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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
俺、女になりました
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彼女からの誕生日プレゼントで気づくこと


「それにしても、」


 隣に座る俺の頭を撫でながら、ゆうなはふと思いついたような声をあげる。


「入れ替わったにしては性格があんまり変わってないね。あかりとそっくりだよ」

「そうなの?」

「うん。「俺」って言い方も一緒だし、雰囲気もそっくり。あきらは、あかりよりちょっと口を悪くした感じかな」


 ゆうなの言う「あかり」の特徴に、俺はその人物像を想像できていない。

 主語が「俺」や、口調が男のそれと変わらない女って……。


「なにより、ちっちゃくて可愛いのに、自分はそんなんじゃないぞ、って言いたげな強がりっぽさがよく似てるよ」


 だからどんなやつだよ、「あかり」は。

 っていうか、その「あかり」に俺が似ているんかい。


「まあそのおかげで、中身が男だってわかっても、こうして可愛いなぁ、って思えるんだけどね」

「可愛いって言われても嬉しくない」

「あはは、そういうところも似てるよ」


 ころころと笑うゆうなは、俺の頭を撫でる感触を楽しんでいるようだった。


 だから、なんで俺はゆうなに撫でられているんだよ。

 撫でたいのは俺の方なのに。


 この不可思議な現状がどうにかなったわけではないが、ひとまず俺の考える入れ替わった原因を伝えて受け入れてもらえて、一段落。


 そうして少し落ち着くと、やはりこの逆転した状況がどうにもくすぐったい。元の関係性に戻したい気持ちが湧いてきた。


「なあ、ゆうな。俺もゆうなを撫でたい」

「だーめ。ナデナデするのは私の特権だよ?」


 そう言って、ゆうなは俺の頭頂部から後頭部にかけて撫で下ろし、また頭頂部から撫でる。


 まるで猫でも愛でるような撫で方にそれほど悪い気はしなかったが、それでもやっぱりゆうなの髪を撫でたい欲求は収まらない。

 あのふわっふわの髪の毛を指に絡め、そっと触れるように撫でたいのだ。


「うー、撫でたい撫でたいー」

「めっ」


 ガキ扱いかい。


 わきわきと両手をゆうなに向けて伸ばしたが、それをいなすようにゆうなに振り払われてしまった。


 すっかりゆうなからお預けを食らってしまい、堪えた衝動を、ベッドに腰掛けて空いた足をバタバタさせる他に解消法がない俺。


 無理に撫でようと手を伸ばしても軽くいなされてしまうし、撫で続けるゆうなから逃れようとすれば、腕をしっかりと掴まれ、結局撫でられてしまう。


 ……納得いかない。


「もう、そんな仏頂面しないの。せっかくの可愛い顔が台無しよ?」

「じゃあ撫でさせ」

「めっ」


 だーかーらー。


「ほら、誕生日プレゼントあげるから機嫌直して」

「誕生日プレゼント?」

「うん」


 頷き、にこっと弾けるように可愛い笑顔で微笑むゆうな。


 自身のジーンズのポケットに手を突っ込み、鼻歌が聞こえてきそうなほどご機嫌な笑みを浮かべて中を探る。


 と、その中から、薄く小さな箱。

 さらにそれを開くと、銀色に輝く――ネックレスを取り出した。


 細いチェーンに、一つ、五センチほどの銀色のプレートがくっついているそのネックレス。

 あしらわれている装飾は控えめだが、可愛らしくもあり、女性向けのものだということがわかった。


「ほら、つけてあげる」


 そのチェーンの金具を外し手に持ち、ゆうなは俺の首に手を回す。

 慣れない長い髪の毛の間に手を通されるのはこれまで感じたことのない感覚がして、首元に触れたネックレスのひんやりとした感触も合わさって小さく身震いしてしまう。


 そんな俺の様子を気にすることなく、ゆうなは俺にネックレスを取り付け終えて、とても満足そうに「うんっ」と頷いて笑った。


「やっぱり似合う。とっても可愛いよ!」


 いや、そうしてにっこにこ笑顔のゆうなこそ可愛いんですけどね?


