キタカで行こか!
5月18日、金曜日のロングホームルームは修学旅行前の最後の打ち合わせ。
俺たちの班のリーダーは勇となった。
「確認だけど、東京で金環日食を見るために出発が早まった。ねっぷ以外は日曜日の17時に各自で新千歳空港駅の改札口付近に集合。ねっぷは同じ時間に種子島宇宙センターだ」
「了解! いや~、宇宙旅行なんて久しぶりだな~、行ったことねぇけど。っておいっ!」
俺は勇にボケ返しとツッコミのダブルパンチをお見舞いしてやった。
「ねっぷ宇宙進出じゃん」
「ケッ、アタシより先に宇宙なんて生意気だぜ! まあでも達者でな!」
「おいこら万希葉と静香! 悪ノリしてんじゃねぇ!」
「宇宙からの金環日食、いいな…」
「ええー!? 麗ちゃんまでええええええ!!」
「よし、誰も異存はないようだし決定だな」
「ぬぴゃああああああ!!」
「うるせぇ」
「うるさい」
「Be quiet!」
でも宇宙から金環日食見てみたいな! できれば麗ちゃんと二人で!
◇◇◇
5月20日、日曜日。いよいよ待ちに待った修学旅行だぜ!!
ところが、旅行中のオカズの選別に迷っていたら勇、万希葉、静香と札幌駅に15時集合という約束に間に合わなくなっちまった!!
ちなみに麗ちゃんは自宅から空港までクルマで送ってもらうらしい。
とりあえず俺は母チャンに宇宙旅行してくると告げて駅へと急いだ。母チャンからは土産に宇宙人を拉致してくるよう頼まれた。奥義『カムイギャラクシー』を発動すればお安い御用だぜ! まぁ、発動すればの話だけどな!
◇◇◇
約束の15時、札幌駅の改札前。勇、万希葉、静香は神威の遅刻に少々苛立っていた。勇が電話をかけたが、電源が切れているか電波が届かないようだった。
「アイツ、まさかマジで種子島行ったんじゃないだろうな」
「ハハハ! ねっぷなら有り得るんじゃね?」
「どうせエロ本の選別にでも迷ってんでしょ。ねっぷ空港の行き方知らなそうだから私が連れて行くわ。二人は先行ってて」
「いや、そうはいかんだろ」
「いや、行こうぜ勇!」
万希葉の申し出を断る勇を静香が止めた。
「うん、私は大丈夫だし、いつまで経っても来なかったら私も一人で空港行くから」
「そうか。悪いな」
「ヒヒヒヒヒー。じゃあまた後で~」
静香はニヤニヤしながら万希葉に手を振って歩き出した。
「なによ静香」
「いやいやなんでも~」
こうして万希葉は一人残って神威を待つことになった。
◇◇◇
俺は旅行用の大きなバッグを肩に掛けながら急ぎ足で駅に到着すると、改札前に同じ学校の制服を着たモデルのような女子が立っていた。
流石だな、遠目でも凛としたオーラが見えるわ。
「万希葉ー!」
俺は5メートルくらい離れた所から万希葉を呼んで駆け寄った。
「もう、静香と勇は先行っちゃったよ」
「悪い悪い、わざわざ待っててくれたのか」
「ねっぷ空港の行き方分からないと思って」
「いや、知ってるぞ。学園都市線に乗ればいいんだろ?」
「違いますー。千歳線の快速エアポートですー」
「あれ、そうだっけ? JRの電車は地下鉄と違ってみんな同じだからわかんねぇや」
「学園都市線だけは違うけどね」
そう、札幌発着のJRの普通列車は学園都市線を除く全ての路線で同じ車種を使用している。
学園都市線のみ非電化のため違う車種で運転されているが、沿線人口の増加に伴う混雑が問題となっている。そこで桑園~北海道医療大学間に電化工事を施行し、今年6月からは定員数の多い新型車両が順次投入され、他の路線と同じ車両での運転が可能になる予定だ。10月のダイヤ改正までに増備が完了し、現行の車両が全て置き換えられ、所要時間が短縮される上、他線区との相互直通運転が予定されている。
「それはそうと、俺、タッチするカード欲しいんだけど。東京でも使えるんだろ?」
「ああ、Kitacaね。うん、東京でも使えるよ。買ってくれば?」
Kitacaとは、北海道のJR線とJRバスは勿論、首都圏のJR線や、加盟店及び対応自販機で電子マネーとして使えるICカードである。
「おう、そうする。万希葉は要らないのか?」
「私は持ってる」
「そうか。んじゃちょっと行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
俺はまたも万希葉に待ってもらい、西コンコースの特設売り場でKitacaを購入したのだが、ななんと北海道デスティネーションキャンペーンとかいうのを記念した特別仕様で、麗ちゃんが好きそうなエゾモモンガと、シカの帽子を被ったクマっぽいゆるキャラが描かれている。
買ったらさっそく改札機にタッチしてホームへレッツゴー!
