うほーいっ!
留萌さんとの雪まつりの取材を終えて帰宅した俺は、お風呂で湯舟に入るかどうか迷っていた。なぜって、恥ずかしそうな顔した留萌さんからバレンタインのチョコバナナを貰ってから胸のドキドキが止まらないんだ。いま湯舟に入ったら温度差のショックで心筋梗塞起こしそう。
でも、湯舟に浸かって楽しかった今日一日を振り返りたいし、それが風呂に入る楽しみでもある。
じゃぶーん!
迷った末、入浴することにした俺は、両肘を湯舟の縁に乗せて少しの間ボーッとして、今日の出来事を思い出す。
「はい、これ、バレンタインのつもりです。だってさ! やっほーい! うほほほーい!」
バシャーン!
興奮を抑え切れず、湯舟を飛び出して素早く頭から足の先まで洗った俺は、トランクスを穿いて洗面所を飛び出し、室内をズタズタ駆け回った。
「うきーっ! うきききーいっ! うほっ! うほほほーっ!」
「うるさい! 裸で駆け回らない! ここは動物園じゃないんだよ!」
うほっ、母チャンに怒られちった! てへぺろっ!
仕方ない、トランクスのまま外に出るか。
「うほーいっ! うほほほーい!」
ここはマンションの3階。気温は氷点下10℃くらい。
ガチで寒いぜ! 何事かと上を見上げる通行人たちの視線が。
通行人のオバサンが誰かを手招きしてるな。若い男のボディーを一緒に見ようって誘ってるのか? いやぁ、照れるなぁ。
「おまわりさ~ん、マンションの3階の廊下で露出狂が発狂してます!」
ななな、なぬっ!? お、おまわりさんだと!? ヤバイ捕まる!! 即部屋へ帰還せよ!!
大慌てで部屋に帰還した俺はダッシュで洗面所へ向かい、大急ぎでパジャマを着て自室のベッドの毛布に包まった。ふぅ、危なかった。それにしても近隣の部屋の住人が出てこなくて良かった。
あぁ、キモいな俺っ! これじゃ女子にキモいとかなんとか言われてもしょうがないな! でもいいもんねー! たった一人、好きな人が居るから! 留萌さんのこと思い浮かべるだけで幸せなのさ! 同じクラスで同じ部活という身近な存在なのに、今まで魅力に気付かなかったのが勿体ない! 今夜は恋煩いで眠れそうにないぜ。
◇◇◇
翌日の日曜日、身体が熱い。起き上がると怠い。恋の力ってすげぇな。体温を計ると38.3℃。うん、恋の力じゃないな。昨日トランクス一丁で氷点下の外に出たりしたから風邪引いたんだ。バカだな俺。ってかヤバくね!? これじゃ明日学校行けないじゃん!! 留萌さんに会えないじゃん!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 人生最大のピーンチ!!」
「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
どこからともなく母チャンの怒鳴り声。病人の頭にはかなり響くぜ。俺の雄叫びもかなり響いたけど。
この日、俺はかつてない楽しみな月曜日のために精一杯気合いを込めて寝込みましたとさ。
神威は思春期真っ盛りのかなりイタイ子です。近所迷惑になるので騒ぐ時は場所を考慮しましょう。