江ノ島上陸だぜ!
昭和の雰囲気が微かに残る二車線の広々とした商店街の横断歩道を渡り、江ノ島電鉄江ノ島駅前の踏切を渡って土産物店が所狭しと立ち並ぶ勾配を下れば、目の前に広がる蒼い海と緑のクジラのような島が見えた。頂上に聳える白い灯台がちょうど潮吹きのようだ。
潮吹きって別に下品な意味じゃないからな!
「俺、生きてる。生きてるんだな! 生きてるって素晴らしい!」
どうやら勇は雄大な海を前に生きている喜びを噛み締めているようだ。
「がははっ! そうだろそうだろ! 生きてるって素ぅ晴らし〜い!」
勇よ、モノレールで失神せずによく耐えた。さすが俺の親友だぜ!
ただよ、あれは飛行機じゃねぇし俺には普通の電車よりもしっかりレールに固定されてるように見えたぜ!
余計なこと言うと普通の電車にも乗りたくないとか言い出しそうだから言わねぇけど。勇のヤツ、交通業界は向いてないな。
地下道を抜けて島へと架かる海上の橋を渡る。時刻は午前9時過ぎで、観光客の姿は疎ら。俺たちの横を地元の人と思われるママチャリが数台透かして行った。
並行する車道にはファミリーカーやバス、馬車が走っている。
って、馬車だと!? 噂には聞いていたが実際見ると興奮するぜ!!
「うおおおおおおっ!! 馬車が走ってるぜ!!」
いやぁ、つい雄叫びを上げちまった。やっぱ地元民の視線が痛いぜ! 北海道では降雪が日常であるように、湘南の人からすりゃ馬車くらい日常なんだろうからな!
「そういえば湘南では馬とかロバみたいなのが日常的に走ってるって聞いたことある。ここは藤沢だけど、隣の茅ヶ崎は特に多いって」
「なるほどな! 万希葉は牧場に居そうな動物の事情には詳しいな!」
がははっ! 我ながら上手いこと言ったぜ!
「なによそれ!? 別に関係ないし。まぁうちでは毎日欠かさず『牧場の朝』食べてるけどね」
『牧場の朝』というのはヨーグルトの商品名。さっぱりしてて毎日でも飽きない美味しさが特徴だ。
「万希葉はあの牛のキャラクターが好きなんだよな!」
静香に言われて、万希葉は少し頬を赤らめた。
「そうよ。だってなんかその、かわいいじゃない」
万希葉は割とクールなキャラで通ってるから可愛いキャラクターが好きなのが恥ずかしいんだな!
体育館とか音楽室のステージでハードな伴奏に合わせて歌ってる時とかガチでカッケーもんな!
でもな、俺たちにまで趣味趣向を隠す必要はないんだぜ!
「万希葉は俺に対しては乱暴になったりするけど本質的には優しいからな! だから優しい顔した可愛いキャラクターが好きなんだよな!」
「………」
万希葉のヤツ、顔真っ赤にして焦点が定まってない。
「お〜い、万希葉〜、ど〜した〜」
俺は万希葉の眼前で掌を上下動させ、意識の有無を確認した。
「へっ!? あっ、はいっ!?」
「なんだよどうした〜。熱でもあんのか〜? 生きてて良かったな!」
「そ、そうね。生きてて良かった。熱は平熱よ!?」
変な万希葉。せっかく褒めたのに。
「そうかそうか! ならいざ江ノ島観光レッツラゴー!!」
俺は拳を天に振り上げ、気合いのガッツポーズをした。
このタイミングで橋を渡り切り、江ノ島に上陸した。
「はーい皆さん! おはよーございまーす! ようこそ湘南、江ノ島へー!」
島の入口で待ち構えていた水菜ちゃんがお出迎え。
「グッモーニン水菜ちゃん!」
「おーす」
「おはよー!」
「チーッス!」
「おはよう」
「グッモーニンエブリワン! 今日は時間の許す限り地元、湘南の案内をしたいと思いまーす!」
地元の水菜ちゃんがガイドになって心強くなったところで、湘南観光スタートだ!
ご覧いただき本当にありがとうございます!
神威はなんというか、おバカさんですね!




