おわたああああああ!?
見知に勉強は麗との話題づくりのためにするものだと言われて上手く乗せられた神威は帰宅して自室に篭り、これまでになく張り切って試験勉強に励んでいたのだが…。
「う~ららちゃんと会話♪ う~ららちゃんと旅行♪ トランス・パシフィック・パートナーシップ! 略してティー、ピー、ピー! ひゃほーいっ!」
神威は話題性のありそうな『現代社会』の勉強をしているようだ。
「俺と麗ちゃんも近いうちにマウス・トゥー・マウスで貿易しちゃったりしてな! って、この前間接キスしちゃったじゃんか! ひゃほーいっ! 思い出したら興奮してきたぜ! こうなったら脱ぐしかないな!」
この時間は母親が仕事で留守なのでやりたい放題だ。
神威は制服やシャツを脱ぎ捨て、パンツ一丁になって走りだした。
「うほーいっ! うほほほーいっ!」
そのまま裸足で玄関を飛び出しマンションの廊下をダッシュ!
「キミ! 何してるんだ!?」
しまった! マッポーの野郎、パトロール中だったのか! やべやべやべえ!!
3階の廊下から冷や汗をかきながら警官を見下ろす神威。
突然のピンチに困惑する神威は、蛇に睨まれた蛙のようにパンツ一丁のままその場で固まった。
すると、一人の少女が通りかかり、神威を見上げた。少女は神威の姿を確認すると警官に駆け寄り、何か話し始めた。
あ、あれは…。
う、麗ちゃん!?
さ、最悪だああああああ!!
麗ちゃんに見られた麗ちゃんに見られた麗ちゃんに見られたああああああ!!
オーワタタタタタタオーワタタタタタタ終わったああああああ!!
ガクン…。
神威は絶望に苛まれ脚から崩れ落ち、廊下に両手を着いた。
ああ、何もかも終わった…。麗ちゃんにこんな姿見られるなんて…。これからどう顔を合わせれば…。ってかそれ以前に補導されて退学?
『音威子府くんがこんなにバカでどうしようもない人だとは思わなかった。最低。もう近寄らないで。というより、退学になったらもう顔を合わせることもないね』
って現実がもうすぐそこにいいい!!
「うわああああああ!! もうダメだああああああ!!」
「音威子府くん!?」
「へっ!?」
声のした方向を見上げると、そこには困惑した麗ちゃんが立っている。
階段前の麗ちゃんは、そのまま10メートルちょっとある俺との距離を小走りで縮めた。
「どうしたの!? 調子悪いの!? 苦しいの!? 救急車呼ぶ!?」
しゃがみ込んで放心状態の俺の肩を軽く叩く麗ちゃん。
色白で綺麗な脚だなぁ。やばい、スカートの中見えそう。
「ごめん。大丈夫。修学旅行があまりにも楽しみで、興奮しちゃったんだ」
終わった。かんっぜんに終わった。
それでもパンイチで倒れてる俺を介抱してくれるなんて、麗ちゃんどんだけ優しいんだよ。あなた本当に最高ですよ。もし叶うのならば、俺はあなたと一緒に生涯添い遂げたい。
「そうだったんだ。ここ、音威子府くんの住んでるマンション…?」
「はい。ここが俺んちです…」
俺は力なく目の前の扉を指差した。
「なら、お部屋に戻ろう? 立てる?」
麗ちゃんが、麗ちゃんが俺に手を差し延べてくれている!!
ちらっと顔を見ると、心配そうな表情を紅に染めている。
「大丈夫、立てる。ごめん、こんな格好で」
「ううん、大丈夫だよ」
言って、麗ちゃんは自ら俺の右手を握ってくれた。
うああ、なんて華奢で柔らかいんだ…。俺、ショック死しちゃいそう。
「あの、お邪魔しちゃって、大丈夫、ですか…?」
立ち上がったところで麗ちゃんは玄関の扉に目をやって言った。
「散らかってるけど、良かったらどうぞ」
ななななんてこったああああああ!! 俺の部屋で麗ちゃんと二人っきり!? こんな夢みたいな事があっていいのかああああああ!?
脱ぎ捨てた制服やシャツと靴下が散らかった俺の部屋。麗ちゃんには勉強道具が置いたままのテーブルの前に座ってもらい、俺はとりあえずジャージを着て冷蔵庫からペットボトル入りの緑茶をとグラスを一つ取ってきた。
「音威子府くん、これ、使ってくれてるんだ」
麗ちゃんはベッドの枕元に置いてあるイタリア製のグラス、つまり麗ちゃんからの誕生日プレゼントを見て言った。
しまったああああああ!! グラスと添い寝してる事までバレちまったああああああ!!
「あ、うん、すごく気に入ってる」
俺は狼狽しながら、震える手でペットボトルとグラスを落とさないように必死だった。
「そう、なんだ…。良かった」
DQーN! じゃなくてドキューン!
こんなネタ現代の高2で知ってんのは俺くらいか!? 読み方は同じ『ドキュン』でも、ちょっと意味が違うぜ!
それはさておき、照れ臭そうに微笑む麗ちゃん、マジ最高だぜ!
「あの、ごめん。変なモノ見せた上に迷惑かけちまって」
既に嫌われているのを覚悟しつつ、俺は不祥事について謝罪した。
「ううん、大丈夫だよ。でも、また同じ事したら取り返しのつかない事になっちゃうかもしれないから気をつけてね」
うお…。
「うおおおおおお!! あんな変態やって許してくれるの!?」
「えっ!? あ、うん。私は別に怒ったりしてないよ」
「おおおおおお!! 涙が、涙が止まんねぇ!!」
言葉通り、俺は嬉しさのあまり号泣している。
怒らないだけじゃなくて、俺の心配までしてくれてるんだ!!
ああ、麗ちゃんをお嫁さんに迎える男は世界一幸せ者だぜ!!
「えっ!? そんな…」
「ありがとう!! そして申し訳ありません!! 二度とこのような真似は致しません!!」
「あ、う、うん…」
神威の勢いに困惑する麗だが、目の前で土下座するどうしようもない変態を包み込むような優しい眼差しで見つめるのだった。
ご覧いただき本当にありがとうございます。
次回はこの続きを、次々回はリアルから遅れながら首都圏への修学旅行を予定しております。