空からのプレゼント
小田原から電車に乗って約20分。箱根湯本駅から少し歩いて日帰り温泉施設に到着。横浜へ行く前に温泉でリフレッシュだぜ!
早速全部脱いで露天風呂へレッツゴー!
と思ったのだが…。
「うわっ! やべぇやべぇ! ズボンの生地にファスナーが食い込んで脱げねぇ!」
「何やってんだよ。って、やべぇ、俺もだ…」
死闘を繰り広げること5分。ようやく脱いでシャワー室で下半身を重点的に洗ったら露天風呂へレッツゴー!
「うほーい! 硫黄のニオイあんましないぜ!」
「ここは『うほーい、露天風呂だぜ~』とか言うところじゃないのか」
「いやいや、硫黄のニオイを覚悟してた俺からするとこういうリアクションになるんだぜ!
さて、隣は女風呂なわけですが、勇は覗かないのか?」
「俺はそういう軽率なマネはしない。ねっぷこそ覗かないのか?」
「覗きたいに決まってんだろー!! でもいま覗いたら色々終わるんだよー!!」
麗ちゃんが入ってるんだぜ!! 覗いたら麗ちゃんがショックを受けるのは勿論、モノレールで万希葉に頭を下げた示しがつかなくなる。
「ねっぷー! 覗かないのー?」
万希葉の声が聞こえた。なんだ、俺を挑発してるのか?
「紳士たる俺は覗きなんかしないぜー!」
麗ちゃんに俺がエロい奴だってのがバレたら大変だからな!
俺は声を張り上げて万希葉に宣言した。
「たった今、覗きたいに決まってんだろー!! でもいま覗いたら色々終わるんだよー!! って言ってたじゃん」
「何いいいいいいっ!? 聞こえてたのか!? なんてこったああああああ!!」
「勇せんぱーい! 覗きたかったらどうぞー!」
「…」
暫し沈黙が続く。
「覗いてもいいですよー!」
「…」
またも沈黙が流れた。
「シカトですかー! それとも照れて返事できないんですねー!?」
「照れてねぇよ!」
勇はお湯のせいか水菜ちゃんのせいなのか、少し顔が紅い。
「ねっぷー! 今回は特別に許してあげるからー! 静香がメリケンサック嵌めて待ってるんだから早く覗きなよー!」
なんだと!? 万希葉と静香め、メリケンサックで俺の目を潰す気だったのか!!
「そんな事言われて覗くほどバカじゃねぇぜー!」
ぶっちゃけ麗ちゃんを好きになっていなかったら覗いてたところだ。麗ちゃん、俺の目を守ってくれてありがとう!!
さて、気を取り直して駆け足で温泉にダーイブ!!
「うほーいっ!」
バシャーン!!
「うほーいっ!? うほっ、超熱いぜ!! 危うく急性心筋梗塞で死ぬとこだったぜ…」
「飛び込むからだろ」
「なんてこった…。俺は氷点下の登別で鍛えた俺が20℃超えの箱根でショックを受けるとは…」
「そうか。残念だな」
「でもな、それより、俺がエロい奴だってのが麗ちゃんにバレたのがショック過ぎて、動揺を誤魔化すためにダイブしたんだけどな…」
このままお湯の中に沈みそうな神威は、意外とナイーブだったりする。
「安心しろ。ねっぷがエロいことなんて、留萌さんは勿論、全校生徒や教職員まで知ってると思うぞ」
勇は言いながら神威の肩をポンッと叩いた。
「な、なにーっ! 俺、有名人なのか!?」
「あぁ、確かに有名人だな」
「そうかそうか! 俺は有名人だったのか! 有名人にスキャンダルは付き物! エロいイメージの一つや二つ、奥義『カムイ雑巾』で払拭してやるぜ!」
自分が有名人だと知って大喜びする神威は、今日も持ち前の明るさで調子を取り戻した。
壁の向こうから聞こえる黄色い声をBGMに両肘を突き、縁の岩にもたれ掛って青空を見上げる。
空を飛べれば女風呂へ難無く行ける。静香のメリケンサックだって交わせるかもしんないな~。
「カァー、カァー、カァー」
おっ、カラスの群れが飛んでる。カラスって街の中でゴミを漁ってるイメージがあるけど、山の中にも棲んでるんだな。
ベチャッ!
