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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
ゆたかとゆうな
55/116

ゆうなの知るゆたか


 突然のゆうなの言葉に、さすがのゆたかも動揺の色を隠せない。


「な、何を……?」

「狙っていたのか、いなかったのか。それだけ答えて」


 端的に告げるゆうなの語気は強い。


「まあ……そうだね、うん。狙ってはいたよ」

「そう。ごめんなさいね、本人の前でこんな話をするのもあれなんだけど」


 曖昧に頷くゆたかに、ゆうなは薄く目を細めた。


「きっかけは、あかりにあなたの話を聞いたこと。「幽霊の見えるすごい友達がいる」って、そんな感じだったわ。ね?」

「え、えっと……」


 最後の「ね?」で俺に振られて焦るも、記憶をさかのぼる。


 ええと……そういえば、


「う、うん。たしかに話したことある」


 そこに世界の違い、ゆたかとたくやの違いはあれど、話したことはある。


 たくやのすごさは、それだけで話のネタになる。

 話し始めはみんな信じないものの、実際に抜き打ちテストを当てたことや、その後日の体験談を話すと、ナチュラルに驚いてくれる人ばかりだった。


 だから俺はたくやの話をそこそこの頻度でするし、逆にその話をしたらこういうリアクションがあった、とたくやに話すこともある。


 そして記憶上、ゆうなにもそれがあった。


「初めは胡散臭いなって思ったわ。私、あんまりそういうの信じないタイプだから」


 そういうとおり、ゆうなの反応はあまり良くなかった。

 俺の世界でそうだったのだから、こちらの世界でもそうなのだろう。


「でも興味は湧いたわ。恋人のあかりがすごく楽しそうに話すんだもん。それがどんな人なのか、気になったの」

「それで私を調べたのかい?」

「ええ、調べたわ。あなたとあかりが一緒の授業に忍び込んだの。自分の授業をサボってね」


 どの授業で一緒なのかあかりに聞いていたからね、と付け加えるように言う。


「大学の授業ってそういうの楽よね。代返が簡単にできちゃうんだから、逆も簡単。百人近く学生が参加してる授業に一人くらい増えたって、全然バレなかったわ」


 ゆうなが俺の受けていた授業に忍び込んだ。

 その事実があったか記憶の中に探るも、該当するものは一つもない。


 俺に見つからないようゆたかを観察していたのか、それとも俺の世界ではそれがなかったのか。

 どちらかはわからないが、とにかくこの世界のゆうなは、そうしてゆたかを見て調べていたと。


「そこで気付いたの。菅原さん、あなたがあかりと話す時のあなたの不自然な態度に」

「不自然な態度? 私はあかりとは自然に接していたつもりだけど……」


 思い当たる節がないように顔をしかめるゆたかに、ゆうなは小さく首を振る。


「そういうのは本人は気付かないみたいだけど、他人から見たら結構わかるものよ。特に、あなたと同種の人間ならね」

「同種というと……」

「レズビアン。忍び込んだ当時にも耳に挟んだことがあったわ。「菅原ゆたかはレズビアンだ」って。ずいぶんと大っぴらにカミングアウトしていたみたいね、あなた。私はなるべくひた隠しにしていたけど」

「そうだね、隠すつもりはなかったから。偏見を抱いてそうな相手以外には、聞かれたらカミングアウトしていたよ」


 つまり、ある程度公表していたゆたかがレズビアンである事実を、ゆうなも聞いていた?


 聞くと、ゆうなは頷く。


「ええ。だからこそわかったわ。あなたのあかりを見る目。話し方。接し方。あなたたちの三つ後ろの席で見てたからわかるの。あなたがあかりをそういう目で見てるんだって」

「そ、そんなにわかりやすかったのかい?」


 焦りを帯びた様子のゆたか。


 対し、ゆうなは小さく笑う。


「ええ、私から見ればね。あなたは同種だし、あかりは私の恋人だったから、嫌でも敏感になるわ。もはやバレバレってくらいだったわね。でも、あかりには気付かれなかったみたいよ、この様子からすればね」


 と、ゆうなは俺を見る。


 この様子、というのは俺の様子のことのようだ。

 俺はあきらだから、気付くも何も、今知らされるようなもので……。


「でも、決して不安には思わなかったわ。あかりは今まであんなにも私を好きだって言ってくれたから」


 ゆっくりと息を吸い、ゆうなは言葉を続ける。


「嘘が苦手な私と同じように、あかりも嘘を隠すのが下手だから」


 特別何かの感情を押し出すでもなく、かといって無表情に淡々と告げるでもない。


「私と楽しそうに過ごしてくれるあかりを見て、不安になんて思う要素はなかった」


 誰に向けた言葉でも、独白でもない。

 ただ溢れるように、ゆうなは言葉を吐き出していく。


「でも、今日は違うのね」


 一息溜め、言う。


「今の状況を見て、よくわかったわ。――“そういうこと”なんだって」


 つまり、ゆうなの言うそれは――


「浮気してるんでしょ?」


 ハッキリと見抜かれた俺の嘘だった。


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