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さつこい! 神威編  作者: おじぃ
北海道での日常編2

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モテる男はツライぜ

 万希葉に迫られた俺は、されるがまま床に崩れ堕ちた。心臓もバクバクして焼かれるみたいにやべぇけど、ムスコが、ムスコがやべぇぞ!


「おいおい、エロい俺が言うのもアレだけど、ノリとか勢いでするモンじゃねぇぞ」


「…うん。わかってる。ノリとか勢いじゃないもん」


「えっ?」


「気付いてないの?」


「…何を?」


 っていうか、ガチ? この俺が? 万希葉に? いやいやでもよ? 俺、スカートめくりとかパイタッチだけじゃなくて、露天風呂に襲撃したんだぜ? 嫌われるならまだしも好かれる要素はねぇぞ?


「好きなの! 私、ねっぷが好きなの!」


 至近距離、俺の肩に凭れる万希葉の表情は判らない。だけど、火照って呼吸を荒げるカラダから伝わるのは、確かなキモチ。そんくらい、俺でも解った。


「バカ…。気付いてよバカ! 中学の時から、ずっと好きなのに…」


 グスリ、たぶん、鼻を啜って泣いてる。俺は混乱して黙ってると、万希葉は俺の両肩を掴んだまま手を突っ張って、くしゃくしゃになった顔を見せた。


「なによ、なにボケっとして…。ぐしゃぐしゃにしてよ! イヤなこと、ぜんぶ忘れられるくらいぐしゃぐしゃにしてよ!」


 涙ぐんで俺の肩をドカドカと叩く万希葉に、どう対応すべきがわかんない。ただただ混乱するばかりで、揺さぶられてる頭の中には、あるビジョンが浮かぶ。


 ああ、俺ってやっぱダメなヤツだ。こういう時、いつもみたいに欲望に身を任せられればいいのに。けど、よぎるんだ。もう一人の大切な女の子の笑顔が。




「私も…」




 開けっぱの出入口から、細い声が聞こえた。汗だくの俺と万希葉は、そっちへ振り向く。立っていたのは今、俺の脳裏に過った笑顔の主。


「わっ! 私も! 神威くんが好きです!!」


 普段の麗ちゃんからは想像できない叫び声。


「麗…」

「麗ちゃん…」


「神威くんは、何人もの女の子にちょっかい出して、心底嫌がられて、どうしようもない人だけど…」


 おいおい麗ちゃん、結構言ってくれるじゃねぇか…。


 っていうかおい!! 麗ちゃんも俺が好きだと!?


 そうかそうか、解ったぞ。俺はすべてを理解した。


 いやぁ、こんな状況でも冷静な判断ができる俺、さすが神だぜ!


「麗ちゃん、ちょっとお願いがある」


「はっ、はい?」


 ◇◇◇


「いってぇ…。ケツいってぇ…」


 俺を気絶させて、うちまで引き摺ってもらうよう麗ちゃんにお願いした。目覚めた時にケツが痛かったら現実リアルだし、痛くなかったら欲望に導かれしムフフな夢ということだ。


 んで、ケツ痛いってのはつまり、現実だったんだ。


 ごきぶりんと二人っきりの真っ暗な部屋のベッドで、俺は一度深呼吸をした。


 頭に浮かぶ、万希葉や麗ちゃんと過ごした日々や笑顔。スカートめくりして火鉢を投げられたり、気絶させられたりしたのも良き思い出だ。


 俺はこの恋に、結論を出さなくちゃいけない。


 気絶させてもらう前、俺は約束したんだ。もしこれが夢じゃなかったとしたら、目覚めた時に、ちゃんと考えるって。


 だってそうだろ? エロいことばっかして女子に嫌われまくりのこの俺だぜ? そんなヤツが学園アイドルに押し倒されたり、ダブル告白されたんだぜ? しかも二人とも好きな相手ときた。フツーはドッキリか夢オチかと思うだろ?


 だけど、ドッキリにしては表情が真剣だったからそれはないなと。


「ごきぶりん、俺、どうすりゃいいんだ?」


 暗闇で姿の見えないごきぶりんは、僅かに羽音を発てて、困ったように返事した。


「ふぅ。モテる男はツライぜ…」

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 次回、いよいよ最終回!


 完結後は新シリーズをご用意しております!

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