カムイバースデー
今回は顔文字を使用しておりますため、横書きでの閲覧をおすすめいたします。
勇や水菜ちゃんの歓迎会から約一ヶ月後となる5月4日。ゴールデンウィークとあって、麗ちゃんと会ったのは一昨日が最後だ。
間接キス事件から、俺は気まずくて麗ちゃんに話し掛ける事すら出来ないまま日々が過ぎた。
見兼ねた見知さんが俺と麗ちゃんの間柄を取り持とうと会話のきっかけを作ってくれるが、続かない。
麗ちゃんは俺をどう思っているんだろう?
夕方16時頃、ようやく咲いた桜を散らすざわざわとした大雨の音を聞きながら、俺は自室のベッドでそんな事を考えていた。
◇◇◇
明日、子供の日は俺の誕生日。だからといって特に何かイベントの予定はない。いつものだらけた休日を過ごすつもりだ。
23時59分。まもなく日付が変わる。
5,4,3,2,1…。
ブルルルル!
日付が変わると直ぐにスマートフォンのバイブが鳴った。勇からの誕生日メールだ。
さすが親友! ここ一ヶ月間沈み込んでた気持ちが少し回復してきたぜ!
文面は『おめでとう』というシンプルなメッセージの後に爆弾とドクロ、そして血を噴き出している注射器の絵文字。
…どーゆーこと? しょーゆーこと?
まぁいいや!
ブルルルル!
続いて見知さん、新史さん、水菜ちゃんの順に受信。
『ハッピーバースデー! キミに素敵な未来あれ! ついては誕生日会を催すので正午にいつものファミレスに集合だ! 私の名で席を予約しているから、店員さんにその旨を伝えておくれ~』
『お誕生日おめでとう!』
『おたんじょーびおめでとーございまーす(≧∇≦)』
みんなありがとおおおおおお!!
でも、麗ちゃんからメッセージ来ない…。誕生日会、来てくれるかな?
◇◇◇
正午10分前、いつものファミレスに到着。店員さんに『シリウチ』で予約をしていますと告げ、席に案内してもらったのだが…。
あれ?
「る、留萌さん?」
何故だ!?
おかしな事に、予約されていたのは二人席。通路側のチェアー席に麗ちゃんがちょこんと姿勢良く座っている。
「こっ、こんにちは…」
俺もそうだが、麗ちゃんもかなり狼狽しているようだ。
雪まつり以前の俺と麗ちゃんの関係をゼロとすると、今はマイナスじゃないか?
さすがの俺でも理解した。見知さんに仕組まれたのだと。
……。
沈黙のまま時間が過ぎる。時の流れを遅く感じるが、実際にはそんなに経っていないだろう。お互いに焦点の定まらずキョロキョロしている。
ぶっちゃけ、雪まつりの時より気まずい…。好きな人と二人きりという緊張と、間接キスで嫌われたのではないかという懸念が交錯して、俺の脳内はカオス状態だ。
「あ、あの、お誕生日、おめでとう…」
麗ちゃんが、麗ちゃんが俺に祝いの言葉を!? しかもちょっとモジモジしてて超カワイイ!!
「あ、ありがとう」
そういえば、今頃になって気付いたんだけど、いつもフラットで淡泊な喋り方だった麗ちゃんが、今は狼狽しながら絞るような声だ。これって、彼女が心を開いてくれてるって事か…?
何にしろ、『おめでとう』が凄く嬉しい。
麗ちゃんが懸命に言葉を掛けてくれたんだ。俺が狼狽してどうする。
しかし混乱して上手く話題を引き出せない。
う~んと、とりあえず…。
「留萌さんは、誕生日、いつなの?」
うわっ、我ながらぎこちねぇ…。
「9月5日」
「そうか~、俺とちょうど四ヶ月違いなんだ。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
実は麗ちゃんの誕生日と血液型は歓迎会でアドレス交換をした時、一目散にPIM情報を確認したから知っていた。
誕生日がちょうど四ヶ月違いなのもだが、血液型が俺と同じO型だと知った時も嬉しかった。血が足りなくなったら喜んで俺のを分けますよ!