ピピッ! バタン!
「うおおおおおお!! タッチしたらゲート開いたぜ!!」
神威の雄叫びに、何事かと公衆の視線が集まった。
「ああもう、恥ずかしいから静かにして!」
小声ながら強く言う万希葉。
ICカードをタッチしたらゲートが開くお馴染みのシステムだが、初体験の神威はつい興奮してはしゃいでしまった。
二人は階段を上がり、ホーム上の自販機の前に辿り着いた。
「万希葉、なんか飲むか?」
「ご馳走してくれるの?」
ニコニコしながら俺を見る万希葉に、かつて恋愛感情を抱いていた事もあり、思わずドキッとしてしまった。
「一人で待たせちまったからな」
「ふふっ、じゃあ遠慮なく♪」
ピピッ!
神威はウキウキしながら自販機にKitacaをタッチして万希葉が選んだミニサイズの『いろはすハスカップ』のボタンを押した。
ガコン!
「うおおおおおお!! お金入れてないのに飲み物出て来たぞ!! うひょひょーいっ!! 万希葉、今日は出血大サービスだ。何本でも買ってやるぞ!!」
「何本も飲めないし、空港までの運賃無くなっちゃうでしょうが」
「あ、そうか。てへぺろ!」
「キモッ」
タッチするのが楽しくて仕方ない神威は、続いて自分が飲む緑茶『うらら』のミニサイズを購入し、再度興奮した。
そうこうしているうちに新千歳空港行きの電車が入線してきた。
「うおおおおおお!! あれは特急スーパーカムイじゃねぇか!!」
銀色の特急電車を見て、神威はまたまた興奮し始めた。
「札幌からは快速エアポートに変わるの。っていうかねっぷ、特急は知ってるんだ」
「スーパーカムイだけは知ってるぞ!! 俺の分身だからな!!」
しかもなんたる偶然か、スーパーカムイに乗ると麗ちゃんの故郷、旭川へ行けるのだ!!
「うわ、なんか乗る気失せた。次の電車にしようか」
万希葉は神威とスーパーカムイを交互にじと~っと見ながら言った。
実はスーパーカムイの車両で運転する快速エアポートは稀で、殆どが一般型車両で運転される。
「なんだと!? どういう意味だ!?」
「どういう意味でしょうね~」
なんだかんだ言いつつも、二人は特急スーパーカムイ改め快速エアポートに乗り込んだのだった。
「万希葉、窓側座るか?」
「ううん、ねっぷ見るからに窓側座りたそうだから通路側でいいよ」
「えぇ~、そうかぁ? 悪いな~」
神威はニヤニヤしながら窓側に着席した。
発車してすぐ、二人はそれぞれ持っているペットボトルのキャップを開けて一口飲んだ。
「ねっぷ~、それ一口ちょうだい。私のもあげるから」
「ん? お、おう」
万希葉の申し出に、神威は少し照れながら持っていたペットボトルを交換した。万希葉も少し動作がぎこちなく、神威と目を合わそうとしない。
これって間接キスだよな。麗ちゃんの時はキョドリまくったけど、冷静に考えればそんなに気にする事でもないのかもな。
ってか俺って万希葉に嫌われてるんじゃなかったっけ? 嫌われてからも構わずスカートめくりしてたから余計に嫌われてるかと思ったけど、ゴールデンウィークに荷物持ちやった時とか、今とか、そんな雰囲気じゃないんだよな。さっきだって遅刻した俺をわざわざ一人で待っててくれたし。
謎を抱えながらも、移り行く景色や万希葉との会話を楽しみ、それと彼女の放つほのかな香りに擽られながら空港までの時間を過ごした神威であった。
今回の間接キスは爽やかな甘さのハスカップ味だった。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
サブタイトルにはJRのICカードの名前が駄洒落的に二つ入っております。
神威編でも修学旅行編なのに北海道を出ていません! 次回こそ北海道を出ます!




