湘南の変態と北海道のケダモノ
江ノ島の出入口で俺たちを出迎えてくれたのは地元の湘南海岸学院に通う三年生の磐城広視さん 。俺に覗きのやり方を伝授してくれた師匠だ。
知り合ったのは昨年行われた合宿で訪れた福島県会津の温泉宿。
広視さんは俺が堂々と脱衣所から女湯に突入しようとしていたところ、やったら停学か退学になると止めてきた。
代わりに脱衣所の出入口に無線LANを搭載したカメラ付きの人感センサーを仕掛け、宿泊部屋のモニターから可愛い女子が通ったのを確認すると露天風呂の裏手に回って柵の隙間から覗き込んだ。
その際に近くを通り掛かった地元、福島県の草食系男子を道連れにしたのだが、覗きがバレた時、俺と広視さんがボコられて鼻から流血している傍らで、何故か彼奴だけは同じ学校の生徒と思われる女子たちから、見たいなら言ってくれればいいのに〜みたいなノリでチヤホヤされてたのをよく覚えている。
その後の展開が羨まし過ぎて爆発しろとか思ったのだが、これ以上語ると18禁になるのでやめておこう。
処分については男子は猥褻及び迷惑行為について顧問から厳重注意、女子は暴行に及んだため軽く注意を受け、いずれも停学や退学処分はなかった。
「出た湘南の変態」
「おいこら万希葉、広視さんに失礼だぞ」
俺は宥めるように言った。
「黙れ北海道のケダモノ」
「うるせぇ」
あの時、俺たちは万希葉のあれこれを見たし、俺に至っては興奮してあちこち触ったから強くは言い返せない。
江ノ島を出て、江ノ電やモノレールの駅前を通過し、商店街を市街へ向かって少し歩いたところを右折。更に坂を少し上って数分間歩くと芝生の敷かれた大きな庭のある豪邸が現れた。もしかしたらスネ夫の家より豪華かもしれない。
広視さんは豪邸の門前にあるカメラ付きインターフォンを押した。
「はーい、オレオレ詐欺ですかー?」
インターフォンからハスキーな女性の声が聞こえた。この辺はオレオレ詐欺のお宅訪問が多いのか?
「なんでそうなる!? オレだよ、オレオレ!」
「やっぱオレオレ詐欺じゃん」
広視さんもアロハさんの振りにノッてオレオレ詐欺師を演じている。
この二人、仲良しだな!
「とびっちょのシラスやんねぇぞ」
広視さんがカメラの前に小さなポリ袋をチラつかせた。
『とびっちょ』とは、江ノ島に店を構える新鮮なシラスを提供している、地元では評判の良い店らしい。
「ゴメンいま開ける」
ガチャッ!
広視さんの交渉により家主の承諾を得て門が解錠された。
庭を貫く石畳を勇者の如く50メートルくらい進むとようやく玄関に到達。数十秒のモーメントがあって、鍵穴が二つある黒く塗装された鉄製の厚い扉が内側へゆっくり開いた。
「いらっしゃーい北海道の皆さんと中二病×2」
「こんにちは。久しぶりだね」
出迎えてくれたのは烏帽子アロハさんとオハナさん。同じ年、同じ日に生まれた姉妹なのに双子じゃないんだとか。
髪型は二人とも肩甲骨あたりまでのロングだが、アロハさんは少しキリッとした顔立ちで、オハナさんはおっとりと柔和な顔立ち。
「おーす。まったくしょうがない。アロハの分のシラスは俺が戴こう」
「ゴメン広視と中二病×1に変更」
「おいおいアロハさん! そうなると残りの中二病は勇ってことか?」
「勇…?」
「俺です。はじめまして」
あ、そうか! 新入部員の勇とは面識がなかったのか!
「そして私が勇せんぱいの妻の不入斗水菜です! 茅ヶ崎に住んでたんですけど4月から札幌に引っ越しました!」
「つ、妻!?」
水菜ちゃんの神掛かった愛に驚愕するアロハさん。オハナさんも目を丸くしている。
「放っておいて下さい」
勇よ、もう君は水菜ちゃんから逃げられない。
他のみんなも挨拶をして、俺たちはリビングに招かれた。
アロハさんとオハナさんは料理を用意してくれるというのでキッチンへ向かったのだが、他の女性陣も付いていった。男子は音響スタジオでカラオケでもやって待ってろとのこと。
「勇せんぱい! 私、料理得意なんです! とびっきりのランチを用意するので楽しみにしてて下さいね!」
「お、おう…」
「おやおや勇きゅ〜ん、なんだか照れてらっしゃるのぅ」
「照れてねぇよ…」
微笑ましい二人を見てるとついニヤケちまうぜ。
俺たちは女性陣の手料理を楽しみにしつつ、広視さんに音響スタジオへ案内されカラオケの準備を始めた。烏帽子家の主は音楽プロデューサーをやっているらしいが、すげぇセレブだな。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
次回のカラオケシーンで、ある意味凄い歌を披露するかもしれません。




