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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
俺、女になりました
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パラレルワールドという可能性


 俺は思考を始める。


 ゆうなは、俺と交際している彼女、ガールフレンドである。

 そのことは、俺がいかにしてゆうなと知り合い好きになって告白したことから、ついこの間行った「付き合って三ヶ月記念デート」までの記憶がどれも鮮明に残っている以上、揺るがない。


 しかし、ゆうなは「あかり」と付き合っていたと言う。加えて、自身をレズビアンと言ってのけたのだ。


 隠し事が下手なゆうなの性格や、先ほどまでの言動を総合的に考えれば、そのことにも嘘はないだろうと思う。

 思うのだが、それらをそれぞれ立たせたのでは、事が矛盾してしまう。


 たしかに、ゆうなは俺と――男の俺と付き合っていた。

 にも関わらず、自分のことをレズビアンだと言い切り、また、ゆうなの中では「あきら」の代わりに「あかり」がそのポジションにいる、だなんて。


 明らかに筋の通っていないこの状況。


 まさかゆうなが俺を騙し、レズビアンであることを隠して「あかり」と二股していたわけはあるまい。

 そんなことをする理由など塵もないし、隠し事が苦手なゆうなが今まで隠し通せているという見解には無理がある。


 もしくは、男の俺と付き合ってきた事実自体が無根で、ただの妄想オチ?

 いや、そんなはずもない。

 それならゆうなが俺の家まで来るわけもないし、そもそもその論理では、俺が「あかり」になってしまっている今の状況の説明がつかない。


 頭の中に浮かび上がる一つの説。


 ――パラレルワールド


 「IFの世界」や、「もしもの世界」など。 呼び方はいくらでもあるが、要するに今とは違った選択肢を選んだもう一つの世界、ということ。


 その選択肢に大小はない。例えば、夕食のカレーがシチューだったら、とか。もし大学受験に失敗していたら、とか。

 選ばれなかった選択肢のその後の世界こそが、パラレルワールドと呼ばれるものなのだ。


 それを、今の俺の状況に当てはめるならこういうこと。


 『もしも俺が女だったら』の世界の「俺」と入れ替わった世界。


 ……まあ、ちょっと電波臭いけど。

 自分の頭の中から出てきた案だが、突拍子のなさに我ながら苦笑する。


 不意に友人の顔が浮かぶのは、これは彼から聞いた知識だからだろう。


 俺の脳みそで弾き出すことのできる答えの中で、最も適当だと思えるのがこれ。もしそうなら、一つ一つのことに納得がいくと思っている。


 俺が誕生日の零時ちょうどにパラレルワールドの「俺」と入れ替わったとしたら、今俺がいるここは、『もしも俺が女だったら』の世界。


 この世界のゆうなは「あかり」と付き合っているため、レズビアンだという彼女の発言に嘘はない。

 また、世界が入れ替わったのだから、男だった俺がゆうなと付き合っていた事実も、同じように真実である。


 そう考えると、矛盾していた事柄がピッタリ当てはまっているように思える。


 そこから導き出される答え。


 俺は、パラレルワールドの住人である「あかり」と、人格が入れ替わってしまった、ということだ。


     *


「パラレルワールド?」

「そう、パラレルワールド。もしもの世界だ」


 小さく首を傾げたゆうなに、俺は強く頷く。


「それならいろいろと納得がいくと思うんだけど、どうかな?」


 頭の中で考えただけの意見など、所詮は独りよがりに過ぎない。

 自己完結したそれも、他者から見れば取って付けたような違和感のあるものだったり、結論付けた過程に穴があることを発見するかもしれない。一人の意見とは得てしてそういうものだ。

 そして、それを防ぐためには他者の手助けが必須。そう思い、俺は、俺の考えたことをゆうなに打ち明けた。


 ……なぜかゆうなに撫でられながら。


「う~ん、そうねえ……」


 ベッドの淵に座り、虚空を見上げながら呟くゆうな。

 じっくり考えているのかそう言ったところで言葉を切り、また俺の頭を撫でる手を止めた。


 というか、何で俺はゆうなに撫でられているんでしょう。普段は撫でる側だったのに。


「理屈はわかったけど、あんましっくり来ないなー。原因はわかる?」

「いや、さっぱり」

「だよね」


 首を横に振り返答する俺に、ゆうなは人差し指を口元に当てた。


「でも、なんだか神様からの誕生日プレゼントみたいだね」


 まあ、タイミングだけを考えるなら、そう考えることもできるだろう。

 俺が誕生日を迎えると同時にこの入れ替わり現象が起きたのだから。


「そう考えると、ちょっと素敵かもね」


 いや、俺は思いっきり最悪なんですけど?


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