ぶっかけんぞ! その2
遥か北海道から何の用だか知らんが、見知さんから電話がかかってきたので受話をONにした。
シャワーを浴びる準備をしていたので服装はニンマリした『まりもっこり』が前身頃一杯に描かれたTシャツ一枚、オチン丸出しだ。勇は気を利かせたのかウォークマンで音楽を聴き始めたようだ。
「ちわーす! いまシャワー浴びる準備しててオチン丸出しっす!」
『やあやあねっぷ! キミが居ない部室は寂しくて、ついついイカを焼いてしまうよ』
「俺ってイカのニオイするんすか!?」
やべえ、新学期早々万希葉にイカ臭いって言われたけど、ガチなのか?
『いやいや、イメージだよ』
「イメージっすか…」
あぁビビった。ピュアな麗ちゃんはイカのニオイがナニを示すかは知らないだろうけど、どのみち体臭としてイイ感じしないもんな。
『ところでねっぷ、崎陽軒のシウマイは忘れてないよね?』
「バッチリっす! ちゃんと土産用の長持ちするやつ買いました!」
なんだ、やっぱ土産の心配か。
『そうかい! さすが神様は気が利くね!』
「ハッハッハッ! そうだろそうだろ!」
さすが見知さん! ジャーナリストだけあって神を見抜く目あるわ!
『ならば本題に入るとしよう』
「本題?」
なんだ本題って。新聞部次期部長の指名か? それなら麗ちゃんが適任じゃないか? ってか電話でするような話じゃねぇし。
『折り入って頼みがある。礼は弾むよ』
「なんすか? 神たる俺に不可能はないっすよ!」
『そうか。ならば…』
「ならば?」
麗ちゃんの寝顔を撮って送ってくれとか? 見知さん、麗ちゃんにべったりだもんな! 気持ちわかるぜ!
『麗姫のヌード、いや、下着やパンチラでも構わない! 何かハァハァ出来る画像を送って欲しいのだよ!!』
麗ちゃんの画像でハァハァ!? 妄想では何度もハァハァしている俺だが、下着姿やパンチラは今まで見てない!
「そんなウヒョヒョな画像、撮り方あったら教えて下さいよおおおおおお!!」
「ねっぷうるせぇ!! ウォークマンの音量15なのに雄叫びで音楽が打ち消されたぞ!!」
おっといけねぇ。勇に怒られた。
「スンマソ~」
『ありゃりゃ、勇クンに怒られてしまったようだね。オチン丸出しってことは、今はホテルの部屋かい?』
「そうっす!! 麗ちゃんの妄想し始めたらビンビンになってきました!!」
『そうかい。でもねっぷよ、妄想は勝手だが、好きなレディーの盗撮画像を私に送るつもりかい?』
あ…。
「あああああああああああああああ!! なんてこったああああああああああああああああ!!」
「うるせぇ『ゴキジェット』ぶっかけんぞ!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!! 俺としたことがっ!! 欲望のままに麗ちゃんを盗撮しようと企んで、撮れたら喜びを共有するために見知さんに画像を送ろうなどと一瞬でも考えてしまったっ!! 撮られた麗ちゃんは傷付きまくるぞ!! 最悪だ!! 俺は最低男だあああああああああああああああ!!」
なんか勇の声が聞こえたような気がするが、とにかく俺は最低だ。
「口が塞がらないならホウ酸ダンゴぶっ込んでやろうか」
「おっとすまんスマン素股。神たる俺でもホウ酸ダンゴには勝てねぇぜ」
ホウ酸ダンゴってのはゴキブリを撃退するために部屋の隅とか棚の中に置くダンゴだろ?
とてつもなく潔癖な俺はゴキブリなる生物とは滅多に遭遇しないから、どんな形の生物なのかもよく覚えていない。ま、寒い地方に住んでれば、潔癖じゃなくても遭遇率はかなり低いけどな!
