6 王宮奉仕は草むしり Ⅱ
3日後の早朝――――。
僕たち7人はラーデン侯爵家で待ち合わせをし、2台の馬車に分乗して王宮に向かいました。
秋の空は抜けるように高く、王宮入り口の柵門が白と金に煌めきながら、澄んだ青空に突き刺さるようにそびえています。
王宮舞踏会に招かれた時は夜だったし景色を楽しむ心の余裕も無かったから、僕はこの機会にと馬車から身を乗り出して眺めを堪能しました。
衛兵と門番が門を開けてくれ、馬車で通り過ぎると閲兵を主目的とした広場があり、その向こうに古めかしい5階建ての建物があります。
「これがトライゼン王宮なんですね」
建物の入り口で馬車から降り、黒茶色の石造りの建物を惚れ惚れと見上げると、レオンさんが笑いました。
「これは王宮門だ。王宮は、門の向こうにあるよ」
こんなに立派な建物が、門?!
1階部分の外壁には戦いを描いた古色タイルが延々と貼られ、壁画の部分だけが淡い黄色に浮き上がって見えます。
「ヴァリア建国戦争だ。ダリウス歴784年ゲオルグ一世陛下がブランデン地方を統一し、トライゼンの前身であるヴァリア王国を建国した様子が描かれている。黄金の兜を被っておられるのが、陛下だ」
ユリアスさんが教えてくれ、僕は黄金の兜を探しました。……あった!
陛下は髭に覆われた怖ろしげな顔つきで、鎖帷子の上に豹皮のベストを着て、両手に斧を持っておられます。
国王陛下というより、山賊の親分……。
「この人物がラーデン家の始祖だ。ヴァリアの武将だった」
ユリアスさんが指さしたのは髪を振り乱して斧を振り回す髭面の男たちの一人で、武将というよりやっぱり山賊に見える……。
「リーデンベルク家の始祖は、ここにいる」
トーニオさんが言い、見ると片手に剣、片手に刷毛を持った人物です。
「ゲオルグ一世陛下の下男で、靴磨きが得意だったから刷毛を持った姿で描かれている。これを誇りに思っていいものかどうか」
「うちの先祖よりマシだよ。ザイエルン家の始祖は、こいつ」
マテオさんが、戦場から離れた場所に立つひょろりと痩せた人物を叩きました。
「外国の行商人で、語学力を買われて外交官みたいな役割を担っていて、戦闘には参加しなかった。口だけ達者な、ひ弱な男だったんだよ。みんなが命を賭けて闘ってる時に見てるだけなんてさ」
マテオさんは、不満そうです。
「壁画に描かれるだけいいじゃない。うちの先祖は、トライゼン建国後にやって来たんだもの」
「シュバイツ家の先祖は、トライゼン建国直前に雇われた傭兵だった。フェルキアとの戦争時に戦功をあげて騎士に叙勲され、準貴族になったらしい。もう少し早く来ていれば、描いてもらえたのに」
リーザさんとブルーノさんは羨ましそうで、僕はトライゼンの人たちが家と先祖を大切にする気持ちが少し分かったような気がしました。
ヴァリア建国から約千年、それぞれの家は脈々と血統を伝え、家を大切にするということは自分の中に流れる血――即ち自分を大切にするということなんです。
どの家にも先祖たちの面白可笑しいエピソードや、歓びや苦しみや戦いの話が伝わっていて、僕の方こそ羨ましい限りです。
僕なんか、どこの誰とも知れぬ馬の骨の子孫なんだもの。
「俺とエメルの先祖はこの時、どこかの空の下で生きていたんだな」
レオンさんが空を見上げて言い、僕ははっとしました。
「先祖のいない奴はいない。俺達の先祖が逞しく生き抜き子孫を残してくれたからこそ、俺達がいる」
「そうですよね」
名前もエピソードも残っていないけれど、確かに僕の先祖は存在した。そう思うと何だか自分の体が自分だけの物じゃないような、不思議な気持ちになります。
家に帰ったら、パパに先祖について聞いてみようと思いました。
パパのパパはベネルチアの漁師だったらしいから、先祖も漁師だったかも知れない。
僕が泳ぎが得意なのは、先祖の血かな。でもリーデンベルク家の始祖にも親近感を感じます。
片手に刷毛――――僕がモップを持つみたいなもの?