!!!!????
「んんんんんん!!」
なんてこったああああああ!! 深呼吸しようとしたらカラスの糞が口の中にジャストイン!! キモいクサい呼吸できない!!
「どうしたねっぷ?」
勇が怪訝そうに俺を見ているので、口を開けたまま上を向いていた顔を勇に向けた。
「おぉおぉ、早くシャワーで洗わないと…」
勇の口調は狼狽しているようで冷静だ。
「ねっぷー! どーしたのー?」
壁の向こうから万希葉の声。きっと奇声が聞こえたのだ。だが今はロクに口を動かせない。
「>Å<ξξξξξξξξξξξξξξξξξξξξξ!!」
とりあえず気持ち悪くてクサイという旨は伝わっただろう。
「カラスにやられたんでしょー」
「>∀<!」
ほら通じた。俺って天才!
意思疎通したところでさっさとシャワーだ!!
◇◇◇
風呂上がりにはやっぱ牛乳!! ってことで、俺たち6人は休憩スペースでドリンクタイム!!
俺と勇に麗ちゃんと水菜ちゃんはフルーツ牛乳、万希葉と静香は普通の牛乳。もちろん瓶入りだ。
「ぷはーっ! やっぱ風呂上がりは牛乳に限るぜ! 麗と水菜はともかく、ねっぷと勇はフルーツ牛乳なんて女々しいなぁ!」
一気に飲み干した静香が腰に手を当てたまま言った。
「うるせえ! 神奈川のフルーツ牛乳は『カツゲン』の味に似てるって神奈川に住んでる人が言ってたんだよ!」
言って俺は『フルーツ』を一口飲んだ。
「おぉ、確かに言われてみればカツゲンっぽいな」
正式には『ソフトカツゲン』というその飲み物は、北海道と青森県で販売されている雪印メグミルクの局地的にポピュラーな乳飲料で、ヤクルトを少し濃く酸っぱくしたような味だ。兵隊の活力源となるよう開発された飲料で、戦中は現在より酸っぱかったというが、現在はマイルドな味わいとなり『受験に勝つ』という意味で『勝源』と表記される場合がある。
いま俺が飲んでいる神奈川県の雪印メグミルクの『フルーツ』はカツゲンより少し酸味が強い気がする。
「私も北海道に引っ越した時は驚きました! 神奈川県では温泉とか牛乳屋さんでしか見かけないフルーツ牛乳がフツーにコンビニで売ってるなんて!」
「なるほど、北海道と神奈川県にはメグミルクの工場があるからな。同じようなものを製造していてもおかしくない」
驚いた水菜ちゃんと、冷静に分析する勇。カツゲンの製法は神奈川県にも伝わっていたのか。
「ねっぷ一口ちょーだい!」
「うわっ! 急になんだ!?」
突如、万希葉が正面から手を伸ばして俺の『フルーツ』を奪って豪快に飲み干した。
「あ、ホントにカツゲンっぽい」
「おいこら! 一口じゃなくて全部飲みやがったな! 俺まだ一口しか飲んでないんだぞ!」
「ごめんごめん。代わりに私のあげる♪」
言って、万希葉は俺に普通の牛乳を差し出した。間接キスってやっぱ一般的に気にするほどのことでもないんだろうな。麗ちゃんとの時はめっちゃキョドッたけど。でも今だってやっぱ少し緊張する。
万希葉から受け取った瓶を口に近付けと、飲み口に万希葉の口が付いた跡が牛乳で白く残っているのが見える。
ゴクリ。
瓶に口を付ける前に唾を飲み込んだ。跡が残ってると余計緊張するわ。万希葉は好きな人だったし、モデルのようなルックスもこれまたセクシーなんだよな。
「飲まないの?」
なんなんだ!? 前屈みになって上目遣いで見られるの弱いんだよ! 谷間見えてるぞ!
「飲むさ、風呂上がりで喉渇いてるからな!」
えいっ!
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ!
俺は思い切って腰に手を当て、牛乳を一気に飲み干した。
うん、コクがあって美味いな。普通の牛乳だけど流石瓶入りだぜ…。3.8牛乳ってのもあるけど、なんか他にも濃い気がするぜ…。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
神威は相変わらずおバカですが、周囲は確実に動き出しております!




