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さつこい! 神威編  作者: おじぃ
北海道での日常編
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アツイ恋、芽生える!

 2月11日、土曜日、午前9時30分。さっぽろ雪まつりの会場となっている大通(おおどおり)、TV塔の前。ここでは中央にスケートリンク、周囲は海産物、韓国の姉妹都市や建設中の北海道新幹線の紹介、テレビ局、土産物のブース、オホーツクからの流氷の展示などがある。ここで30分後の10時に留萌さんと待ち合わせ。


 俺の他にも待ち合わせしている若者が五人ほど散らばっていて、ケータイやスマートフォンを操作しながらパートナーの到着を待っている。綺麗なお姉さん、同い年くらいの可愛い女の子、なんかウザいイケメンとか。その中に、頭に白いボンボンの付いたニット帽、黒いロングヘア、白いコート、黒のタイツ、上部に毛の生えたダークブラウンのスノーシューズを履いている女性を見つけた。留萌さんだ。どうやら俺は留萌さんを待たせてしまったらしい。さっそく声をかけて待たせたことを詫び、取材開始。


 ……。


 取材開始から五分経過。全く会話がない。気まずい、気まず過ぎる。気を紛らわすためにとりあえず雪だるまを(かたど)った氷像をパシャリ。マフラーや、留萌さんが被っているようなボンボン付きのニット帽まで再現されていて、凝った造りになっている。


「ひろえば街が好きになる運動にご協力お願いしま~す」


 たばこ会社の人がゴミ拾い用の緑色のポリ袋を配っていたので受け取った。やっぱ街は綺麗じゃなきゃな。


 俺たちはゴミ拾いをしつつ、相変わらず会話のない取材を続けたが、もう沈黙に耐えられない。


「今日は晴れ間があっていい天気だな!」


「そうね」


「雪像、でっかいのからちっちゃいのまで色々あるな」


「そうね」


 うぎゃああああああ!! 会話続かねぇぇぇぇぇぇ!! こうなったらメシだ。腹減ったしちょうどいい。食べ歩きだ。はじめに、俺は近くの屋台でタコ焼きを買って、二人で半分ずつ食べて、更にコロッケや焼き鳥などを黙々と食べた。うん、美味い!


「あれ、なんだっけ? あのお城。夏休みの合宿旅行で取材したよな」


 俺は焼き鳥に噛り付きながら振り返ってお城の雪像を見た。


鶴ヶ城(つるがじょう)


「そうそう鶴ヶ城! ちょっと懐かしいな!」


「えぇ、そうね」


 約半年前、俺たち新聞部は福島県で行われた軽音部の合宿に同行し、昼間は現地の観光スポットを巡り、夜は同じ旅館で合宿していた福島県や神奈川県の高校生と知り合い、彼らとともに総力を挙げて露天風呂に浸かる女子たちの生まれたままの姿を個人的に取材していたのだが、眼福を味わい始めてしばらく経った頃に気付かれて、女子たちには集団リンチでメッタメタのギッタギタにされ、その後で顧問からこってり絞られたのを覚えている。おかげで留萌さんの姿を見られなかった。留萌さんのルックスはかなり上級なので残念だ。


「合宿で色んな人と知り合ったけど、みんな元気にしてるといいな!」


「そうね」


 留萌さんの返事は相変わらず素っ気ない。


「雪まつりに来て美味いもん食って、俺は今日も元気で幸せだわ。平和な日常に感謝だな!」


「そうね、幸せね」


 あれ? 留萌さん、返事は素っ気なかったけど微妙に笑った?


「白い甘酒いかがですか~」


 再び会場を巡り始めると、屋台の前でお姉さんが首に『白い甘酒』と書かれたプラカードを掛けて宣伝している姿があった。歩き疲れたし、気疲れもしてるし、甘酒でも飲んで一服するか。


「甘酒でも飲むか」


「あ、うん。今度は私がご馳走する」


「いや、いいって」


「でも…」


「いいから」


 俺はそう言って強引に財布を開けようとする留萌さんを止めた。


 飲食スペースのベンチに座って甘酒を飲む。


「留萌さんは雪まつり毎年来るの?」


 お、酒が入ると自然に会話を切り出せるぞ。


「ううん、私、去年の三月まで旭川(あさひかわ)に住んでて、札幌の雪まつりは今年が初めて」


 あ、留萌さん、声のトーンが上がってイイ感じ。甘酒を飲んで頬が少し赤くなって可愛い。


「そうか、留萌さん旭川に住んでたんだ。旭川といえば動物園だよな」


 まぁ俺にとって旭川といえば醤油ラーメンだけど、女の子相手なら動物園のほうが無難だろう。


「うん、そうなの! 動物さんたちみんな、すごく可愛いの!」


 すると、な、なんてことだ!? 留萌さんは今までの素っ気なさが嘘だったかのようにパァッと笑顔になって、とても嬉しそうに応えてくれた。やべ、笑うと超可愛いじゃん!


 やべやべやべ、なんだこれ!? 何が起きてるんだ!? あまりにも突然の出来事で状況が飲み込めないぞ。


 留萌さんの笑顔、初めて見た。やべぇ、なんか胸が熱くなってきたぞ!


 まさか、恋ですか!!


「動物園といえば、あっちに動物とか水族館の生き物がいっぱいの雪像あったよな。見に行こうぜ!」


「うん!」


 やべぇ、可愛さ半端ねぇ!! 留萌さんって、打ち解けるとこんな明るい子だったんだ!


 俺たちは甘酒を飲み終えて、目当ての雪像の前まで移動した。


 10メートルくらいありそうなその雪像は非常に完成度が高く、最前列に、左から大きなアザラシ、カメ、イルカ、セイウチ。奥の上段のセンターにクジラ、それと、あちこちにブリくらいの中型の魚たちや、他にもたくさんの生き物が居て凄く賑やかだ。これ造った人たちもすげぇや。


「あぁ、すごくかわいい!」


 さっきも同じ雪像を見て写真撮影したけど、無表情だった。きっと感情を押し殺していたのだろう。動物も可愛いけど、留萌さんも…。


 それから俺たちは会話を弾ませて楽しい時間を過ごし、あっという間に夕方だ。気温は氷点下7度。だいぶ冷えてきた。


「そろそろ帰るか」


「そうだね、じゃあ、ちょっとここで待ってて」


 そう言って留萌さんは何処かへ行き、数分後、手を後ろに組みながら戻ってきた。


「はい、これ! 今日はありがとう! とっても楽しかった! 三日早いし、お値段は安いけど、バレンタインのつもりです」


 言いながら留萌さんが俺に差し出したのは、ミルクチョコレートの上に、更にカラフルなチョコチップがトッピングされたチョコバナナ。


「うわ! マジで!? 超嬉しい!! サンキュー!!」


 生きてて良かったぁぁぁぁぁぁぁ!!


 恋の町さっぽろ。雪まつりで、俺のアツイ恋は、芽生えたのだった。

 今回は既存の「さっぽろ恋ものがたり」に少し加筆したお話ですので、割と早く投稿できました。次回からオール新作のお話となります。お楽しみに!

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