王宮門は近衛兵の宿舎も兼ねているそうで、アーチ型の大きな門をくぐると大理石の噴水にぶつかり、広大な庭園に囲まれた石畳の広場の向こうに重厚な石造りの建物がそびえています。
古式ゆかしい黒茶色の建物は王宮門に似た5階建てで、「あれが王宮だよ」とレオンさんが教えてくれ、王宮に向かおうとした僕はトーニオさんに引き戻されました。
「こっちだよ、エメルちゃん。昼には仕事が終わるから、その後王宮を案内するよ」
「はい」
トーニオさんを先頭に石畳の道を歩き、アーチ型の小さな入り口から王宮門の中に入りました。昼間だというのに通路は暗く、カンテラに照らされた石の廊下は静かです。
古びた木の扉をノックして開けると庭師の休憩所のようで、壁に箒や熊手や作業着が掛けられて、椅子に腰かけていた女性が立ちあがりました。
「ようこそ。お待ちしておりましたわ。グレーテと申します。本日、皆様方の監督官を務めさせて頂きます」
年齢は20代でしょうか。王宮メイドのお仕着せをまとい、にこやかにお辞儀をするグレーテさんの手を取ったのは、トーニオさんです。
「グレーテ。貴女のような美しい女性に出会えるのは、至上の喜びですよ」
そう言ってトーニオさんは優雅に微笑み、グレーテさんの手の甲に口づけたんです。
「だ、男爵様。わたくし、只のメイドですわ……」
気の毒なグレーテさんは払いのける事も出来ず、真っ赤になって慌てふためいています。
こうやって女性を毒牙にかけるんだなっと思いながら見ていると、さすがは格式高い王宮メイド。グレーテさんはすぐに平常心を取り戻し、こほんと咳払いしました。
「……本日皆さまにして頂くのは、庭園の草むしりと清掃です」
やっぱり、とブルーノさんの呟きが聞こえます。
「それでは始めましょう」
箒と熊手とゴミを入れる布袋を手に、広大な庭園に向かう僕たち。
「グレーテ。仕事が終わる頃にまた来ますよ」
トーニオさんが魅惑的な笑みを浮かべて言い、僕は首を捻りました。――トーニオさん、働かない気だな。
僕たちはあらかじめ指示された通りに汚れてもいいような古着を着ているけれど、トーニオさんだけはお洒落なスーツを着込んでるんです。
「それじゃ、俺は行くから」
王宮に向かって颯爽と歩き出すトーニオさん。朝っぱらから恋人に会いに行くんだなっと思ったけれど、僕にとって大切なのは仕事です。
手にした箒と熊手をぐっと握り、胸を張って王宮での初仕事に乗り出したんです。
王宮の西側にある広々とした芝生の清掃から始めることにして、僕たちは各々散らばり、熊手や箒で枯れ葉をかき集めたりゴミを布袋に入れたりしていたんですが、順調には進みませんでした。
貴族たち――何故か男性ばかり――が次から次へとやって来て、僕たち――と言うよりユリアスさんとリーザさんと僕だけ――に話しかけるんです。
「白薔薇の君――――」
妙に顔の白い男がやって来て、ユリアスさんの手を取りました。高価そうなスーツを着て、クロス・タイをダイヤのピンで留めています。
ユリアスさんはにこりともせず引き抜いた手を、汚物に触れたかのように上着で拭っています。
うわ、強烈! 顔白男も僕と同じように感じたらしく呆気なく引き下がり、リーザさんの熊手をつかんだんです。
「華やかで愛らしいダリアの花のような姫。もしよろしければ、手伝わせて頂けませんか」
「それは、ちょっと……」
「胸板と台詞は等しいという意見について、貴方はどう思われる?」
横からユリアスさんがしらっと言葉を挟み、顔白男の胸板をじっと見た僕はぴんときました。
――薄い!
