誕生日プレゼントはもう一つ
「ところで、あか……あきら」
「う、うん?」
俺と「あかり」の共通点が見つかって間もなく。
まだちょっと名前を間違えかけるゆうなに、はし、と両肩を掴まれ、俺は無理やりゆうなと正面に向き合う形になった。
ぐっと強い目つきで見つめられる。
「お願いがあるの」
そう口を開くゆうなからは、先ほどまでののどかな雰囲気は感じられなかった。
むしろ切羽詰まったような、圧迫感のあるオーラを身にまとっている。
それほど今から話すことは大事なものなのだろうと、その雰囲気から察することができた。
小さく息を呑む俺。
「あの……ね」
一言ひとことを大切に噛みしめるかのように、ゆっくりと言葉を紡いでいくゆうな。
その重いの空気に飲まれ、俺までもが握る拳に力が入り、緊張してしまう。
なんだ? 何を言い出すつもりなんだ?
まさか、今までのほのぼのとしたそれとは打って変わって何か深刻な――
「今日、泊まってもいい?」
……はい?
「え……なに? ごめん、もう一回言って」
「だからぁ、今日、あきらの部屋に泊めてもらっていい? 終電なくなっちゃったし、タクシーで帰るなんて馬鹿らしいし」
……どうやら俺の聞き間違いではなかったようです。
――彼氏の家にお泊まり。
胸の前に両手を合わせて懇願するゆうなが、つい先ほど発した言葉だ。
……とやかく言うまい。
いや、とやかく言うわけにはいくまい。
彼女は俺の部屋に泊まりたいと言ってきた。
しかも、れっきとした己の意思での言動だ。
上辺では「終電がなくなった」などとのたまってあるが、それは否!
もし、たまたま終電がなくなったなどと言うのであれば、俺はこう返そう。終電のなくなる時間に来たのはどこのどいつだ! と。
それはそうだろう。
自分の意思で終電のなくなるこの時間にうちへと訪問し、さらには「泊めて」とまで言ってきたのだ。
これを誘っていると思わず、なんと思えばいい。
くう、粋なことをしてくれるじゃないか、俺のゆうなたん!
まさか誕生日サプライズがここまで及ぶとは、男心を非常にわきまえてらっしゃる。
さらには、翌日……いや、日付的には今日、ゆうなが企画した誕生日デートの当日なのだ。きっと、こうしてお泊まりすることさえも、そのデートの一環として組み込まれているに違いない。
ヤバい。そう考えたらめっちゃテンション上がってきた。
今の気持ちを一言で表すならこれしかないだろう。
み な ぎ っ て き た ! !
「もちろんですともっ!」
俺はゆうなの肩を掴み返し、自分でも現金だなぁと思い返してしまうぐらい元気に頷いた。
それを認めたゆうなが、目一杯の可愛らしい笑顔を弾けさせる。
「ありがとっ!」
いえいえ、こちらこそ!
誕生日にあなたの体を捧げてくれるなど、俺の方こそ感謝せねばなるまい。
もちろんゆうなとの経験は、これが初めてというわけではない。
俺とて一端の男だし、恋人として付き合っている以上、俺から誘ったことは何回もある。
だが、それとこれとは話が別なのだ。
ゆうなが企画し、ゆうなから誘う誕生日計画。
そのすべてがゆうなによる愛情であるというならば、これを嬉しがらないわけがない。
おぉぉ、俺は幸せものだぁー!
もう、ゆうなたん大好きっ!
「じゃ、先にお風呂入ってきてもいい? 来る途中で汗かいちゃって」
まだまだ残暑が厳しい九月ですからね!
もはや自分のことがわからなくなるほどテンションの上り詰めた俺は、
「ゆっくりしていってね!」
「うん。行ってくるね」
小さく手を振って風呂場に向かうゆうなを、満面のニコニコ笑顔で見送った。