あきらとあかり
*
「――と、いうわけなんだ」
「う、うん……」
数分に渡った話を終え、それに対しゆうなは戸惑いを見せながら頷いた。
やはり、一度に理解するのは無理というものだろう。
ほんの一瞬の内に女体化してしまったなど、当事者である俺でさえ、素直に信じるのには抵抗がある。いくら最愛の彼女と言えど、いきなり信じるなんて――
「わかった、信じるよ」
……どうやら俺は、ゆうなを見くびっていたようです。
思わずその頭を目一杯撫でてやりたくなるような笑顔で、ゆうなは俺に向け強く頷いた。
「し、信じてくれるのか?」
「もちろん。私はあかり……じゃなかった。あきらの彼女だもん。信じるに決まってるよ」
か、可愛すぎるぜ……!
なんと健気な言葉だろう。
あまりに嬉しい言葉を受け、俺の頬は完全に緩みきってしまう。
はたから見たら、きっと気持ち悪いぐらいニヤニヤしているに違いない。
ああ畜生、「信じてくれるのか?」なんてゆうなの気持ちを疑うような言葉を投げかけてしまった過去の俺を殴りたい。
組み伏せて再起不能になるまで顔面を殴打してやりたい気分だ。
「ありがとう、ゆうな。そう言ってくれると俺は……」
「水臭いこと言わないで。私、あきらの彼女でしょ?」
ゆ、ゆうなたぁぁぁんっ!
なんてできた彼女だろう、と思わず感慨深くなってしまう。
言われた途端に嬉しすぎて抱きついてしまうセリフを、さも当たり前のように言ってのけるなんて。やはり、ゆうなは最強だ。
「もう。あかり……ああ、じゃなくて、あきらは甘えん坊さんだね」
言い直しを含めつつも、ゆうなは自身の胸に飛び込んだ俺を優しく包み込んでくれた。
いや、本当は抱きしめようとしたんだけど、体格の差でそれができなかったんだ。
つうか、大学三年の俺を捕まえて「甘えん坊さん」呼ばわりかい。
「それにしてもビックリだなー。まさか“レズビアン”の私に彼氏がいたなんて」
「れ、レズビアン……?」
「うん、レズビアン。女の子しか愛せない女の子のことだよ」
不意に投げかけられた言葉に、反射的に聞き返してしまう。
言葉の意味は知っていたし、その認識も合っていたけれど、俺が聞き返したのはそういうことではない。
レズビアンって……ゆうなの彼氏である俺は男。
だからそんなわけ……いや?
俺の視界の両端に鬱陶しくもまとわりつく長い髪の毛をきっかけに、俺は気づく。
なぜかはわからないが、ゆうなは俺のことを「あかり」という名前の女だと思っていた。
そして、その「あかり」の恋人だった。
つまり、ゆうなと「あかり」が付き合っていたのだとしたら、それは女同士。ゆうなの言うとおり、レズビアンということになる。
……いや、男の俺と付き合ってましたけどね?