さすがユリアスさん、うまい事言うなあと感心しながら声を立てずに笑っていると男と目が合ってしまい、僕の笑いは瞬時に凍りついてしまったんです。
顔白男は照準を僕に変更し、近づいて来ます。しまった――! 僕が彼に笑いかけてると思われてしまったに違いない。
どうしよう。どうやって追い払おう。ユリアスさんが気にして見てくれているけれど、ここは自力で撃退しないと。
男は僕の頭のてっぺんから足先までじろじろ見て、首をかしげました。
「君、男の子? 女の子?」
僕はシャツとズボンの上にウェストコートを着て、風に煽られた髪はきっと四方八方に飛び跳ねていて、貴族の令嬢には見えないと思うんです。
嘘をついた方が切り抜けられる――――。
「男の子です」
「ふうん。美人のお姉さんか妹はいる?」
「いません」
「気の短い兄貴ならいるが?」
僕の後ろに黒い影が立ち、振り返るとレオンさんが男を睨みながら指をバキバキ鳴らしています。
「丁度なまっちろい野郎を殴りたいと思っていたところだ。顔貸せよ」
「……はっは……」
顔白男は笑顔を引きつらせ、逃げて行きました。
「ありがとう、レオンさん」
僕が笑いながらお礼を言うと、レオンさんは照れたように「どういたしまして」と答え、僕の隣で雑草を抜いています。
その後も続々と貴族らしい男がやって来て、ユリアスさんが冷たい視線と身も凍るような舌打ちで追い返し、いい加減鬱陶しくなったのかリーザさんが雑草をむしりながら男たちを下から睨み上げるようになり、怒りと殺気に満ちた空気に恐れをなして誰も近づかなくなりました。
ブルーノさんとマテオさんが話しかけても、ユリアスさんとリーザさんの放つ空気はどんよりと冷たくて、「僕たち違うから。一緒にしないで」「下心なし。俺たちは仲間だ」とあきらめずに話しかける2人は本当にいい人です。
「あの人たち、王宮で働いてるんですか?」と僕が尋ねると、レオンさんは「いや。無職だ」と答えました。
貴族の称号と領地を受け継ぐのは長子だけで、次子以下は自力で生活しなければなりません。領地を分けて貰える人はいいけれど、そうでない人は貴族であっても職探しをしなければならないんです。
王宮には貴族の次男や三男などが数多く住み、王族や有力者と親交を結びながら職を探しているそうです。
いつまでも住めるわけではなく最長2年と決められていて、滞在費はすべて国費――即ち税金で賄われていて、早く仕事を見つけなければならない身の上なのに女性に手が早いので有名で――――。
何となく腹が立って来ました。ユリアスさんとリーザさんの怒る理由が分かります。
女の子と遊んでないで、働け。
布袋が一杯になったところで、王宮の最も西の端にあるゴミ置き場に捨てに行くことになりました。
「場所を知っておきたいので、僕が捨てて来ます」
リーザさんがついて来てくれ、2人で布袋を両手に芝生を横切り、大きな樫の木々に囲まれた小道を歩いていた時のこと。
「この一画には、鶏小屋や豚小屋があるの。だからちょっぴり悪臭がしない? わたしは平気だけど」
「僕も平気ですよ」
鼻をひくひくさせながら進むと、小道沿いに丸太を積み上げた造りの小屋が見えて来て、鳴き声から豚小屋だと分かります。
入り口近くを歩く人影が見え、質素な木綿のドレスを着て、蜂蜜色の髪を青いリボンでひとつに結んだ女の子――――カミーラさん?
