カムイゴッドウォーター
俺や勇と静香が部屋でじゃれているところに、麗ちゃんと万希葉が戻ってきた。二人してお出かけとは、ずいぶん仲良くなったもんだ。それともまさか万希葉のヤツ、麗ちゃんを脅してカツアゲとかしてねぇだろうな?
まぁ、万希葉は俺以外にはそんな事しねぇか。
「お待たせ。わざわざ来てくれてありがとう。二人とも、静香の子分になったの?」
万希葉が俺と勇に礼と意味不明な事を言った。
「いやぁ、そうなんだよ。コイツらが土下座して頼み込むからアタシも断れなくてな!」
「おい、ねっぷはともかく俺は何も頼んでないぞ」
「おいおい勇! ねっぷはともかくって、俺も何もしてないぞ!」
「したよな静香?」
「ああ、バッチリ土下座してたぜ!」
「ぬほあああっ! 捏造すんなあああ!」
勇と静香め、共同戦線で俺をハメやがったな!
「んで、話ってのは」
勇が部屋の出口付近に立つ麗ちゃんと万希葉の方を向いて尋ねると、万希葉が少し俯いて息を呑んだ。
「あ、あのね…」
「いいよ麗、私が言う」
なんだか神妙な面持ちの二人。おいおい、こりゃガチで乱交パーティーのお誘いか?
万希葉は麗ちゃんの肩に手を掛けて、小さな声で、しかし何かを決意したかのような意思の篭った口調で言った。
「あのね、私、誰かにストーカーされてるみたいなの」
へっ? ストーカー? 万希葉のヤツ、少し震えてやがる。こりゃガチだな。
「ストーカーだぁ? んなヤツ、アタシがぶっ潰してやんよ!」
数秒間沈黙した後、静香が威勢良く言い放ち拳を握ってガッツポーズを取った。
「いつ頃から気配があった?」
勇の問いに対し万希葉は、修学旅行の少し前くらい。学校に居る時に初めて気配を感じたと答えた。つまり犯人は学校の誰かって事だな。
「よっしゃ、そんな変態野郎、俺がションベンぶっかけてやるぜ!」
ストーカーよ、俺の聖なる新奥義、『カムイゴッドウォーター聖の舞』を浴びるが良い! 神聖な奥義だけに『神』にちなんだ単語の三重奏だぜ!
「ホントに!? 私が許す。どんどんぶっかけて!」
「いいぞねっぷ! たまにはイイコト言うじゃねぇか!」
「がーはっはっ! そうだろそうだろ!」
万希葉と静香の同意を得たし、これで堂々とぶっかけられるぜ! 神聖なる水を! 命の水を! ストーカーよ、有り難く浴びるが良い!
「おいおい、そんなもんぶっかけて相手を逆上させたらどうすんだ」
「なによ勇、だったらなんか良いアイディアでもあんの?」
勇に食ってかかる万希葉。そりゃそうだ。俺がションベンをぶっかけないと万希葉の身がピンチだからな。
「あるぜ。とびっきりのアイディアがな」
「なんだ勇、警察に相談したってきっと無駄だぜ?」
連中は事件が発生しないと動かないからな。そのせいでどんだけの命が犠牲になって、どんだけの人生が狂ったことか。
「ちげーよ。顔面に硫酸とか王水とかぶっかけてやんだよ」
「うおおおおおおっ!! 俺より上手が居たああああああ!!」
そんなもんぶっかけたら顔面が溶けるだけじゃなくて失明すんぞ!
「うるせぇなぁ。下品な事するよか良いと思っただけだ」
しかし神威はこの場にもっと酷い事を考えている者が存在するなど知る由もなかった。それが誰なのかはここでは内緒。
「あの、対処も大切だと思うけど、先ず犯人を特定しないと…」
「そうだな! 麗ちゃんの言う通りだ! 万希葉、目星は付いてるのか?」
「それがさっぱり。うちの学校、怪しいヤツだらけだから余計検討つかなくて」
「だぁよなぁ、公衆の面前でスカートめくりしたり、胸揉んだり」
「おいおい静香! それじゃ少し前の俺が怪しいヤツみたいじゃねぇか」
あれ? 俺が言い終えると麗ちゃんを除く三人の湿っぽい視線が…。麗ちゃん、遠慮がちに目を逸らしてくれてありがとう!
「言っとくけど俺は犯人じゃねぇぜ! 静香の言う通り堂々と突撃するからな!」
「それはそれで問題だし、よく今まで処分を食らわなかったと思うが、とりあえず万希葉はなるべく単独行動は避けるべきだ。静香とか、俺とかねっぷでも良い。出来れば留萌さんが居ると一番心強いがな…」
ん? 何を言うのだね勇くん? ストーカーがオオカミだとしたら万希葉はカモシカくらいの強さはあるかもだが、麗ちゃんは差し詰めウサギとかヤギくらいだぜ? 麗ちゃんが童話みたいにオオカミと友達なら話は別だが、ストーカー野郎と麗ちゃんに接点などある筈ない。
それに勇のヤツ、何故だか最後の方で失言したかのように吃ったな。
あ、そうか! 麗ちゃんがか弱い存在だってのに気付いたんだな! まったく、考えなしに発言しやがって! 麗ちゃんを傷付けたら例え親友でもションベンぶっかけちゃうぞ?
「よっしゃ! 万希葉は単独行動をしない! それに加えて俺は新聞部の敏腕ジャーナリスト! バッチリ犯人を突き止めてやるぜ! 先輩たちにも捜査要請するが、勇と麗ちゃんも協力してくれるかな!?」
「いいとも~」
力なく右手で拳を握って挙げる勇。ったく、勇は気合い足りねぇなぁ。
「い、いいともっ…」
勇を真似して、か弱く右手で拳を握って挙げる麗ちゃん。うほっ!? うほうほっ、うほほほーいっ! 麗ちゃん可愛すぎるぜ!!
「みんな、ありがとね」
しおらしく礼を言う万希葉を見てると、ストーカーの気持ちが分かる気がするぜ…。あぁ、俺ってヤツは麗ちゃんというお姫さまが在りながら、なんて罪な男なんだ…。
「がーはっはっ! 神たる俺がストーカー野郎に鉄槌を下してやるぜ! 行くぜみんな! 気合いだっ! 勇気だっ! 根っ性だあああっ!!」
おいストーカー! 勇に危険物ぶっかけられたくなけりゃあこっそり俺に自白してションベンぶっかけられやがれー!!
「だあああっ!!」
「だあっ!」
「だあ~」
「だ、だぁ…」
うほっ! やっぱ麗ちゃんは可愛いなぁ!
ご覧いただき本当にありがとうございます!
神威編は毎回下ネタばかりで恐縮ですm(__)m




