モテる男はツライぜ
万希葉に迫られた俺は、されるがまま床に崩れ堕ちた。心臓もバクバクして焼かれるみたいにやべぇけど、ムスコが、ムスコがやべぇぞ!
「おいおい、エロい俺が言うのもアレだけど、ノリとか勢いでするモンじゃねぇぞ」
「…うん。わかってる。ノリとか勢いじゃないもん」
「えっ?」
「気付いてないの?」
「…何を?」
っていうか、ガチ? この俺が? 万希葉に? いやいやでもよ? 俺、スカートめくりとかパイタッチだけじゃなくて、露天風呂に襲撃したんだぜ? 嫌われるならまだしも好かれる要素はねぇぞ?
「好きなの! 私、ねっぷが好きなの!」
至近距離、俺の肩に凭れる万希葉の表情は判らない。だけど、火照って呼吸を荒げるカラダから伝わるのは、確かなキモチ。そんくらい、俺でも解った。
「バカ…。気付いてよバカ! 中学の時から、ずっと好きなのに…」
グスリ、たぶん、鼻を啜って泣いてる。俺は混乱して黙ってると、万希葉は俺の両肩を掴んだまま手を突っ張って、くしゃくしゃになった顔を見せた。
「なによ、なにボケっとして…。ぐしゃぐしゃにしてよ! イヤなこと、ぜんぶ忘れられるくらいぐしゃぐしゃにしてよ!」
涙ぐんで俺の肩をドカドカと叩く万希葉に、どう対応すべきがわかんない。ただただ混乱するばかりで、揺さぶられてる頭の中には、あるビジョンが浮かぶ。
ああ、俺ってやっぱダメなヤツだ。こういう時、いつもみたいに欲望に身を任せられればいいのに。けど、過るんだ。もう一人の大切な女の子の笑顔が。
「私も…」
開けっぱの出入口から、細い声が聞こえた。汗だくの俺と万希葉は、そっちへ振り向く。立っていたのは今、俺の脳裏に過った笑顔の主。
「わっ! 私も! 神威くんが好きです!!」
普段の麗ちゃんからは想像できない叫び声。
「麗…」
「麗ちゃん…」
「神威くんは、何人もの女の子にちょっかい出して、心底嫌がられて、どうしようもない人だけど…」
おいおい麗ちゃん、結構言ってくれるじゃねぇか…。
っていうかおい!! 麗ちゃんも俺が好きだと!?
そうかそうか、解ったぞ。俺はすべてを理解した。
いやぁ、こんな状況でも冷静な判断ができる俺、さすが神だぜ!
「麗ちゃん、ちょっとお願いがある」
「はっ、はい?」
◇◇◇
「いってぇ…。ケツいってぇ…」
俺を気絶させて、家まで引き摺ってもらうよう麗ちゃんにお願いした。目覚めた時にケツが痛かったら現実だし、痛くなかったら欲望に導かれしムフフな夢ということだ。
んで、ケツ痛いってのはつまり、現実だったんだ。
ごきぶりんと二人っきりの真っ暗な部屋のベッドで、俺は一度深呼吸をした。
頭に浮かぶ、万希葉や麗ちゃんと過ごした日々や笑顔。スカートめくりして火鉢を投げられたり、気絶させられたりしたのも良き思い出だ。
俺はこの恋に、結論を出さなくちゃいけない。
気絶させてもらう前、俺は約束したんだ。もしこれが夢じゃなかったとしたら、目覚めた時に、ちゃんと考えるって。
だってそうだろ? エロいことばっかして女子に嫌われまくりのこの俺だぜ? そんなヤツが学園アイドルに押し倒されたり、ダブル告白されたんだぜ? しかも二人とも好きな相手ときた。フツーはドッキリか夢オチかと思うだろ?
だけど、ドッキリにしては表情が真剣だったからそれはないなと。
「ごきぶりん、俺、どうすりゃいいんだ?」
暗闇で姿の見えないごきぶりんは、僅かに羽音を発てて、困ったように返事した。
「ふぅ。モテる男はツライぜ…」
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次回、いよいよ最終回!
完結後は新シリーズをご用意しております!