樫の木陰からカミーラさんの姿が垣間見え、僕は目を見開きました。
カミーラさんは僕たちには気づかないまま小屋の前を歩き、後ろを子豚が一匹ついて来ます。カミーラさんは振り返り、笑顔で言ったんです。
「ママはここにいまちゅよー。どこにも行きまちぇんよー」
……き、聞き間違いでしょうか。……いまちゅよ? リーザさんと顔を見合わせ、視線を前に戻した時、
「あなた達! そこで何してんのよ!」
僕たちを見咎め、カミーラさんが怒鳴ったんです。驚愕に目を見開き、顔を怒りの色に染めて。まるで僕たちが、見てはいけないものを見たかのように。
「あ、あの……」
地面を力まかせに踏みしめながら、カミーラさんが歩いて来ます。目は吊り上がり牙を生やし、今にも噛みつきそうな勢いで。僕は唇をぶるぶる震わせ、後ずさりしました。
「ママはここにいまちゅよー、ですって?」
僕の隣で勇敢なリーザさんが腕を組み、カミーラさんを見据えながら笑っています。カミーラさんの顔は見る見る真っ赤になり、牙はますます長く、空気が殺気立ってきました。
「わたしの質問に答えなさいよ。何やってんの、王宮で」
「仕事よ。見れば分かるでしょ」
「あらそう。とうとうユリアスに愛想尽かされて、屋敷を追い出されたわけね」
「愛されない人って、愛されない話しか出来ないのよね。気の毒ねえ、愛されたことのない人って」
「口を慎みなさいよっ」
頭から湯気が立ちのぼるカミーラさんの足もとで、白い子豚がじゃれついています。
「わ。可愛い」
僕が言うと、カミーラさんはため息混じりに子豚を抱き上げ、子豚はきいきい鳴きながらカミーラさんに鼻づらを押しつけました。
「もしかして、王宮舞踏会の時の子豚ですか」
「まあね。あれ以来、なつかれちゃって」
口調も表情も渋いけれど、カミーラさんの仕草と目つきは愛情に溢れていて、優しく子豚の頭を撫でています。
カミーラさんにこういう面があったなんて――――。意外です。
「カミーラさんのこと、ママだと思ってるんですね」
「どうかしら」
僕を横目でちらっと見て、つんと顎を上げたカミーラさんはいつものカミーラさんだけど、僕には鎧を着た人に見えました。
カミーラさんは怒りっぽくて気が強くて自尊心の強い鎧を着てる。鎧を脱ぎ去ったら、母性的で愛情豊かな人に違いない。
「ううん。絶対にそう思ってますよ。カミーラさん、いいお母さんなんですね。――あ、本気で言ってるんですよ。嘘や冗談やお世辞じゃないですよ。僕、そういうの、不得意だから」
目を細めたカミーラさんはやっぱり怖ろしいけれど、ほんの少しだけ怖ろしくなくなった気がしたんです。
「カミーラ」
小屋から作業着姿の男性が出て来て、薄汚れているけれどよく見るとゲオルグ皇太子殿下で、僕は慌てて頭を下げました。
僕の隣ではリーザさんが膝を折ってお辞儀をしていて、
「今日見たことは、忘れて頂戴」
カミーラさんが言うなり、リーザさんは顔を上げてにやっと笑い、
「そっちの出方次第よ」
と答えたんです。リーザさんは、カミーラさんを脅してる――――何て怖ろしいことを。
「こっちの台詞だわ。口は災いの元よ。よーく考えて行動することね」
カミーラさんは誇り高く顎を上げ、子豚を腕に抱いたまま、皇太子殿下の元に帰って行きました。
僕とリーザさんは再び樫の小道を歩き出し、振り返ると殿下と談笑するカミーラさんが見えます。
そばにお付きの者が控えていたけれど、殿下とカミーラさんは二人っきりの会話を楽しんでいる様子で、僕は目を丸めました。
初めて目にした、カミーラさんの笑顔――――。
「カミーラったら。ついこの間までレオンを狙ってるって噂だったのに」
そうでした――――。
僕の目から見て、殿下とレオンさんには似た雰囲気があります。落ち着いたところとか、誠実そうなところとか。カミーラさんは、そういう人が好きなんだろうな。