 と、ゆうなは俺につけてくれたネックレスを見て、その可愛らしかった笑顔を曇らせる。


「まさかこんなことになるとは思わなかったから、名前が違っちゃったけどね」

「名前?」


 やや気まずそうにするゆうなに聞くと、


「うん。ほら、そこに名前彫ってもらったんだけど」


 そう言いながら、ネックレスのプレート部分を指差した。

 ひんやりと冷たいそれを手に取り、指されたその箇所を見ると――


「『Akari』って彫ってあるでしょ?」


 ゆうなの言うとおり、そこには筆記体のローマ字で『Akari』と薄く彫られていた。


 ゆうなからすれば、これは「あかり」への誕生日プレゼントだったはずだ。

 しかし、今の俺はあきらだから、俺に渡すなら名前が違っている。ゆうなはこれを気にして、少し気まずそうにしたのだろう。


 そんなこと、俺と「あかり」が入れ替わることを予知でもできない限り、防ぎようがないのになぁ。


「いいよ、全然。あかりにあげるつもりだったんだから、しょうがないって」

「ありがと。そう言ってもらえると助かるよ」


 えへへ、と小さく笑うゆうな。


 照れと嬉しさが混じったその表情があまりに可愛くって、抑えたはずの撫でたい衝動が巻き起こる。


 ああもう、いっぱいナデナデしたいなぁぁ!


「ねえ、撫でちゃダメ?」

「ナデナデして、っておねだりしてくれたら撫でてあげるよ?」


 対象をすり替えないでください。


 やんわりと撫でることを拒否された俺は、仕方なしに手に取っていたネックレスのプレート部分を見る。


 流れるような筆記体で彫られている『Akari』という名前。


 もしパラレルワールドに来なかったら、これが『Akira』と彫られていたのだろうか。

 プレゼントをもらえた嬉しさもあるけど、なんだか惜しい気持ちが混ざる。


 どうすればいいのかなんてわからないけど、元の世界に戻りたいなぁ……。


 今こうして「あかり」と入れ替わっておらず、俺があきらのまま誕生日を迎えていたら、あっちの世界のゆうなもこんな風に誕生日プレゼントをくれたのだろうと思う。そう思いたい。


(この彫られてる名前が『Akari』じゃなくて『Akira』だったらなぁ……)


 そうして、そっちの世界のゆうなからもらったはずであろうネックレスに彫られた『Akira』の文字を見て――


 不意に既視感。


「……?」


 その感覚に身を任せ、少し薄目にしてネックレスを眺める。


 銀色のプレート。そこに彫り込まれた文字。

 なんだか見覚えがある気がしたのは――文字の方だった。


「あっ……」


 俺の声に驚いたゆうなが、ビクリと弾かれたように俺を見る。

 そのゆうなに向け、俺はネックレスのプレート部分を見せた。


「これ、アナグラムだ!」


「アナグラム?」

「うん!」


 小首を傾げるゆうなに対し、俺は強く頷いて見せた。

 そしてネックレスのプレートに彫られている『Akari』の文字を指差す。


「俺の名前は「あきら」だろ? それをローマ字で書くと『Akira』。で、「あかり」はローマ字で書くと『Akari』になる。その二つを比べると……」

「あっ、なるほど!」


 俺の言わんとしていることに気づいたらしいゆうなは、自身の胸の前でパン、と両手を合わせた。


 『Akira』と『Akari』。


 その二つの違いは『a』と『i』の位置だけであり、他の『A』や子音はまったく一緒。字面も似ていることで、俺は先ほどの既視感を覚えたのだろう。


 『a』と『i』の入れ替わり――

 そして「あきら」と「あかり」の入れ替わり。


「すごいすごい、なんだか運命みたいだね! 二つ合わせて『愛』だって!」


 まあ入れ替わった『a』と『i』を合わせるとそうなるけど、なんだか恥ずかしいからそう言うのはやめてほしい……。


 ちょっと気恥ずかしくなったが、嬉しそうに笑うゆうなを見て、俺も同様の感情を覚える。


 一つパズルのピースがハマったような、小さな手応えを感じた気がする。


 このアナグラムはただの偶然かもしれないけど、全く原因のわからない入れ替わりなんて事象に見舞われているのだから、俺と「あかり」の関係性に一つでも何かを見出だせたのは嬉しい。


 それに、もしかしたらこれだけでないかもしれない。


 なにせ、俺たちはパラレルワールドの「俺」同士なのだ。

 恋人が同じ時点で、他に共通点がないとも言い切れない。


 友人関係も変わらないかもしれないし、些細なところではホクロの位置が一緒だったりするかもしれない。


 そういうことから俺が元の世界に戻れる方法を得られる可能性は低いかもしれないけど、なんていうか、間違い探しならぬ共通点探しみたいな面白さがありそう。

 ……ちょっとだけね。


 もっとも、元の世界に戻る方法を見つけるまでの暇つぶしにいいかな、程度のもの。

 それぐらいなら、方法を探すのに支障は出ないだろう。


 「あきら」と「あかり」。


 別世界の同一人物だった俺たちに、一体どんな共通点があるのやら。


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