俺はレズになりたくなかった
意固地なあかりらしいと言うか、それからあかりは頑なに俺の意見を聞こうとせず、とにかく『お前の意見に乗るのは嫌だ』と突っぱねるばかり。
いい加減にしないと時間がなくなってしまう、と俺が言うと、途端に小馬鹿にしたような表情に変わったあかりが鼻で笑う。
『時間なんて気にしてんなよ。ここじゃあそんなのどうでもいいんだし』
どうでもよくなんかない、と反論しようとした口は、引っかかりを覚えた思考に止められる。
「ここだとどうでもいい?」
『ここは時間の流れが違うんだよ。すっげえゆっくり流れてるみたいで、ここでの一時間は元々俺がいた向こうでの数秒みたいな感じ。ドラゴンボールでそんなのあったろ。それと似たようなもんだ』
いきなり何を言い出してきたのか。
俺たちがいるここと、あかりのいた世界とでは時間の流れ方が違う?
そんな突拍子もないこと言われたって、はいそうですかと鵜呑みにできるはずがない。
もっとも、俺があかりの体に入っていたことや、ここの暗闇が現実的に解せないことを考慮すれば、頭ごなしに否定することもないが……。
俺の疑問は一つ。
「何でそんなことわかるんだよ?」
俺たちのいるここは、黒い霧で包まれた漆黒の空間。
見える物体は俺たち以外に存在せず、ともすれば時計も存在しない。
ここの時間が何時なのかわからず、しかもあかりは俺と入れ替わっていないと主張するのだから、向こうの世界でどのくらい時間が経っているのかも知れないはず。
ならば、あかりが時間の流れをそう断言するのは何故か。
『一週間以上だ』
「……なにが?」
俺の疑問符は、あかりの冷笑で払われる。
『俺がここに来てから経った時間だ。十回以上寝て起きて、まだ俺はここにいる。時計なんかなくても、それだけ過ごしたら一週間以上は経ってんだろ』
「ちょ、ちょっと待てよ。そんなこと初めて聞いた」
『ああ、初めて言ったしな』
戸惑う俺に、あかりは冷静に返す。
『俺がこのことに気が付いたのは、二回目にお前と会ったときだ。俺からするともう何日も経ってからお前と会ったはずなのに、すっかり記憶をなくしたお前から問いただせば、お前が俺の体に奪ってから一日も経ってないって言ったんだ。導き出される答えは一つだろ?』
それで、とあかりは続ける。
『お前が俺の体を奪ってから何日経った?』
「……一日経ってない」
『な? だからここは時間の概念なんてどうだっていいんだよ。ま、お前がまた俺のことを疑うってんなら好きにしろよ』
あかりを疑うかと言えば、どうなのだろう。
ここの時間がゆっくり流れるというなら、俺にとっては好都合だ。
ゆうなと共に俺の部屋に戻ってきたときには夜の十時を回っていたから、その後にゆたかたちと話し合った時間、ゆうなに襲われた過程を考えると、一時間も残っているか怪しい。
その一時間足らずであかりと真実を見つけるのは、あまりに制限が厳しい。
だから、その枷が外れるというのだから、この上なく都合が良い。
いや、都合が良すぎると言うべきか。
しかし、考えてみて、思い当たらない節がないわけでもない。
「なあ、あかり。俺たちが会った二回目って、お前が最後に『今度こそ忘れんなよ』って言ったときのことか?」
『そうだよ、その時が二回目。なんだ、今度のお前はちょっとは覚えてんのか』
「何とか覚えてたのは、あかりのその言葉だけだったけど」
『忘れんなよ、って言葉だけ忘れなくても、あんま意味ないけどな』
それもそうだな、と小さく笑う。
あかりの返答で、思い当たる節に確信が持てた。
二回目――俺がゆうなに突き飛ばされて気絶したとき。
それはほんの数秒に満たない時間の出来事だったのに、あかりとのやりとりができていたのだから、それがここに流れる時間の歪みを示す根拠になるだろう。
だから、あかりの言うことは正しいのだろうと思えた。
