呼んじまった! 見られちまった!
うううーららちゃんとおおおーれの部屋で二人っきり!? なんなんだ!? この状況はなんなんだ!?
と、取りあえず何か話題を振らないとな!
「て、テストが終わったら修学旅行だね!」
やべっ、噛んだ!
「う、うん。テスト、頑張ろう」
互いにオドオドして、ヘリウムガスを吸ったらどっちがどっちだか判らない状況だ。
「頑張ろう。でも俺、知っての通り勉強メッチャ苦手なんだ。特に数学とか物理とか化学とか生物とか」
「そうなんだ。私も理系の科目は苦手かな」
「えっ!? そうなんだ。てっきり全科目バッチリかと思ってた」
なるほど、麗ちゃんは生粋の文学少女というわけか。
「そんな事ないよ。一緒にがんばろう?」
「おう! 頑張ろう!」
うおおおおおお!! 麗ちゃんが、麗ちゃんが俺に『がんばろう?』だって!! 俄然やる気が湧くぜ!! よっしゃ、さっそく問題集に取り掛かろう!!
こうして二人は互いに苦手ながらもまだマシな生物の勉強を始めた。
なになに? この中で哺乳類でないものを全て選べ。
選択肢にはドブネズミ、ホルスタイン、タイガーマスク、シロウサギ、カメレオン、シマヘビ、ハルウララ、ウール、ザル、キジ、ドーベルマン、ベーコンがある。十二支ってやつだな。
っておい、ハルウララ!? ウララ!? 麗ちゃああああああん!!
麗ちゃんは間違いなく哺乳類ッ!! 哺乳類だぜ哺乳類!! 麗ちゃんが哺乳類なのは判りきったことだけど、確認してええええええ!! 今すぐ確認してええええええ!! ああ、やべえ、アソコが元気になってきた!!
麗ちゃんのおっぱいは見た感じCカップくらいで俺的にはベストサイズだな! もう少し暖かくなればシャツ越しに…。
うひょひょひょひょーい!!
おっとヤバイヤバイ、これ以上妄想したらニヤケちまうし視線に気付かれる。
神威は麗の胸をチラチラ見ながら暫し妄想に浸った。
ちなみに、ハルウララは引退した伝説の競走馬である。馬券をお守り代わりに買う人も居たそうだ。
気を取り直して、タイガーマスクは、マスクそのものは哺乳類じゃないけど、被ってる人は哺乳類だよな。これはどっちに分類しても正解だな! いやでも待て、仮に鳥がマスク被ったら哺乳類じゃないぞ。じゃあこれは哺乳類じゃないな。
んで、キジは鳥だから哺乳類じゃないだろ。カメレオンとシマヘビもタマゴから生まれるよな。
っていうかウールってなんだよ。ヒツジの毛か? だとしても毛は哺乳類じゃないよな。
イノシシに至ってはブタに遺伝子改造された上に食品加工されてるな。
う~んと、シロウサギは『わ』って数えるから実は鳥類で哺乳類じゃないんだな。うん、きっとそうだ。
あれ? ドブネズミって乳首あったっけ? っていうかドブネズミなんて種類があんのか?
あ、ポ〇モンにピ〇チュウとかラ〇タとかいうネズミ居るよな。ポ〇モンはタマゴから生まれるから哺乳類じゃないな。ってことはドブネズミも哺乳類じゃないな。俺って天才!
さて、次の問題は…。
ん? この『脊椎』って、なんて読むんだ?
俺は軽く混乱し、右手に額を載せて思考停止中。
静かな部屋には、麗ちゃんのペンの音が心地良く響いている。
「音威子府くん、わからないところがあるの?」
「はい。まず問題文が読めません」
うおおおおおお!! 麗ちゃんが心配してくれたああああああ!!
「以下の生物を脊椎動物と無脊椎動物に分けなさい」
「おお! さすが留萌さん!」
さすが麗ちゃん! こんな難しい漢字をあっさり読んだ! 俺が惚れる女の子って何かしら才能あるよな! 俺には人を見抜く才能があるってことか!
「ところで、セキツイとかムセキツイってなぁに? ムセキツイは噎せてキツイってこと?」
あ、もしかしてセキツイはセキレイの間違いか?
なんて冗談はさておき、麗ちゃんとなら勉強さえ楽しいぜ! う~ららちゃんとべんきょ、う~ららちゃんとべんきょっ! ひゃほーいっ!
「ううん、背骨があるのが脊椎動物で、無いのが無脊椎動物だよ」
「おお!」
さすが麗ちゃん! 博学だな! 文学には色んな知識が必要だからな!
「じゃあタコは脊椎動物で、ヒトは無脊椎動物だな!」
で、合ってるよな? イマイチ自信がない。
「うん。そうだよ」
よっしゃ! どうやら正解みたいだ! 俺ってあったまE!
けど麗ちゃん、なんか戸惑ってる感じだな。難しい問題だし、自信ないのかもな。
「そうか! わかったぞ! それじゃイワシは脊椎で、カピバラは無脊椎だな!」
「音威子府くん、水生生物か陸上生物かの違いじゃなくて、背骨の有無の違いだよ」
えっ? やべ、もしかしなくても俺、麗ちゃんの話聞いてなかったっぽいな。
「あ、そうだ。たった今説明してくれたばっかなのに、ごめん」
「ううん、いいよ。音威子府くん、疲れてるの?」
「実は寝不足気味で、頭がボ~ッとしちゃうんだ」
いやホント、麗ちゃんのお陰でなかなか眠れないんだよ。恋患いってやつだな! ずきゅぴょーい! ずきゅぴょぴょーい!
