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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
二つの可能性
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ゆたかのスイッチ


「というわけで、私はあかりとセックスがしたい。ひいては、あかりの姿をしたあきらとセックスがしたい」

「というわけ、で集約するなよ」


 ゆたかが俺にレズビアンについて教える、という最初の話は終えたらしい。


 どういう思考でそのまとめになったのかはわからないけど、話題はそこに戻ってきた。


「私は欲に忠実な人間だよ」

「……はい?」


 いきなり何を言い出すかと思えば。


 座ったまま、ゆたかはぐいっと身を寄せてくる。


 思わず引いても、その分を確実に埋めて。


「知識欲のために勉強や読書は欠かさないし、このオカルト研究部に入ったのも、私の見える幽霊について少しでも語らえる人物を探すため。語り合いたい欲望を満たすために籍を置いているんだ」

「ちょ、ちょっと……」


 わしっ、と俺の両手を掴み、自身の胸に引き寄せる。


 薄いながらも、その胸に手を当てるように。


「あきらは、きっと不安なだけなんだよ。女の子同士のセックス……ゆうなと経験しただけじゃわからない奥深さ。大丈夫、私は優しいよ」


 爛々と輝いた瞳を向け、薄く潤った唇が開く。


「だから、私とセックスをしよう、あきら」

「……」


 ……あの。

 なんか、めっちゃ迫られてるんですけど、俺……。


「ちょ、ちょっと距離置いて」

「嫌だ。今すぐにでも抱きつきたい」

「いいからっ」


 両手を掴むゆたかを振り払い、押しとどめる。

 ゆたかの両肩に手を置き、近付かないように突っ張って。


「ゆたかがどのくらいセックスしたいかはわかったから、とりあえず質問――」

「私の胸のサイズかい? 恥ずかしながらAだよ。Bに届く気配すらないけどね」

「それは聞いてないから! 妙に誇らしげに言わなくていいから!」


 つうか、胸のサイズを言うときってもっと羞恥したりするものじゃないの?


「と、とにかく質問――」

「わかった、私の性感帯だね? 本当はあきらの手で見つけてほしいけど、そうまでして聞きたいなら仕方がな――」

「そうまでして聞きたくないから! 言葉食ってまで暴走するのやめい!」


 つうか、女の子がそういうこと言うなよ。

 いや、実際はそういうことも言うかもしれないけどさ、男の想像にそぐわないっていうか……。


「はあ、もう……」


 何で一つ聞きたいだけなのに、こんな熱烈を受けなきゃいけないんだよ……。


「ところで、私からも質問していいかい?」

「俺の質問も終わってないのにっ?」

「あきらの――」


 あ、無視ですか。


 まあ仕方ないかと思い、耳を傾ける。


 と、ハァハァと荒い息遣い。


「パンツは何色だい?」

「……え゛」


 刹那、下からの強風。


 ――スカート捲り。


 その要領で捲り上げられた、ワンピースからの風だった。


「あ、無地の白。すごいね。純粋無垢だね。あかりの少女性に見合っていてとても素晴らしいと私は思うよ」


 犯人は当然、ニヤニヤ口元の緩んでいるゆたかに他ならなかった。


「お、お前……!」


 慌ててワンピースの裾を押さえるも、後の祭り。


 中は完璧に見られたし、あまつさえ、


「いやあすごい。座っているところを捲るとなかなかの食い込み具合がまた――」


 めちゃめちゃ考察されてるし……!


「この……!」


 とりあえず殴らにゃ気が済まないと腕を振り上げ――ゆたかの手に掴まれた。


 振り上げられた二の腕を、ゆたかの細く長い指が掴む。


 その力は、咄嗟には振りほどけないもので。


「二の腕も脇も、すごく可愛いよ、あきら。もう、舐めちゃいたいくらい」


 それは実行に移された。


 四の五のする間もなくゆたかの顔が俺の二の腕に寄せられ。

 その中腹を、一舐め。


「うあっ……!?」

「ふふふ、実に愛くるしいね」


 こそばゆい感覚にピクリと跳ねた俺を、ゆたかは笑う。


 味わうように舌を唇に這わせ、艶に満ちた表情で。


「ば、バカ、やめ……っ」

「もうちょっと舐めちゃお」


 脇から肘にかけて、ゆっくりと這うゆたかの舌。


 生温かい。

 そして、ねっとりとした感触が、敏感に触れる。


「ぁ……だっ、やめ……っ」


 悪寒めいた冷たさが背筋を這い回り、力を奪う。


 首筋にぶるっと震え。

 腰に言い知れぬ緊張が走る。


 ゆたかの唇が耳元に寄る。


「もっと鳴かしたい。鳴かしてあげるよ、あきら」


 息遣いが耳に触れる、甘い囁き。


 気が付けば、掴まれた二の腕は解放されている。

 両腕を垂らし、椅子の背もたれに体重を預けていた。


 息は、やや肩が弾むほど。

 体の芯に熱がこもっているような感じがした。


 その俺を、ゆたかは身を寄せて笑う。


「あきらは、どんな味がするのかな?」


 身を低く、頭を下げていく。


 先は、俺の足の間。

 股に位置するところで――


 って、


「それじゃあ、いただ――」

「かれるかあああっ!」


 思い切りチョップをかましてやった。


「いっ……たぁ……っ」


 あ、危ねえ……!

 危うく大学内で襲われるところだった……!


「うう……ここ、さっきたんこぶできてたのに……」


 頭を押さえるゆたか。


「し、知るかあほんだらっ!」


 つうか、まず反省をしろ!

 閉め切られてるとは言え、大学の教室内でありえない行動したんだぞ!


「この、変態バカっ!」

「あ、可愛らしい罵倒」

「う、うるせえよっ! いっぱいいっぱいでそこまで考えられないんだっつうの!」


 ああもう!


 顔は火照ってるみたいに熱いしっ。

 舐められた二の腕はすっごくかゆいしっ。

 囁かれた耳元はむずむずしてたまんないしっ。


 とにかく椅子から立ち上がって、ゆたかから距離を置く。

 背に棚が当たるくらい、ギリギリまで。


 弾む息に一度深呼吸をして、屈み込んでいるゆたかを見下ろし、言う。


「謝れ! もう二度と襲いませんって神に誓いながら謝れ!」


 ただでさえ力が弱くて、背も小さいこの体。

 それを、百八十を超える長身のゆたかが襲ってくるなど、恐怖以外のなにものでもない。


「私、無神論者だけど」

「じゃあ何でもいいから! とにかくもう二度とすんな!」


 しょうがないなぁ、と反省する気がまるで見えない様子で、ゆたかは立ち上がった。


 頭の痛みはだいぶ引いたらしい。

 軽く頭を擦りながらも、痛む様子はない。


 そして、


「もう一回舐めてもいいなら」


 引くのも躊躇うくらい清々しい微笑みを称えてそう言ってのけたので、俺はそこに置いてあった空缶を投げてゆたかの頭に直撃させてやった。


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