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さつこい! 神威編  作者: おじぃ
修学旅行編

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29/69

湘南新宿ライン物語 勇編

 今回は勇目線のお話になっております。

 これは、神威たち一行が小田原おだわらから横浜までの移動中、電車内で繰り広げられたもうひとつの物語。


 ◇◇◇


 俺は今、親友の音威子府おといねっぷ神威かむい、通称『ねっぷ』が料金を負担するということで、湘南新宿ラインのグリーン車1階席に後輩の不入斗いりやまず水菜みずなと並んで着席している。車内は間接照明とラズベリーのような赤い座席が落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 通路を挟んで隣の席では、ねっぷたちが座席を回転させて4人で向かい合って談笑している。


「飛行機が苦手な勇せんぱいも地面を這いつくばるように走るグリーン車なら安心ですね!」


「おいおい、俺が飛行機苦手だって何処で聞いた?」


 空港では不入斗は一緒じゃなかったのに何故知ってるんだ。


「情報屋さんです!」


 きっと知内しりうちさんかねっぷのどっちかだな。


 知内さんは今年度から俺が無理矢理入部させられた新聞部の女性部長だ。今頃受験勉強で忙しいだろう。


 ◇◇◇


 同時刻、札幌さっぽろ市内の高校にある新聞部室。


麗姫うららひめー!! オラ置いて何処さ行ったべしたー!!」


「今日は箱根で温泉浴だっけ」


 部室には知内しりうち見知みしると、見知に想いを馳せる同級生の木古内きこない新史あらしが北海道農学校のクッキーをお供にロイヤルミルクティーを嗜んでいる。


 新史は『なぜ東北弁?』といった感じで笑みを浮かべて小柄で動物のように可愛く、黒縁メガネが知的なショートヘアの見知を見ている。


「なにー!? 温泉!? 麗姫と温泉!? どうしてそれを早く言わなかったんだねチョコザイがっ! 入浴中の写真を送って貰い損ねたじゃないか!」


 見知はバシンッ! と両手を突き、身を乗り出して鼻息荒く新史を咎めた。


「留萌さん、頼んでも送ってくれないと思うよ」


 興奮する見知と穏やかな笑顔を絶やさない新史。


「そういう時のためにねっぷがるんじゃろがボケー!!」


「あ、なるほど…」


 苦笑気味だが、やはり笑顔は絶やさない。


 こんな感じで、今のところ受験勉強はしていないようだ。


 ◇◇◇


 電車は不入斗の故郷、茅ヶ崎ちがさきに到着した。


「降りないのか?」


「はい! 皆さんと一緒に横浜行きます!」


「そうか」


 会話をしているうちに電車は発車した。


「うおーっ、なんだあの紫とかラムレーズンのアイスクリームみたいな色の電車!? 全部2階建てだぞ」


 ねっぷが俺たちの方の車窓、つまり山側にある車庫に停まっている10両編成で全て車両が2階建ての電車を見て控えめに興奮している。


「あれは『湘南ライナー』です! 朝と夜のラッシュアワーだけ走る座席定員制の電車なんです!」


「おおっ、さすが地元の水菜ちゃん! いま乗ってるのは『湘南新宿ライン』で、あっちは『湘南ライナー』なのか!」


「はい! どっちか覚え間違えてる人たまにいます! JRの人はお客さんに間違って質問されたら困るかもです!」


「よし、今度こっち来たらあれに乗るべ! サンキュー水菜ちゃん!」


「ゆあうえるかむです!」


 不入斗とねっぷとの会話が終わり、再び通路を挟んだ席で4人の会話が始まり、俺と不入斗は暫く沈黙した。なんだか気まずいので会話を切り出してみよう。


「不入斗は今回の旅行、というか帰省で、こっちの友達とかお父さんには会ったのか」


「友達には会いましたけど、父親には会ってません」


「そうか」


「父親に会ってない理由、訊かないんですか?」


「訊いて欲しいのか?」


「う~ん、どうでしょうね。勇せんぱいになら、話を聞いて欲しかったり、欲しくなかったり」


「そうか」


「私、父親とはあんまり仲良くなくて。だから離婚を機に母親と一緒に札幌へ引っ越しました。茅ヶ崎は友達も沢山住んでるし、海も山もあって、ショッピングセンターとか大型スーパーもあるし生活に困らくて、いい街なので好きだし、離れるのは寂しいですけど」


「そうか。ねっぷ以外には内緒にしてたんだけど、うちも両親が不仲でいつ別居とか離婚するかわからないんだ。だから、なんとなく不入斗の気持ちがわかるような気がする」


「そう、なんですか…」


 不入斗は俺の話を聞いて哀しそうに顔を落とした。


「なんで夫婦って上手くやれないんですかね? 私の友達も両親が離婚してる人が何人か居るんです。愛し合って結婚したんじゃないんですかね? お互いが愛し合ったからこそ、私たち子供が生まれたんじゃないのかな? ただ欲情して生み落とされただけなら、望まれていないなら…」


 俯きながら小声で話す不入斗は少し肩を震わせ、涙を浮かべている。


「不入斗、電車の中じゃアレだから、後で時間がある時、二人で話さないか?」


「…それは、デートのお誘いですね?」


 なっ!?


「なんでそうなるんだ!」


 コイツ急に泣き止んだ! まさかたった今までの涙目は演技じゃないだろうな!?


「照れてる照れてるぅ~」


「照れてねぇよ」


 コイツ、俺をオモチャにしてるのか?


「勇せんぱい、ありがとうございます!」


 ドキッ!


「今度ゆっくりお話しましょうね! その時は勇せんぱいの悩みも教えてください!」


 な、なんだこの感じは!?


「あ、うん、わかった…」


 ロクな受け答えが出来ず、俺は思いつく限りの返事をした。

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 不器用な勇が今後どうなるか、神威と併せてご期待ください!

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