「わかった。あかりの言うことを信じるよ。二回目がその時だって言うなら、たしかに同じ時間の流れ方ではありえないし」
『はいはい、別にどっちだって良いよ。お前が信じようが信じまいが、俺の言ったことが真実だし』
「でも、だからってゆっくりする気はないからな」
あかりが眉をしかめたので、疑問を感じたのだと受け取って続ける。
「時間の流れ方が違うなんておかしなことになってるんだ。時間のズレが流動的だっておかしくないだろ? ある時は、こっちでの一週間が向こうでの一分かもしれないし、ある時は、こっちでの一週間が向こうでも一週間かもしれない」
向こうに比べてこっちの方が時間の流れがゆっくりなのかもしれないが、その差が一定である保証はどこにもない。
そういった意味で、俺は安易にゆっくりする選択はしない。
『無駄に用心深いな、お前。勝手にしろよ。ただし、俺がお前に付き合うかどうかは別の話だけどな』
あかりが俺に対して非協力的なのは、今までのやり取りで充分に理解している。
どうしてここまで頑ななのかは、俺の覚えていない俺と何かあったか、そもそも性格が合わないのか。
どんな理由にせよ、俺があかりに協力を仰がなければならない事実に変わりはない。
だから、俺はあかりの気が乗るように動く。
「あかりは、ゆうなの過去についてどれだけ知ってるんだ?」
――賭けではある。
『は? 何だよ、急にゆうなの過去なんて持ち出して……』
「ゆうながいつごろ、同性愛に目覚めたか知ってるか? ゆうなの初恋の相手が男か女か知ってるか?」
『知らねえよ。ゆうなはあんまり昔の話したがらないし』
――でも、勝算はある。
「俺は知ってるよ。ゆうな本人からちゃんと聞いたんだ。あかりと違ってな」
誇らしげに歪めた口元の動きは、たぶんうまくできた。
ピクリと、あかりの眉尻が動いた。
『嘘吐くんじゃねえよ。恋人の俺に話してないことを、お前なんかに話すわけねえだろ。そんな嘘に引っかかると思ってんのかよ』
声色に大きな変化はない。
まだ揺さぶる。
「赤の他人の方が言いやすいってこともあるだろ? 近しい間柄であればあるほど話しにくいことだってあるしさ」
『そうかもしれねえけど、そういうのは重大な秘密だったりするときだけだろ。同性愛者だってカミングアウトするときとか』
「そうだな。だって重大な秘密だったんだから」
またあかりの眉尻が跳ねる。
目つきが鋭くなり、幼く見える顔なりに少ない迫力が増す。
『何だよ。ハッキリ言えよ。お前の焦らしなんかキモイんだよ』
「なら俺に協力してくれよ。あかりに協力して欲しいから、あかりの気を引けるだろう話を振ってるんだ。そんなこと、もうわかってるんだろ?」
あかりの眉根が詰まり、苛立ちが増していることがわかる。
あぐらをかいている足にも、小さな揺れが見える。
続けるのは俺。
「ゆうながオカルト嫌いだっていうのは、何となくわかってるだろ?」
『わかってるよ。直接言われたわけじゃねえけど、ゆたかから聞いたオカルトの話をすると嫌そうな顔してたし』
やはり、状況は俺と同じ。
「でも、どうしてゆうながそんな態度を取るようになったのか。そして、それがゆうなが同性愛者であることが関係していることも、あかりは知らない。だろ?」
『テキトーなことばっか言うなよ。お前、それっぽいこと並べてハッタリかましてるだけだろ。意味わかんねえように言っとけば、俺が食いつくと思いやがって』
「なら嘘だと思って聞かないのか? ま、あかりがそう思うならそれでもいいさ。赤の他人の俺だから聞けた話なんだし、今の俺から聞けなかったら、あかりはいつこの話を聞けるんだろうなぁ」
ゆうなが俺に話してくれたことは、非常に有用だった。
こうしてあかりの気を引くために使われるなんて、話してくれたゆうなはまるで想像していなかっただろう。
