我、試サレル大地ヘ帰還ス
いま俺たちは、最高時速45kmで一気に上昇するランドマークタワーのエレベーターに乗っている。
うおおおおおお! 急な気圧変化で耳が痛いぜ! なんだか興奮してきたあああ!!
「うほーいっ!! ぐおっ!?」
「雄叫びは密室じゃなくてステージで上げろ!」
うおおおおおおっ!! なーんてこったあああーっ!! 密室に雄叫びがこだました途端、静香にタマタマ蹴られたあああっ!!
「うおおおおおおっ…」
あまりもの激痛に、俺は縮こまって股間を押さえる。
麗ちゃんとエレベーターガールが唖然と俺を見る。
やめてくれ、視線が痛みを増幅させる…。
エレベーターを降りると目の前にはなんと空が広がっていた。その下に密集する建物やゴミのような下々の者たち。ははははっ、神はいつでもお前らを見てるぜ…。
「う、うほーい…。絶景だぜ…」
さすが地上273メートル! だが、タマタマの激痛が治まらなくて声が出ない。
「大丈夫?」
うおおおおおおっ!! 麗ちゃんが心配して声掛けてくれたぜ!!
「あ、ありがとう…。麗ちゃんは優しいな…」
だが痛みで喜びを存分に表現出来ねええっ!!
「バイ…」
麗ちゃんが何か言いかけた。
「ばい?」
まさか、俺がタマタマを蹴られて元気ないから、バイアグラでも勧めてんのか!?
「札幌のTV塔の倍以上高いね」
あ、そうだな! まさか清楚な麗ちゃんがバイアグラなんてな!
でも、たまに俺みたい事言うから、バイアグラくらい言っても『らしくない』とは言い切れないんだよな、麗ちゃん。
ま、もしそうだとしたら俺と気が合っていいけどな!
ちなみにさっぽろテレビ塔の展望台は地上90.38メートルだ。それでも『うほーい!』って雄叫びを上げられる高さだぜ!
「おう、そうだな! 海も見えるし山も見えるし絶景だぜ!」
東京湾と、端が見えないくらい長く横たわるのは丹沢山系だっけか? すぐ下にあるパシフィコ横浜もヨットのおもちゃみたいにちっちぇえぜ!
ランドマークを出たらランチターイム! 14時までは自由時間だぜ! 遅れたら自費で帰らなきゃいけないらしいが、所持金は生憎3千円くらい。これじゃ格安航空でも帰れねぇぜ! いざって時は航空貨物便か貨物列車で帰るか! 確かどっちも東京から出るヤツがある筈だ。問題はどうやって貨物に紛れ込むかだな!
修学旅行最後のランチは小洒落た店の高級ハンバーガー。分厚いハンバーグにトマトやレタスが挟んであるシンプルなものでも、ポテトとドリンクがセットで700円以上。これが腹を満たせそうなメニューの中で最安だから、俺はこれにした。勇と静香は俺と同じメニュー。麗ちゃんはサーモンとアボカドとオニオンのサンドイッチ、万希葉はローストビーフとブルーチーズのサンドイッチと、少々軽めのメニューだ。二人とも省エネだな!
集合時間にギリギリ間に合った俺たちは、貸し切りバスで無事に羽田空港へ到着。搭乗手続きをして飛行機に乗り込んだ。
窓側になった俺の隣は万希葉で、麗ちゃんは俺のすぐ後ろ、隣は空席だ。
通路を隔てて万希葉の隣に座る勇は震えが止まらなかったから、右隣の席になった静香に腹を殴ってもらって離陸前に気絶させた。
飛行機は滑走路に入ると一気に加速して離陸。暫く旋回して雲の上に到達した。ここで雄叫びを上げると隣の怪物ちゃんに殴られそうだからやめておいた。
「ねっぷ、いま何か失礼なこと考えてなかった?」
なっ!? コイツ、エスパーか!?
「別に万希葉を暴力怪物女だなんて思ってねぇよ」
瞬間、ふと万希葉の拳が俺の側頭部に近付いたが、寸止めされた。
「ちょっと何よそれ!? 私は暴力なんかしないし!」
「じゃあその拳はなんだ」
「あぁ、これはねっぷを殴ろうとしたんだけど、やったら思うツボだと思ってやめたの。ちなみにねっぷには特例で暴力OK」
爽やかな笑顔で親指をグイッ! と突き立てる万希葉。
「なんだと!? 俺をなんだと思ってんだ!?」
「オ〇ニーマシーン」
「公共の場でそういう事を言ってはいけません」
「チャーター便だからダイジョブで~す」
ったく、チャーター便だからと言っても場をわきまえないとだな。麗ちゃんに聞こえたらどうすんだよ。まぁ、俺がエロいヤツだなんて、麗ちゃんにもバレてるけどな…。
「お客様、失礼いたします。お飲みものはいかがなさいますか?」
今の会話、多分キャビンアテンダントに聞かれてたな。
「オレンジジュースプリーズ!」
「あ、アイスティーお願いします…」
頬を赤らめ気まずそうに注文した万希葉。ひっひっひっ! ざまぁ見やがれ!
何はともあれ、俺たちの修学旅行は無事に終了! でめたしでめたし!
長らく続きました『修学旅行編』にお付き合いいただき本当にありがとうございます!
次回からは北海道での日常に戻りますが、旅行前の日常とは少々テイストが異なるものになりそうです。




