが、これはガチでヤバい。あまりにも痛みが酷くて立ち上がれない。よく考えれば、前回は目の前のコンビニから引き摺られて、今回は徒歩15分くらいの学校から引き摺られたんだ。そりゃ重症になるわ。昨夜に風呂入る時も予想外にヤバかった。
俺は仕方なく学校を休んで、万希葉と麗ちゃんに部屋まで来てもらった。いつも通り母チャンは仕事で留守だ。とりあえずテーブルの前に並んで座ってもらい、俺は麦茶を出して二人の正面に正座した。
「あのー、なんつーか、今日はわざわざ来てくれてありがとう!」
「もう、まさか学校休むなんて思わなかったわよ」
頬を膨らませる万希葉はちょっと可愛い。
「ごめんなさい、私が乱暴に引き摺ったから…」
一方でシュンとする麗ちゃん。可愛いけど可哀想だぜ…。
「いやいや、俺が頼んだんだから麗ちゃんは悪くないぜ。でさ、引き延ばしてもしゃあないから結論を云うぜ?」
万希葉と麗ちゃんは緊張の面持ちでゴクリと唾を飲んだ。やべぇ、こっちも緊張するぜ。
「俺は…」
うおおおおおおっ! 言うならば二人とも目を食い縛って涙目だぜ…。
「俺は、俺は、二人とも、二人とも好きです!」
うんうんと頷いて、で、どっちなの? と言わんばかりに続きを促す二人。
「だから、もうアレだ」
うおおおおおおっ!! 二人とも涙の上目遣いだああああああ!!
「二人とも、付き合って下さい!!」
俺は可能な限り深く土下座して、額を膝に着けた。
どうしようもない結論に、殴られ蹴られ気絶させられるのは覚悟の上。けど、これが悩み抜いて出した結論だ。これで二人にフラれても悔いはねぇぜ! と、思いたいっ!
「「………」」
あまりにも間が開いて不安になった俺は顔を上げ二人を見遣ると、唖然としていた。
「あのー、ねっぷ? それは、二股ってこと…?」
「まぁ、捉え方次第ではな。いわゆる一夫多妻だ。ある日は万希葉と、ある日は麗ちゃんと、ある日は三人で…」
「はぁ…」
煮え切らない空気の中、呆れ顔になる万希葉。
「わっ、私はそれでもっ、それでもいいです…」
「えっ!?」
麗ちゃんの申し出に驚いた万希葉から思わず声が出た。
「うおっ、うおっ…」
やべぇ、自分から告げといてアレだけど、まさか受け入れてくれるとは思わなくて、目から汗が…。
「ありがとう!! ありがと麗ちゃん!! あーりがとおおおおおおっ!!」
俺は嬉しさのあまり両手を差し出して、華奢で柔らかい麗ちゃんの両手を握り、上下にブンブンさせた。
「あっ、はい…」
頬を赤らめ動揺する麗ちゃんに、俺は精一杯感謝の意を告げた。
少し落ち着いてきたところで、万希葉を窺う。
「はぁ、負けたわよ。私、堂々と二股なんかされたら嫉妬でどうにかなっちゃいそうだもの。麗、このバカ、どうにかしてやってね?」
「えっ!? あっ…」
「そうか。ごめんな万希葉。俺、万希葉が初恋の相手でさ、バカだから他の女子より過剰なイタズラで愛情表現するしか出来なくて…」
やっべ、なんだかメッチャ恥ずかしくて頭ポリポリしたりニヤニヤしちまうぜ…。
「うん。知ってる」
言うと、万希葉は紅い頬を更に紅く染めた。
「私もねっぷが好きだし、ねっぷのキモチも気付いてたから、体育倉庫とか、人目のない場所でイタズラされた時は、イヤだとか言いながらも、割と大人しくしてたでしょ?」
「おぉ、あれはそういう意味だったのか」
「気付けバカ」
「すんません…」
「だからせめて、これくらいはさせて?」
言いながら、万希葉は俺の横に這い寄った。
チュッ!
!?
唇に感じた柔らかな感触は、これまでのスキンシップで一番ドキドキした。
「ふふっ! じゃあ二人とも、幸せにね!」
万希葉は鞄を持って、そそくさと部屋を出て行った。
嵐の‘後’の静けさ。聞こえるのは部屋を散歩するごきぶりんの足音だけ。
胸のドキドキが治まらなくて、魂を解放するかの如く呆然としていた俺は、ふと我に返ると、どうすれば良いのか分からず目の遣り場に困る麗ちゃんを捉えた。
「麗ちゃん」
「はい!?」
麗ちゃんも我に返り、真っ直ぐ俺を見た。
「これから、よろしくな!」
動揺を抑えつつ、俺は笑顔を作り、改めて右手を差し出した。
麗ちゃんは照れ笑いして目を逸らそうと右下を向こうとした顔をこちらに戻し、同じく右手を差し出した。
「うん! こちらこそ、よろしくね!」
二人は照れ笑いのままガッチリ握手を交わし、幸せな未来を想像した。
俺たちの物語は、ようやく始まりを迎えたのだ。
言っとくけど打ち切りじゃねぇぞ! 本当にこれから始まるんだからな!
あぁ、ケツいってぇ…。
~『さつこいNEXT!』に続く!~
ご覧いただき本当にありがとうございます!
結局、神威は最終話まで自分に正直でした。
ところで皆さま、下ネタ満載のこの物語は全69話で完結です。69ですよ! 69!
今回で『神威編』としては終了となりますが、神威と麗、他のキャラクターの恋模様は近日スタート予定の『さつこいNEXT!』をお待ち頂ければ幸いです。
今後とも何卒宜しくお願いいたします!