しかし効果はてきめん。
あぐらから膝立ちになったあかりは、拳を握りしめて俺を殴ろうとしたらしいが、そんなことしたってどうにもならないことは理解していたらしい。
向ける先のわからなくなった拳はぷるぷる震え、何を殴るでもなく無闇に振られる。
『お前、ズルいぞ!』
片言のようにも聞こえたその台詞をきっかけに、あかりは俺に協力してくれることになった。
*
先に話すことになったのは俺の方だった。
あかりに協力してもらうことになったが、あかりからすると俺は信用ならないようで、ゆうなの話が先、俺への協力は後でないと嫌だと駄々をこねられた。
俺から先に話すことによってあかりが協力してくれる話を流されてしまうことも考えられたが、まあ俺もあかりも互いに信用しないようでは協力も何もないだろう。
それに、あかりの苛立ちを引き出してでも気を引かせたのだから、これ以上我慢させたらあかりの怒りがとんでもないことになりそうだし。
これ以上、話をもったいぶるのは互いの損にしかならないので、俺から手早く話をすることにした。
「それじゃあ話すけど……」
ゆうなが、俺を連れてホテルに入り、中で話してくれたことを要約してあかりに伝える。
ゆうなの過去のこと――初恋から始まり、レズビアンであることを自覚したこと、オカルトを嫌いだと言っていた理由。
ゆうなの中で整合性を保つためにつじつまを合わさなければならず、オカルトを認めない姿勢を崩さないためにゆうなの仮説が生まれたこと。
とにかくホテルに連れられてからあった出来事を掻い摘まんだ。
もちろん、その後に事に及びそうになったことを伏せて、だけど。
そう、その時にあかりのことを思い出したんだ。
ホテルでゆうなに襲われた時、ぼうとした頭の中に思い浮かんだ「あかりに怒られる」ということ。
それがなければ、あかりと会う手段なんて思い付かなかっただろう。
あかりには襲われた事実は伏せるが、そういう意味では襲われたことも必要な出来事だったと言える。
いや、襲われたくなかったけどね!
『何でまた顔を赤くしてんだよ。キモすぎていい加減吐きそうだわ』
「な、何でもないから気にすんな!」
あかりの視線があまりに冷たかったのもあり、慌てて首を横に振って雑念を払う。
『まあいいや。何となくわかったよ。前々から気にしてたことともつじつまが合うし、お前の言ったことは嘘じゃねえんだろうな。ムカつくけど』
またあぐらの姿勢に戻ったあかりは、腕を組んでうんうんと頷く。
俺から聞いたという事実が苛立たせているようだが、言葉通り、俺の話は信用してもらえたようだ。
『時々、お前の挙動が変なのはキモいけど、まあ約束だ。お前に協力してやるよ。俺は何をすればいい?』
「なら、「ここ」について、知っていることを少しでも教えてくれ。このトンデモ空間についての情報が欲しい」
ここ、と指すのは今の俺とあかりが存在しているこの空間のこと。
真っ暗闇に包まれているはずなのに、俺からはあかりの姿がハッキリ見えているし、逆も然りだろう。
あかりが大人びた女性の姿から変身したのも、どうやらこの空間にいる時だけの力らしいし、時間の流れ方も、元いた世界とは違うと聞いている。
ならばここは何なんだ、と考えるのが自然な思考。
前にあかりが言ったように、俺自身があかりの体に入っているというありえない状況に置かれているのだから、言ってしまえば、ありえないことはありえない。
だが、ありえないことでも起きているのだから、そこから何かしら掴めるものがあるはず、というのが俺の考えだ。
しかし、あかりの回答は俺の期待に反するものだった。
『精神世界ってのが、俺の意見だ。文句あるか?』
精神世界。
ここのことをそう称したあかりの言い分はこうだった。
