修学旅行最終夜
湘南で地元の先輩たちと遊びまくった俺たちは、ホテルに戻り食事とシャワーを済ませて後はとうとう夜長を過ごすのみとなった。
俺と勇は部屋で俺が見たいバラエティー番組と勇が見たい経営関連の番組を見て、締めにニュースで今日の出来事をチェックした。
そうそう、テレビといえば神奈川のローカル局、『tvk』は深夜、全ての番組が終了すると、俺たちが泊まっている横浜の夜景のCGアニメが流れて、日本語で何か言った後、英語で何か言う。ぶっちゃけ最後の『See you tomorrow!』しか覚えてないけど、なんだか洒落てるぜ!
「さてさてイサームくん、最後の夜ですなぁ」
「最後の夜ってなんだか明日死ぬみたいで不吉だな。それにイサームって誰だよ。あぁ、飛行機乗りたくねぇ。俺、このままこっちに住もうかな」
「飛行機は気合いで乗り切るか、水菜ちゃんと一緒に『カシオペアスイート』で帰るかだな。イサームはサホロスタン共和国の王だ。知らねぇのか?」
『カシオペアスイート』は、東京の上野と札幌を往復する銀色の寝台特急『カシオペア』の最後尾にあるスイートルーム。メッチャ広くて人気があるから、なかなか予約出来ないらしい。
これは中坊の時から知ってたぜ! いつか彼女が出来たらロマンチックな寝台特急で満天の星空の下、二人はカラダを重ね合う。ってプランを練ってたからな!
「知らねぇよ。俺もまだまだ世間知らずだからな。あぁ、それより俺、寝台特急で帰ろうかな~。不入斗が寝台特急で帰るかどうかは知らんが」
勇が知らないのも無理はない。俺がたった今考えた国だからな! でもマジであってもおかしくなさそうな国だろ!
「んでよ、水菜ちゃんとはどうなんだよ。色々イイ感じじゃねぇか」
勇みたいな張り詰めがちなヤツには水菜ちゃんみたいな明るい子が必要だと思うぜ。
「ん~、まぁその、なんていうかだな…」
勇のヤツ、照れて焦点が定まってないぜ。
「まっすぐでイイヤツだよ。俺みたいな捻くれ者には勿体ないくらいにな」
「うおっ! 脈ビンビンだな! 両想いだな!」
そうだそうだ! 人生素直が一番さ!
「でもよ…」
「なんだなんだ、男ならドーン!! と行け!! ドーン!! とな!!」
人生、時にはノリと勢いも大事だ! 小心者の勇は慎重になり過ぎてるな!
「まぁ勢いも必要なんだろうけど、今の俺じゃ、不入斗に何が出来るのか、わかんねぇんだよ。してもらうばっかりで、いつの間にかそれに胡座をかいて、結果的に不入斗を不幸にする自分を想像しちまって、どうにも踏み出せない」
俯いて物憂げに語った勇。なるほどな、真面目なヤツだぜ。
「そうか。それは水菜ちゃんに対する勇なりの愛のカタチだろ?」
ヒューヒューヒュー!! バッチリ『ラブ注入』してんじゃねぇか!!
「愛っていうか、なんつうか…」
だが、きっと、恐いってのもあるんだろな。付き合った後に見えてくる色んなものが。俺も好きな人には嫌われたくない。
「うちさ、父親がどうしようなくて、母親はキツキツだけど古風で尽くすタイプなんだわ。んで、前にも言ったが離婚寸前」
言いたいことは大体わかったぞ。勇はオヤジさんと同じ過ちを繰り返したくないんだな。
「おう、でもよ、勇はそういうの見て育って、こうなっちゃいけねぇっての理解してんだろ」
「まぁ…」
「だったら後は勇の根性次第だ。大丈夫、“折れ”そうになったら“俺”がついてる。なんてな! がーはっはっ! 今のシャレ解ったか!?」
いやー、俺って天才だな! 重い話題も和やかムードに変える! 神たる俺はみんなのお天道様だぜ!
「ねっぷ、割と頭イイよな」
「わーはっはっ! そうだろそうだろ! 俺の頭の良さを理解してるヤツは神威マニア認定だ! 特典として俺が入手したエロ画像を共有できるほか、俺が新聞部魂を以って集めた気になるあのコ、勇なら水菜ちゃんのインサイダー情報をゲット出来るぜ!」
「なんか微妙だな」
「なんだと!?」
コイツめ、まだまだ特典が足りないってか!? でも大丈夫! 神威マニアゴールドに認定されれば気になるあのコの隅々まで知れるぜ!
まぁそれはさておき…。
「まぁでもよ、ちっちぇえ事でもいいから、言いたい事があればなんでも言ってくれよな。そん時は一緒に悩もうぜ!」
これがダチってもんだからな!
「サンキュー」
「おう」
言って、俺と勇は右手でガッチリ握手を交わした。
「で、ねっぷはどうなんだよ」
「ん? 俺ん家は母チャンしか居ねぇし父チャンの記憶はないぞ。だから心配いらん」
「あぁいや、それも大事だが、そっちじゃなくて、留萌さんと万希葉についてだ」
「どっちが好きなんだ? ってか?」
「あぁ。ねっぷが二人の間で揺れてんのが俺にも判るぞ」
「さすが親友。俺のハートに敏感だぜ。そうなんだよ。迷ってんだよ」
ってか、俺はあの二人の何を見てるんだろ? 二人とも美人で魅力的だ。
万希葉は普段は強気だけど、実は強がってるだけで、今はストーカーに追われて困ってる。んで、何より姐御肌で優しいヤツだ。だから俺はそんな万希葉を守りたい。
麗ちゃんは清楚で動物好きで優しくて、引込思案だけど、たまに面白い事言ったりして、たまにだけど、俺の前では笑顔を見せてくれて、部活の面子とか、最近は万希葉や静香とも仲良くなってきたみたいで嬉しい限りだ。
でだ、俺は結局、二人の笑顔が好きなのだが、過去の恋を振り返っても、優しい笑顔に惚れては玉砕してんだよな、コレが…。これで殆ど喋った事ない留寿都あたりに優しい笑顔を振り撒かれたらどうなるかわからん。
「どうやら、結論は出ないみたいだな」
俺が黙り込んで悩んでいる間、ずっと待っていた勇が察したようだ。
「あぁ。だが俺は惚れっぽい性格だってのを再認識した」
「そうか。まぁ、恋は焦らず、だな」
「おう! 恋は知ったが愛を知るにはもうちょい時間が掛かりそうだ。よし、今宵は宣言通り、麗ちゃんをオカズにオナッてくるわ!」
「あ、あぁ…」
呆れ顔の勇をベッドに残し、俺はユニットバスに入り暫しの悦楽に浸った。
ご覧いただき本当にありがとうございます! 本日は臨時更新でございます。
次回で『修学旅行編』はラストです!




