途端に緊張してしまうのは意識のせい
*
「……はぁ」
菊地原先生の帰ったオカルト研究部室。
そこで、俺は部長用の椅子に腰掛けてため息をついていた。
本来この席に座るべき人物は、先ほど「飲み物を買ってくるよ」と出掛けたばかり。
だから、今の俺は一人だった。
「はあ……」
そうして、もう一度ため息。
ふと開け放たれたままの窓を見れば、空はこれから紅に染まらんかという頃合い。
夏が過ぎ、残暑厳しいこの季節。
日の長さで考えれば、午後五時を過ぎたくらいだろうか。
本当なら今すぐにでも行動すべきなのに、気持ちがついていかない。
頭と心の離れる違和感を、この身にひしひしと感じていた。
俺がどうするべきなのか、わかっているはずなのに。
なのに……俺は待ってしまっている。
一階上の自販機まで飲み物を買いに出掛けたゆたかが帰ってくるまで、行動を控えようとしている自分がいる。
ただ先延ばしにしているだけなのに。
言いわけにすら、なりはしないのに。
(ああ、もう……)
綺麗に切りそろえられている爪で、無闇に髪をかき上げ、頭をかく。
なんで……。
(何でゆたかとセックスするはめに……)
逃げたくてたまらなかった。
「あぁぁ……」
凝り固まる思考を霧散させんと、頭を抱え、かく。
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、と言い聞かせる。
これは必要なこと。逃げちゃダメなんだ。
一心に気持ちを言葉にシフトし、没頭する。
そんな自分を、まるでエヴァンゲリオンの主人公みたいだなと思う反面、他に考えの及ばない余裕のなさ。
刻一刻とくる切迫感に、胸が苦しかった。
苦しむほど、この体は胸がないのに。
と、ドアの開く音。
「ただいま」
すらっと伸びた人影に、ドキリと鼓動がはねる。
ゆたかが戻ってきたところだった。
視線が合うと、柔らかい微笑みが返ってくる。
「おまたせ。ダイドーの自販機なかったからジョージアにしたけど、大丈夫だったかい?」
「う、うん……」
別にどちらでも良いんだけど、べったりと喉に張り付くような感覚のする中、差し出された冷たい缶コーヒーを受け取った。
プルタブを開け、一口煽る。
ほのかな苦味と後味に残る甘さが、口に広がった。
(ゆたかは、どう思ってるんだろう……?)
傍らに佇むゆたかを見上げようとして――すぐに止めた。
意識してしまっている。
その自分の表情を見られるのは、すごく恥ずかしいように思えてならなかったから。
だって……友達とセックスするなんて、そんな……。