『お前と違って俺が信じてるのは、お前は俺の二重人格で、俺が主、お前がサブっていう考え方だ。だから、そのサブ人格のお前と会えるのは俺の中。俺の精神の中で、俺とお前が会話してるって考えるのが自然だろ?』
あかりの言うように、俺とあかりが信じている仮説はそれぞれ異なる。
あかりの信じる仮説を前提に見たとき、ここを精神世界と予想したと言う。
俺とあかりが同じ体を共有する関係であれば、俺たちが会えているここをそう予想できるのかもしれない。
『ありえないことが多すぎるってのも大きな理由だよ。ここが真っ暗なのに視界がハッキリしてることもそうだし、俺が変身できることもある。お前は知らないだろうけど、他にも色んなことができるんだ。頑張れば空を飛んだりすることもできた。そんなところなんだから、普通じゃねえだろ?』
ありえないことが多い、というのには賛同だ。
こんなありえないところが、普通の場所であるはずがない。
てか、頑張るだけで空が飛べるのかよ。
『だから、俺はここを俺の精神の中って考えたんだ。俺の頭の中と言い換えても良い。俺の頭の中の出来事なんだから現実離れしててもおかしくないし、俺の意に反したサブ人格のお前がいてもおかしくない。何が起きたって、俺の頭の中のことだから、で全部済むんだよ。完璧だろ?』
「まあ……うん、それっぽい」
『それっぽいんじゃなくて、それしかないんだよ』
俺の返事が気乗りしなかったのは、ここで強く反発する理由もなく、かと言って賛同するわけでもなかったから。
するべき反論は後回し。
俺には、ひとまずあかりの話を聞けるだけ聞く必要があった。
「じゃあ次、あかりはこの精神世界で今まで何をしていたのか教えてくれよ。俺の体と入れ替わったわけでもなければ、ここの時間はすげぇゆっくり流れるんだし、暇してただろ?」
あかりと俺の意見は相違している。
だから聞きたいのは、あかりの主観ではなく、事実。
『そりゃあ暇だったさ。何にもないところに独りぼっちだったんだからな。ま、ここだと色々できるから、それで遊んでたんだけど』
色々できる、遊んでた。
そのワードで思い当たるのは、
「変身とか?」
『正解。頑張れば、こうやって簡単にできるんだよ』
あかりは目を閉じて息を整える。
すると、白い光のようなものに包まれたあかりのシルエットが次第に大きくなる。
先にあかりの姿に変貌した時とは逆回しにしているようだった。
白い光が薄らぎ、霧散して現れたのは長身の女。
それはやはり、俺が入れ替わった後に鏡で見た姿とは大きく異なっていた。
身長は俺より少し高く、バストやヒップは張り出てウエストはくびれていた。
股下や手足の細さ、あらゆるパーツを取り上げてもスタイル抜群と形容できる外見。
服装も俺と似たシャツとパンツのそれに変わっており、対比からか、急激に大人びたように見えた。
『どうだ? 面白いだろ?』
ニヤリと笑ったあかり。
つい先ほどまでと比べて低く落ち着いた声色となり、八重歯が見えていた歯は、白く綺麗に整えられた並びのそれになっている。
――改めて見せつけられて、痛感する。
あかりの頭の中にせよ、他の可能性にせよ、ここは現実ではないのだと。
『しばらくこっちで遊んでたから、今はこっちの方が楽しいな。よし、しばらくこっちの姿でいるわ。文句ねえよな?』
今までからしても、あかりの幼い容姿、成熟していない舌っ足らず気味な口振りから繰り出される男言葉に違和感を覚えていたが、それに勝るとも劣らず、違うベクトルで今のギャップにも違和感がある。
落ち着いた物腰の対応が似合いそうな外見で、あぐらをかいて挑戦的な視線を俺に向けている。
前だったら生意気に見えただろうそれも、今ではそういう男勝りな人物を演じているようにしか見えない。
……男勝り、で思い立った。
そういえば、あかりはどうして今のような性格になったのだろう?