「ううん。あの、唐突なんだけど、歓迎会の時、飲み物残しちゃってごめんなさい。今日はそれが言いたくて…」
えーっ!? まさか麗ちゃん、俺みたいに一ヶ月間ずっと悩んでたのか!?
「いやいやいやいや! 俺のほうこそ、なんかその、間接キスとか、キモい事しちゃってごめんなさい!」
「えっ!? あっ、いや、その、わ、私は、気持ち悪いなんて、思ってない、よ!?」
ま、マジですかー!! 俺の取り越し苦労だったんですかー!! その言葉、信じちゃっていいんですかー!?
お互いに赤面しながら目のやり場に困っている。やべやべやべえ!! 超照れくせぇ…。ニヤケるのを堪えるだけで精一杯だわ!
「ほ、ホントに!?」
「う、うん。本当に、大丈夫だよ」
うわああああああ!! お花畑が、お花畑が見える!!
「良かったああああああ!! ありがとう!! 実は歓迎会から一ヶ月間それがずっとネックで、嫌われたかと思って、見知さんが心配して留萌さんと会話させてくれた時も素気ない態度取っちゃって、ごめんなさい!!」
やべっ、叫んじまった。周囲の視線が痛い。
「そう、だったんだ」
あれ? もしかして俺、なんか気に障る事言っちゃった? いま麗ちゃんの表情が一瞬曇ったような気がするのは気のせいだろうか…?
「音威子府くん」
「あの、これ、プレゼント」
「えっ!? あ、ありがとう! うわやべっ、あのっ、中、見ていい、かな!?」
「あっ、はいっ…」
「おおっ、これ、あれだよね!? 上手く言えないけど、オシャレなコップ!」
「うん。音威子府くん、飲み物に凝ってるみたいだから」
「えっ!? あ、うん。この前は変なもの飲ませてごめん。プレゼントありがとう!」
「あ、いえ。あ、あと、私、変なもの飲まされたからって、センスは疑っても音威子府くんのこと嫌いになったりしないよ!」
「あ、はい。ホントにすみません。ありがとうございます…」
「ああああああのっ! こちらこそ失礼な事言ってごめんなさい! 悪気はないの!」
麗ちゃんは手を高速で交差させながら身を退け反って懸命に謝ってきた。
いやいや、俺が奇抜なドリンク飲ませたのが悪いんだし。
それにしても、麗ちゃんには悪いが、懸命に謝る姿も可愛い。
「ぷっ、はははははははは!! いいっていいって!! ぶっちゃけ俺のセンスは良くないだろうし、謝る必要なんかないさ!!」
いけねぇいけねぇ、麗ちゃんが一所懸命謝ってんのに大爆笑しちまった。
ほんとマジでもうなんなんだこの可愛さ! 麗ちゃんは普段、他人の事を悪く言わない優しい人なんだろうな!
でもワンタンコーラって、そんなにセンス悪いのか? 茶色いコーラと茶色いスープのコラボだし、色彩的には問題ないよな…?
「本当に、ごめんね?」
うおおおっ!! 手を合わせながら上目遣いで念入りに謝る麗ちゃんが本当に最高に可愛い!! この場で抱きしめてえええ!!
「いやいや、でも留萌さんにそういう事言われるなんてビックリだわ。よっしゃ、このコップ、センスを磨きながら大事に使わせてもらうよ」
こりゃ一生の宝だな! 音威子府家の家宝だ!
「うん!」
こんなに笑う麗ちゃん、久しぶりだな。やっぱり俺、麗ちゃんが大好きだ。
この笑顔をずっと守っていきたい。改めてそう思った誕生日となった。
よっしゃ! カムイセブンティーン! 出だし好調だぜ!
17歳の俺、Go to the ヌェークスト!
ご覧いただき誠にありがとうございます。
本日5月5日は神威の誕生日です。
執筆してて思うのですが、間接キスで一ヶ月も悩んだり、一喜一憂できる初々しさがうらやましい。