『そうそう、麗姫との進展はあったかい? ヨコハマには港の見える丘公園とか山下公園とか、コスモランドとかランドマークとか、そもそも街そのものがデートスポットじゃないか』
イタイ所を突かれたぜ…。
ちなみに『コスモランド』ってのはホテルの目の前にある遊園地だ。観覧車はかなりデカイ。
「いや、それがその…」
港の見える丘公園はみんなで行ったし、山下公園は目の前にあるけど…。
『そんなことだろうと思ったよ。キミは日頃の態度の割に小心な部分もあるからね』
さすが見知さん。俺の深層を見抜いてやがるぜ…。
『単刀直入に言うと、キミは麗姫の前では本当の自分を隠しているだろう? 日頃はどうしようもなく卑猥なことを言って、今だってオチン丸出しなんて無駄で尚且つセクハラ発言をしたキミが、彼女の前ではムッツリさんだ』
「いや、だってほら、麗ちゃんは清純だし」
『ほぅ、清純ねぇ~』
なんだ? なんかおかしなこと言ったか? 麗ちゃんは清純だろ?
『そもそもキミは、麗姫と交際したいのかい?』
「そりゃもう! イチャイチャラブラブしたいっすよ」
『なら、ある程度は曝け出しで、直すべきところは直して、胸に支えるものなどなく健全なお付き合いをしたらどうだい。麗姫だってキミが卑猥な野郎だなんて承知しているし、キミだけが無駄な隠蔽をしたって致し方ないのだよ』
勇も言ってたけど、やっぱ俺がエロいヤツだってのは有名なのか。
「ハハッ、そうっすね。確かに見知さんの言う通りだぜ」
互いに名前で呼び合ったり、ファミレスでイイ感じになったりしたのに、距離感が縮まらない気がしてた理由が判ったぜ。俺の方から壁を作ってたのか…。普段は自分からぶつかってコミュニケーションを取る俺だが、女子にはちょっかいを出し過ぎて距離を取られたりしたから、それがなんとなくトラウマになって、麗ちゃんは大人しい性格ってのもあって、慎重になり過ぎてたのかもな。
「サンキューです見知さん。俺、壁ぶっ壊してみます」
『くれぐれも壊し過ぎには注意するのだよ。キミが懸念するように、やり過ぎると嫌われてしまうからね』
「うっす!」
『では、キミの健闘と麗姫の麗しいお姿を収めた画像を期待しているよ。では、帰ったらまた会おう!』
「うっす! ガチでサンキューっす!」
数秒後、見知さんとの通信が切れた。
『ブルルルルーン! ぶるぶるぶるるーん!』
ほんの数秒後、再び着信があった。
うほほっ!? 相手は麗ちゃんだぜ!
「やあやあこんばんは! 頼れるみんなの守護神、神威でございまあす!」
早速少し壁を壊してみたぜ。上手くいくか!?
『ぷっ…』
あれ? もしかしてウケた? 今吹いたよな?
『あっ、ごめんなさい。こんばんは。あのね、話したいことがあるから、これから長万部くんと一緒に私たちのお部屋に来てもらってもいいかな?』
勇と一緒に? まさか乱交パーティーか!? ちょっと待て麗ちゃん! あと万希葉と静香! いくらなんでも大胆過ぎるぞ!!
「すぐ行きます! 少々お待ち下さいませ!」
『ありがとう。私、いま外に出てるから、少し遅くなっちゃうかも』
「ノープロブレムです!! いくらでも待ってます!!」
『なるべく早く行くね』
「待ってまーす!!」
麗ちゃんとあんなことこんなことが出来るのは嬉しいが、なんていうかその、アレだ! アレなんだ! 神たる俺の道徳心に反するんだ!
とは思いつつ、俺は勇を手招きして少しワクワク、非常にバクバクしながら部屋を出た。
「きゃあああああああっ!!」
なんだこの悲鳴は!?
ごらんいただき本当にありがとうございます!
なぜ悲鳴があがったのか、不吉な(?)予感を孕ませ次回へ続きます!