外見に内面が伴う、なんて極端な意見は持っていない。
今まで出会った人の中で外見通りの性格をした人物――第一印象通りの人なんて、あまりいるものではない。
誰も彼も何かしらのギャップを持っていたし、俺自身、他人から見ればそう見られているかもしれない。
だから外見に似合わない性格がありえない、なんて極論を持ち出すつもりはない。
でも、あかりのそれはどこか違う感覚を覚えた。
ギャップがあって、違和感を覚えるのは当たり前。
あかりの場合は、そこに……何というか、もう一握りの違和感を乗せたような、と言うか……。
うまく表現できないが、他とは違う違和感を孕んでいるような気がする。
「あかりって、どれくらい前からそんな感じなんだ?」
『そんな感じってなんだよ。この姿になったのがいつかってことか?』
あかりは胸の下で腕を組み、脇を締めてただでさえ大きな胸を寄せて上げる。
これ見よがしにされて視線が下に落ちそうになるが、中身が生意気なあかりだと思えば制止できなくもない。
「そうじゃなくて、今みたいな男言葉になったのはいつごろなのかってこと。小さいころから「俺」なんて言ってたら、親に怒られるだろ?」
俺の親は、世間から見て厳格とは言い難いが、放任主義というわけでもない。
極端に寄らない親であれば、「俺」なんて女の子に似合わない主語を使う娘を注意しないことはないだろう。
『ああ、そっちか。そっちも割と最近だぞ』
返答は予想外。
世間話をするような気軽さで、あかりは言う。
『ゆうなと付き合ってから、少しした後かな。自分のことを「俺」って言ったり、こんな風な口調になったのは』
想定していなかった返答は、さすがにこんなことでもビックリする。
「その口調、にわかなのかよ」
『にわかって言われるとムカつくな。俺だって考えがあってやってんだ。それにもういい加減、俺って言い方も板に付いてきただろ?』
「いや、板に付いてないけど……」
板に付くどころか、どうしてそうなったのか問うぐらいには違和感が付きまとっている。
『うるせえな。ゆうなにも似合わねえって言われてんだから、お前にまで言われたくねえよ』
聞いてきたのはあかりの方だし、ゆうなに似合わないと言われるぐらいなのだから似合わないに決まっているだろう。
そんなこと言ってもキレられるだけなので黙っていると、あかりは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
『お前の言いたいことはわかるよ。でも、俺にだって考えがあるんだ。お前にもゆうなにも似合わねえって言われたって、俺は続けるんだよ』
「あかりの考え?」
『……まあ、特別に教えてやるよ』
少し、一息を挟むだけの時間悩み、あかりは頷いた。
軽いつもりで聞いた俺の質問は、特別と付くぐらいには、あかりとって重いものだったらしい。
『さっき、お前からゆうなの過去話聞いて驚いたんだけどよ、俺もゆうなと共通点があったんだ』
あぐらをかいているあかりは、胸の下で組んでいた腕を外し、背中の後ろに着いて天井を仰ぐ。
つられて見た先には、黒で塗りつぶされた変わらない視界だけ。
『俺、男になりたいと思ったんだ』
ぎょっとして視線を下に、あかりの顔を見るが、上を向いてあごを突き出した状態からでは表情が読めない。
『きっかけは、ゆうなと付き合い始めたことだ。少しずつ俺の中でその考えが芽生えてきて、すぐに実行した』
声色は淡々としている。
それは、あんなに喜怒哀楽の激しかったあかりとは思えないほど。
『お前に教えてもらったことだけど、あえて俺の言葉をそのまま使うわ』
あかりも視線を下へ、俺と目が合う。
少し色の薄い灰色の瞳は真摯。
『俺はレズになりたくなかった。そう思ったから、俺は男になりたかったんだ』