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さつこい! 神威編  作者: おじぃ
北海道での日常編
6/69

ボーイズトーク

 残念極まりないことに新聞部が休みの木曜日、俺は親友の勇と一緒に、札幌(さっぽろ)駅前のビルにある名店街、『札幌ら~めん共和国』で旭川(あさひかわ)の醤油ラーメンを賞味していた。さすが麗ちゃんの故郷、旭川のラーメン。豚骨、鶏ガラ、魚介のダシが見事にマッチして臭みのないマイルドな味だぜ。


「ぷはぁ、うんめぇ!! ごちそうさま!!」


 スープを飲み干してどんぶりを置くと、対面に座る勇はまだ半分くらい残っている麺にがっついていた。


「勇は食うのおせぇなぁ」


「何言ってんだ。これは替え玉だ」


「な、なにいっ!? いつの間にお代わりしてたんだ!?」


 店員さんが来て替え玉入れるとこなんか見なかったぞ? まさか勇のヤツ、食べるの遅いっていうコンプレックスを隠すために、実はまだ一杯目なのに替え玉だなんてパチこいてやがんのか? 安心しろ勇。食べるのが遅いくらいでお前を見下したり嫌うような俺じゃないぞ。


 でも勇って、いつも俺より食うの早いよな。今日は調子悪いのか?


「ねっぷが何を妄想してたんだか、ニヤニヤしながら幸せそうにチャーシューを頬張ってた頃だ」


 そういうことか。あの時は妄想に夢中で周りが見えてなかったかもしれん。


「あぁ、あれはな、いつか麗ちゃんと一緒にこうやってラーメン食べに行ったり、旭山(あさひやま)動物園行ったりしたいなと思ってだな」


「麗ちゃん? 名前で呼び合う仲になったのか?」


「いや、俺が心の中で勝手に呼んでるだけ。麗ちゃんに面と向かって呼んだら、戸惑わせたり、ドン引きされるリスクがあることくらい、バカな俺でも解ってるさ」


「なるほど。でも『麗ちゃん』と呼びたい衝動が抑えられなくて、俺の前ではそう呼んでいると」


「イエス! さすが親友! 心の友よ!」


 二人の友情は更に深まり、お互いに右手で握手を交わした。


 ◇◇◇


 ら~めん共和国を出た二人は場所を近くのファミレスに移し、ドリンクバーをお供に、うだ~っと背もたれに寄り掛かり、やる気なさげにボーイズトークを続けた。着席位置は神威が通路側にある一般的な木の椅子、勇は奥のソファー席だ。


 ドリンクは、神威がコーラとレモンスカッシュ、メロンソーダと乳酸菌入り炭酸飲料にオレンジジュース、コーヒー、烏龍茶と、コーンスープ、コンソメスープにワンタンと春雨のスープのブレンド。勇はコーラとレモンスカッシュというシンプルなブレンドだ。


 コールドドリンクとホットスープをブレンドし、もはや何なのか分からない、ワンタンと春雨入りの、冷えてパサパサに固まった(あぶら)とワンタンスープの刻みネギが浮き、どんより濁った焦げ茶色のカオスドリンクを心底美味しそうに飲む神威に、勇が氷より冷たい視線を送るのはいつものこと。神威は味音痴というよりは、好き嫌いが少ないのだ。


 神威いわく、ラーメンを食べたばかりで腹八分(はらはちぶ)なため、好きなものをそれぞれ一杯ずつは飲めないから、一つのグラスに少しずつブレンドしたのだという。お腹に入ればみんな一緒という発想だ。


「俺たち、ラーメン屋からファミレスに場所移したじゃん?」


 春雨をずずっと(すす)ったところで、神威が会話を切り出した。


「あぁ。それが?」


「これって、居酒屋ハシゴするオッサンの心理と似てね?」


 どうでも良さそうな事に気付いた神威は、若干ドヤ顔気味に勇の目を見る。


「そうだな。言われてみれば。で、それが?」


 若干ドヤ顔気味に迫られた勇は、動じることなく項垂れたまま、話の続きを促した。


「っていう事はな、俺たちって将来、飲ん兵衛になるんじゃないかと予測できるわけですよ。解るかね? ワト〇ン君」


 神威は先ほどより強めのドヤ顔で勇の目をじろりと見た。


「なるほどな。じゃあ将来、心理学者にでもなって、留萌さんを養えるくらい稼いだら?」


 勇は神威のドヤ顔と、どこかの名作ネタをスルーして軽い冗談を言った。


「おお!! さすが勇!! すげぇ名案!! なんか俄然やる気出てきたわ!! よし、今日から心理学勉強するぞ!! そーだ、景気付けにクリームソーダ注文しちゃお♪ なんちて。がーはっはっはっ!!」


 軽い冗談を本気にしてしまった神威。そうだ、コイツは意中の女に好かれるためなら何でもするようなヤツだと、軽い口を叩いたことを内心後悔しつつ、どうせ勉強なんて三日坊主だろうと高を括る勇であった。


「そうか。でも店の中で大声出すなよ。あと、ソーダの駄洒落、ギャグセン抜群だな」


 テンションが上がるとつい大声を出してしまう神威は、よくこうして勇に諭されるのだ。ちなみに、ギャグセン抜群というのはイヤミである。


「はっはっはっ! そうだろそうだろ! 俺のギャグセンはお笑い芸人の斜め上を行くぜ!」


 その後、神威は宣言通り缶詰のサクランボがトッピングされたクリームソーダを、勇はクールそうな顔に似合わず果肉たっぷりのいちごパフェを頂いて帰宅した。


 参考までに、二人の顔のレベルは、神威が中の中で、少し熱血漢っぽい。対して勇は中の上、クールで少し甘い顔立ちである。体格は二人とも細マッチョで、身長は神威が約170センチ、勇が約175センチだ。


 少しイケメンで割と常識人の勇が今年のバレンタインデーにチョコを一個も貰えず、日頃からモテないのは、変態変人の神威とつるんでいて、周囲から「勇も実は変人なんじゃね?」と疑問を抱かれているためというのが、いくつかある理由の一つである。それでも彼は、親友の神威を大切にしているのだ。(おとこ)の友情というものは、時に恋愛にも(まさ)るのである。


 ◇◇◇


 よ~し、今日から頑張って心理学勉強するぞ~!! んで、学者になって麗ちゃんを養えるくらい稼ぐんだ!!


 気合い充分の俺は、さっそく心理学の入門書を買って、自宅へ戻るなりすぐ勉強を始めた。


 なになに? マイノリティインフルエンス? なんだそれ? インフルエンザの一種か?


 え~と、ペルソナ? ああ、これは聞いた事あるぞ! ゲームのタイトルだ! でもなんで『ペルソナ』が心理学の本に?


 入門書の中には聞いたことない単語や、あっても意味を知らない単語が溢れていた。


「あぁ、だめだ! わかんねぇ。でも、麗ちゃんを養うために手に職つけるぞー! 気合いだ!! 勇気だ!! こんっじょーだぁぁぁ!!」


「うるさいわよ!」


 おっと、気合いを入れたら隣のリビング越しに母チャンから怒られた。


 今日は勉強開始から三分で投げ出した俺だが、入門書を通学カバンに入れて持ち歩き、麗ちゃんとともに人生を歩むため、気が向いた時に勉強しようと少しくらい思ったのであった。


 この時の俺は、心理学の勉強が後に思わぬ事態を招こうなど、予想だにしていなかった。

 高校生の時、私も友達とラーメン屋やファミレスによく行きました。それが大人になると居酒屋にシフトするんですね。

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