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さつこい! 神威編  作者: おじぃ
修学旅行編

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24/69

ボーイズトークin上野

 今宵のビジネスホテルは二人部屋。


 好きなテレビ番組をを見て時刻は深夜0時。神威と勇はそれぞれのベッドで胡座(あぐら)をかいて向かい合い夜の話を始めるところだ。


「勇くん、あなたは好きな女子(おなご)()るのかね?」


 若干オヤジモードの神威。


()らんよ」


 勇は無表情のまま即答した。


「なんだと!? 水菜ちゃんが可哀相だぞ!! 勇を追ってわざわざ茅ヶ崎(ちがさき)から札幌に飛んで、札幌から東京に飛んで来たんだぞ!!」


 いつもの調子で怒鳴る神威。だが他人のために怒鳴るのは珍しい。


「前者は家庭の都合だろ。後者はまぁ、金環日食は茅ヶ崎辺りで見れば良かっただろうに、上野(うえの)に来たのはなんだかな…」


「だろ!? 東京北部と神奈川の湘南(しょうなん)じゃ羽田(はねだ)空港から逆方向なのにわざわざ来てくれたんだぞ!?」


「いやいや、だからと言って無条件に付き合うのは真摯(しんし)さに欠けるし、不入斗(いりやまず)にも失礼だ」


 勇の言葉を聞いて一度溜息をつき呼吸を調えた神威は、いつになく真面目な表情をしてから優しく微笑んだ。


「まあな。でもよ、水菜ちゃん、勇にはピッタリだと思うぜ? なんつぅか、きゃぴきゃぴしてるけど芯はしっかりしてるだろ」


 神威に言われて、勇も気持ちを調える。


「確かにな。フツー学校サボって東京(こっち)来ないわな。家庭の事情で札幌に引っ越して金環日食を見れないのは不服だって言ってたけど、引っ越しの理由は確か離婚で父親と別居になったからなんだよな」


「そうだな。もしかしたら父ちゃんに会いに来たのかもな。俺も父ちゃん居ない、つぅか会ったことないから、そうだとしたらなんとなく気持ちはわかる」


 そう、神威には父親の記憶がないが、両親の不仲で物心つかない頃に離婚したのだと推測している。父親について母親に訊いたことは何度もあるが、はぐらかされてばかりだ。


「そうか。うちも両親あんま仲良くないからな。不入斗もあれで色々大変なのかもな」


「そうかもな。うぜぇ事があってもそこで腐ったら負けだからな。あれが水菜ちゃんなりのファイトなのかもしんねぇな」


「ねっぷ、頭ダイジョブか?」


「なんだと!? 俺だって生きてりゃ色々あんだよ!!」


「そうか。んで、ねっぷはどうなんだ、留萌(るもい)さんのこと。前は俺にだけだったのに、いつの間にか本人に対しても名前で呼ぶようになったし」


「いや~、麗ちゃんはそりゃあもう。名前で呼ぶようになったのはカクカクシカジカ」


 怒鳴って真面目になってまた怒鳴って今度はニヤケた神威。


「ふぅん。留萌さんってねっぷが今まで好きになった女子とタイプ違うけど、どんな心境の変化なんだ」


 神威がこれまで好きになったのは割とオシャレで派手なタイプの万希葉と、天真爛漫な女バスの部長。万希葉には嫌われたと思い込んでいたが、そうではないとモノレールの車内でわかった。万希葉に嫌われたと思い込んだ後に好きになった女子バスの部長には告白して振られた。


「いや~、笑顔は女の最高の化粧ってヤツだよ」


「そうか。そういや留萌さんの笑顔って見覚えないな」


「俺にしか見せない顔があるのさ」


 神威は得意気に言った。


「で、それだけか?」


「いやいや、可哀相だから本人には内緒だが、俺と麗ちゃんのセンスには共通するモノを感じるんだ」


「例えば?」


 例えば金環日食を見るために『はちみつきんかんのど飴』を舐めてたり。


「それは言えないな。麗ちゃんのプライバシーに関わる」


「そうか。なんだかよくわからんが、確かにねっぷと一緒にされたら留萌さんが可哀相だな」


「麗ちゃんを可哀相なヤツ呼ばわりするな!」


「お前がしたんだろ!」


「あれれれれ!? とりま、俺は麗ちゃんに子供を産んで欲しいとです」


「ねっぷと留萌さんの子供ってどんなんなるんだろな」


「だーはははっ!! 美男か美女に決まってんだろ!!」


「いやいやツッコミたい事はあるが焦点はそこじゃない。どんな性格になるかだ」


「どんな性格?」


「例えば、ねっぷと万希葉の間に生まれた子供はちょっと乱暴かもしれないけどしっかり者になりそうだし、静香の間に生まれた子供はどうしようもないバカか、親に似るまいと努力する秀才になると考えられる」


「なるほどな。万希葉とならお互いしっかりしてるから子供もしっかりするけど、静香となら俺の遺伝子は消し飛んじまうのか」


 神威の言葉を聞いた勇は渋い顔をした。


「じゃあ留萌さんとなら…」


「う~ん、とりあえず何等(なんら)かの才能がありそうだな! キャベツとレタスを見分けられたりな!」


「そうか」


「まぁ色々言ったけど、俺、初めて女の子を『守りたい』って思ったんだ。今までは一緒に居て楽しいとか遠目で見てるだけでもドキドキするって感じだったし、麗ちゃんもそうなんだけど、プラスアルファってヤツだな」


「そうか。俺、ねっぷが羨ましいわ」


「がははっ!! そうだろそうだろ!! 恋はイイぜぇ? 勇も早く水菜ちゃんを好きになれよ」


「不入斗限定か」


「イエース!!」


 神威はヒッチハイクの要領で手を伸ばし親指を立てた。


 少々の下ネタを交えながらもそこそこピュアな少年たちの爽やかな夜であった。

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 今回は短めのお話となりましたが、神威の秘密が少し明らかになりました。


 麗編の『ガールズトークin上野』と併せてご覧いただきますとより一層お楽しみいただけます!

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