「そうなんだ。ちょっと頭触らせてもらっていいかな?」
触る!? 麗ちゃんが俺に触る!? なんだなんだこのちょっと嬉しい展開は!?
「えっ!? あっ、はい。どうぞ!」
麗ちゃんは俺の背後に回り込んで柔らかい指の腹で頭皮をマッサージし始めた。
うおぅ…。な、なんなんだこの快感はぁ…。い、癒されるぅ~。
「本当だ。疲れてるね」
そうかぁ、寝不足になると頭皮が凝るのかぁ…。やべぇ、これマジで気持ちイイぞ…。
「うふぁ~、きもち~。留萌さん、マッサージ上手いな」
加えて麗ちゃんの艶やかな髪が俺の首筋に触れて、いい香りが鼻腔をくすぐる。
「ありがとう。留萌家秘伝のマッサージなの」
「おお、奥義ってやつかぁ。いやホント、マジでいいわ~」
嗚呼、夢みたいだ~。生きてて良かったぁ~。
「あの、良かったら、また、マッサージするよ」
な、なんですとおおおおおお!? シュポシュポシュポシュポシュポシュポぽっぽーっ!!
「あ、ありがとお~、俺、お礼になんでもする」
「俺、お礼に? あっ…」
う、麗ちゃん!? こ、これはまさか、だ、いや、お洒落ですかああああああ!!
顔は見えないけど、麗ちゃんが恥ずかしがって動揺しているのが伝わってくる。
「ごめんなさい…」
「はははっ! 麗ちゃん最高! あっ…」
しまった!! うっかり名前で呼んじまった!!
「えっ!?」
「いやその、ごめん、急に名前で呼んで…」
やっべぇ~、引かれた? ドン引きされた?
「ううん、これからは、そう呼んで…。わ、わたひも、名前で呼んでも」
うおおおおおお!! きたきたきたああああああ!! しかもちょっと噛んだのが可愛過ぎる!!
「もちろんですとも!! 改めてよろしく麗ちゃん!!」
「よ、よろしくね…。か、神威、くん」
ガチャガチャッ!
げっ!? せっかくいいムードなのに、この鍵の音は!!
「神威ー!! 神威はいねがー!?」
豪快な玄関扉の音と怒鳴り声。
母チャンが帰ってきやがった!!
やべやべやべえ!! 麗ちゃんと二人きりのところ見られる!!
「麗ちゃんベッド入って!」
小声で麗ちゃんをベッドに促し、なんとか見られるのを回避。何気に『麗ちゃん』と呼べるのがメッチャ嬉しい!!
ガラガラガタン!!
間もなく母チャンは俺の部屋のスライドドアを開けて突撃してきた。
「神威ー!! アンタまた裸で走り回ったんだって!?」
多分いつものババァがマッポーだけじゃ飽きたりず母チャンにまでチクリやがったんだな!
「うるせー! 俺、婆チャンから聞いたぜ? 母チャンだって子供のころ初恋が嬉しくてマッパで外駆け回ったんだろ?」
「あれは9歳の時よ!! アンタもう17歳!! 下の毛だって生え揃ってんでしょうが!!」
「やってる事は変わんねぇし明らかに母チャンの遺伝だろうが!」
「うるさいよ!! あんまり口答えすると年甲斐もなく裸踊りするわよ!!」
ななななななにーいっ!? 母チャンが裸踊りだと!? あの下着の上にボテッと被さる腹の肉を見せ付けられるだとおおおおおお!? これはいかん!! ベッドの中から麗ちゃんが見たら気絶するだろうし、俺だって99%嘔吐する!!
「すんませんでしたー!!」
俺は潔く土下座して謝罪した。
「じゃあケツ出しな!」
「いやいやそれは困る!! 非常に困る!!」
ベッドの布団には麗ちゃんが隠れてるんだぞ!!
「問答無用!!」
ぎゃあっ!! 麗ちゃんの前で脱がされた!! なんという恥辱だ!!
ペシーン!!
「いてえー!!」
布団から麗が覗き見ていない事を祈りつつ、神威はケツ百叩きを受刑するのだった。
その後、麗ちゃんは母チャンがキッチンで夕飯の支度を始めた隙に大変遺憾ながら帰宅してもらった。
麗ちゃんの靴、母チャンに見付かってないだろうな?
オチは残念だったが、麗ちゃんを名前で呼べるようになったぜ!!
俺と麗ちゃんの親密度は日進月歩で高まってくぜ!! きっと修学旅行ではもっと進展するぞ!!
「よっしゃ、気合いだ! 勇気だ! ぜんっしん(前進)だああああああ!!」
「うるさいよ!!」
キッチンから母チャンの怒鳴り声。いつもの事だしそれはスルーして、麗ちゃんが篭った布団にダイブだああああああ!!
これ以上は18禁になるから語れないな!
ご覧いただき本当にありがとうございます。
ついに名前で呼び合う仲になりました。神威は麗以外の人は既に名前で呼んでいましたが、麗とは雪まつりまで馴染みにくかったために苗字呼称を引きずっていました。
次回から修学旅行編です! チャリにも乗らない神威が飛行機に乗ります!