モノレールひゃほーいっ！
モノレール電車の登場と同時にメンバーの一人が蒼褪めたが、俺はむしろ逆だぜ。
「うおおおおおおっ！！ この電車、レールにぶら下がって走ってんぞ！！」
俺の気高き雄叫びに周囲からの視線を浴びる。このモノレールはレールにぶら下がって走行するようだ。やべやべ、興奮してつい。いやぁ、やっと目が醒めてきたぜ。
「あれ？ どうした勇？」
横浜駅では静香と元気にじゃれていた勇が顔面蒼白だ。
「電車が飛んでる…」
なんだ？ なんか訳わかんねぇこと言ってるぞ。もしかして勇のヤツ、脱法ハーブでも吸ったのか？ 両親が不仲だって言うし、かなり辛いのか？
「勇、電車は飛ばないぜ？ いくら俺でもそんくらいは知ってるぞ。何かあったなら遠慮なく俺に相談しろよな！」
幻覚を見るようじゃ相当だ。こりゃガチで勇と向き合わないとな。勿論今までだってガチで向き合ってきたが、それ以上だ。
「いや、飛んでるって。乗るのやめよう。他の電車とかバスとか、手段は色々あるだろう？」
そりゃ他にもルートはあるだろうけど遠回りだ。日が暮れちまうぜ。
「いいか勇、これは飛んでるんじゃない。ぶら下がってるんだ。ちょっとしたジェットコースターみたいで楽しそうじゃねぇか」
「ジェットコースター！？」
みるみる血の気が引いてゆく勇。あらら、余計ビビらせちまったか。ジェットコースターは飛ぶ乗り物じゃないって意味で宥めたつもりだったんだけどな。
「勇、もしかして怖いの？」
「ギャハハハハッ！！ モノレールにビビってるようじゃ宇宙進出できねぇぜ！？」
少々呆れ顔の万希葉と、面白がって茶々を入れる静香。
「別に宇宙進出しなくていい…」
さっきまで元気だったのに、下向いて完全に意気消沈だぜ。
ところが勇に突如、天からのお恵みが舞い降りた。あぁ、なんて有り難いのだろう！！ 俺も何か弱点見付けて恵まれたいぜ！！
「長万部くん、ジャスミンティーでも飲む？」
麗ちゃんは言いながら、革製の白い小さなバッグから、ペットボトル入りのジャスミンティーを取り出し勇に差し出した。貴女はなんて優しいんだ！！ さすが俺が惚れた女神さまだぜ！！
「ありがとう。留萌さんは優しいな…」
顔面蒼白な勇は女神さまに後で買って返すと告げ、ほのかに甘い香りのするジャスミンティーを一口含んだ。
くそっ、羨ましいヤツめ！ 俺も今からモノレール苦手になろうかと一瞬考えたが時既に遅しだ。あんだけ興奮した後にネガティブなこと言っても猿芝居だと思われて放置されるだけだろう。
まもなく降車側のドアが閉まって乗車側のドアが開き、俺たちは列に従って乗り込んだ。モノレールも満員状態だが、吊り革に掴まれる程度の混雑なら札幌圏でも日常だ。最後尾から乗り込んだ俺たちはドア付近に立った。
やがてキュイイイン！ と高周波ながら控えめな音を立てて発車した電車は加速力抜群で、レールにぶら下がって走行しているため、まるで飛行船にでも乗っている気分だ。ま、神たる俺でも残念ながら飛行船には乗ったことないけどな！
「うおお、飛んでるみたいだぜ」
「人がゴミのようだな」
俺と静香は興奮気味に移り行く景色を見下ろす。
高さは１０メートルもなさそうだが見晴らしが良く、下を歩く人々が少し小さく見える。
ガクガクガクガク…。
おっと失言。女神さまが与えたやすらぎで少し落ち着きを取り戻していた勇の震えが激しくなった。周囲の人々が不審者を見るような目で勇を見ている。なんという都会の冷酷。
勇よ、満員電車でションベンちびるなよ？
幾つか先の駅で殆どの客が降りたので、俺たちはオール４人ボックスとなっている席に着いた。勇だけ向かい側のボックスを占領し、蒼褪めたまま横たわっている。
景色は住宅街から山間に移り、本当に海の近くなのかと疑いたくなるくらいだ。クマはなくともイノシシやタヌキくらいは出そうな雰囲気だ。トンネルに入るとスピード感が増して一層の迫力だ。
「うほーいっ！ ガチでジェットコースターみたいだぜ！」
神奈川県民はジェットコースターさえも移動手段にしちまうのか！
「こらっ、勇が精神崩壊するからそういうこと言わないの！」
おっといけねぇ、万希葉に怒られちまった。しかしモノレールでビビるようじゃ勇もこの先思い遣られるぜ。
「万希葉、ねっぷの母親みたいだな！」
「は、母親！？ そ、そう、かな…？」
万希葉は近所に住んでるから俺の母チャンと面識あるんだよな。静香とは面識ないから悪意はないんだろうけど、あんなボテボテナマハゲと一緒にされて可哀相に…。
万希葉も母チャンに気を遣ってか否定しない。でも何故か頬を赤らめてる。万希葉くらい美人になると逆にボテボテナマハゲに憧れるのか？ そうだとしたら悪趣味だぜ…。
あれ？ 母チャンがナマハゲってことは、俺の父チャンもやっぱ鬼なのか？ 日曜朝のアニメみたいに、大して悪いヤツでもないクセに、世界を最悪の結末にしてやるとか言いながら人々をブルーにするのが仕事だったり？ あのアニメ、ギャグセン高くてハマるんだよな！ 子供向けなのに高校生でも見てるヤツ結構多いぜ。
色々考えてるうちに電車は終点の『湘南江の島』に到着。
ぐふふ、ついにこの時が来たな。島に着いたら秘密兵器を使って麗ちゃんにアピールするぜ！
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当作品は毎週日曜日の更新を基本としておりますが、物語の進行に遅れが生じておりますため本日水曜日に臨時更新させていただきました。