「お似合いですよ、殿下とカミーラさん」
「カミーラは、見かけはいいものね。美人だし」
見かけはいいけど性格は最悪と言いたそうで、僕はしかめっ面のリーザさんを見上げました。カミーラさんに意地悪をされたと言っていたけど……。
「さっき見たこと、みんなに話します? 僕は、カミーラさんが嫌がるなら黙ってた方がいいと思うけど」
「そうねえ。ユリアスならきっと、こう言うわ。噂は武器になる。武器は最大限の効果が見込める時まで、隠しておくべきだって」
「はあ……」
聡明なユリアスさんの思考に、僕はついて行けそうにありません。
「噂は、武器になりますか?」
「もちろんよ」
小道の果てにゴミ置き場があり、持って来た布袋4つを置きました。
「ねえ、エメル。わたしとユリアスがキスしてたっていう噂、聞いたことない?」
「……えっと。……あります」
「その噂、信じてるんじゃない?」
「それは……はい。えっ、もしかして、嘘の噂なんですか?」
帰り道を歩きながら、リーザさんはくすくす笑っています。
「やっぱりね。どうも様子が変だと思ったわ。話せば長いんだけど……。貴族の称号と領地を失ってクラレストの家もなくなって、わたしはフィアの女子寄宿舎に移ったの。わたしに嫌がらせをしたのはカミーラだけじゃなくて、平民がフィアに通うのはおかしいって、寄宿舎でも散々言われたわ」
リーザさんは遠くに目を馳せながら、顔を曇らせました。
「そんな時ユリアスに、噂ひとつで状況は変わるよって教わったの。ユリアスとリーザがキスしていた――――。衝撃の噂はあっという間に広まって、周囲のわたしを見る目が変わったわ。ラーデン侯爵家のような大貴族が背後にいるとなれば、わたしまで権力者扱いされるのよ。ユリアスに頼み事をしたい人が、わたしを頼って来るようになったり。殆どお断りしたけど」
「そうだったんですか……」
そういうことだったんだ、と僕の全身から力が抜けました。噂は嘘だった。びくびくする事は無かったんです。
浴場でも巨大なベッドでも、もっと楽しめば良かった。疑ってしまったばっかりに、せっかくの楽しい機会をふいにしてしまったんです。
「あの噂でわたしは救われたけど、ユリアスにとっては何の益も無かったはずなの。それなのにわたしをラーデン邸に住まわせてくれて、学費まで出してくれて……。自己満足のためだってユリアスは言ってたけど、最近になってやっと彼女の気持ちが分かったわ。彼女も平民になりかけてたのね。もっと早く気づくべきだったのに、わたし、馬鹿だわ」
「リーザさんは馬鹿なんかじゃないですよ。それに、これからがあるじゃないですか。これから僕たち、助け合って生きて行くんですよ」
平民を嫌がるリーザさんの気持ちは今でも理解できないけれど、先祖たちが築き上げてきたすべてを失いたくない気持ちは、僕にも分かります。
ユリアスさんは不安で怖くて、リーザさんを助けることで心のバランスをとっていたのかも知れない。
僕は、精一杯胸を張って言いました。
「2人だけじゃなくて、僕も。レオンさんやトーニオさんや、ブルーノさんもマテオさんも。みんなで助け合えば、難しい問題も解決できますよ」
「そうね。ユリアスじゃないけど、男たちには大して期待してないの。でも、エメル。貴女はわたしの愛人よ」
僕が、リーザさんの愛人――――。つまり、親友です。
フィア女子クラスの特異な世界で助け合う、大の仲良しっていうことです。
僕なんかよりレオンさん達の方が遥かに頼りになるということはさておき、リーザさんの愛人という言葉に頬が緩みにやついてしまう僕は、すっかりフィア女子クラスに慣れてしまったようです。
「はいっ」
満面の笑顔でうなずき、僕はリーザさんの手をとり、樫の小道でスキップしました。