ごちそういただきます!
みんなが食卓に揃ったところで、『いただきます』を言ってランチタイムの始まりだ。
せっかく麗ちゃんが卵焼きを作ってくれて、万希葉が励ましてくれたんだから、気を取り直そう。
「なんか俺の分だけ卵焼き多くないか?」
そういや、卵焼きみたいなおかずは一枚の皿をみんなで突き合う料理のような気がするが、今回は個別に分けられている。それで何故か、勇の皿だけ大盛りだ。しかも焼き加減が異なる卵焼きがあり、みんなにも分けられた柔らかそうなタイプと、勇の皿にしかないしっかり火を通したタイプがある。
「はい! 勇せんぱいには特別に私が丹精込めた卵焼きをご用意しました!」
そうか! そういう事か!
「ヒューヒュー! いいね勇きゅ〜ん! 恋人の愛情たっぷりじゃねぇか!」
いいねいいねぇ! わざわざ勇のため“だけ”に卵焼きをねぇ!
「はい! むしろ妻です!」
そうだな! 来年になったら18歳だから結婚しやがれ!
「こらこら、勝手に発展させるな。まだ付き合ってもいないだろうが」
なんたる冷静な切り返し。時々思うが、勇って実は女性の扱い慣れてるのか? 少しくらい狼狽しても良かろうに。
「ムフフ、『まだ』、なんですね? という事はつまり将来的には…」
「なっ!? 深読みし過ぎだ! 『まだ』は蛇足だ。気にするな!」
あっ、やっぱ慣れてないんだな! 良かった良かった!
さぁ、俺は麗ちゃんが作ってくれた卵焼きを頂くか!
「うおっ、麗ちゃんの卵焼き美味いな!」
なんだこの外はサクッ! で中はトロッとした優しい食感は! さすが女神さまだぜ!
「あっ、ありがとう…」
恥ずかしいのか、麗ちゃんはふっと斜め下へ顔を逸らして少し頬を赤らめた。
うおおおおおおっ!! きたきたきたーあっ!! この胸に突き刺さる矢の如し攻撃力のある天使の笑顔! ちょっとぎこちない感じが尚良いぞ!
「いやいや、こっちこそサンキューな! みんなも食ってみ! マジで美味いぜ! あっ、勇は水菜ちゃんが作ったの食べてからな!」
「…」
勇はバツが悪そうに黙り込んだ。
「ふふっ」
二人のやり取りが可笑しかったのか、麗ちゃんと似た清楚なオーラを放つオハナさんが微笑んだ。やべぇぞ、超美人だぞ。広視さん曰く湘南海岸学園のアイドルなんだとか。
「いやぁ、オハナちゃんは可愛いなぁ!」
「えっ!?」
広視さんが率直な感想を述べると、オハナさんは沸騰したように赤くなり、オドオドし始めた。広視さん、プレイボーイだぜ…。
「ちょっと広視!? オハナちゃんが困ってるじゃない!」
ヤキモチなのか、膨れっ面のアロハさん。広視さん、そこそこイケメンなのに覗きとか軽い発言とかするから残念なんだよな。
一方、水菜ちゃんは卵焼きを口に運ぼうとする勇を少し不安気に見詰めていた。うんうん、緊張の一瞬ってヤツだな!
「おーい、麗〜、どうした〜」
麗ちゃんの右斜め向かいに座る静香がが心配そうに声を掛けた。
「ん? ううん、なんでもないよ」
麗ちゃんは努めて冷静に返事をしているようだが、少し冷や汗をかきそうな感じだ。知的な麗ちゃんだから、何か高尚な考え事でもしていたのだろう。
「普通に美味いな」
麗ちゃんに気を取られている間に、勇は卵焼きを食べたようだ。
勇の感想を聞いた水菜ちゃんは、さっきまで少し不安そうにしていた表情がぱっと華やぎ、涙を浮かべていた。おお! 嬉しいよな! 喜ばれると嬉しいよな!
「ありがとうございます! 私、これからも花嫁修行がんばります!」
「うほーいっ! やったな水菜ちゃん!」
「はい! でも、実は麗せんぱいが色々教えてくれて、そのお陰で美味しくなったのかもです!」
「えっ!? ううん、私は付き添っただけで特に何も…」
いやぁ、さすが麗ちゃん! 謙虚だぜ!
卵焼きを味わったところで、俺は湘南オハナさんがつくってくれた名物のしらす丼や、アロハさんが作ってくれた、サニーレタスの上にまるごと一個のトマトに十字の切り込みを入れて隙間にモッツァレラチーズと縮緬雑魚を載せた贅沢なサラダと、静香が焼いた湘南特産、高座豚のベーコンやハムを平らげた。
他に万希葉が作ったシャーベットあるらしい。食後のデザートが楽しみだ。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
そろそろ北海道に帰さねば。頭の中で物語は構築されていても時間の都合等で生産が追い付かない状況です。




