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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
オカ研顧問の“再登場”
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可能性を追求する


 なんとなくだが、この二人が言わんとしていることが見えてきた。


 俺の世界のゆうなは異性愛者だが、この世界ではレズビアン、同性愛者。そう考えてみたとき、浮かぶのは異性愛者か同性愛者かの違いだ。


 両世界において変化のない唯一の人物が見せる、たった一つの変化。

 俺が元の世界に帰る方法のヒントとしては、十分なほどに浮かび上がる点だろう。


 だから、そこを主軸にして解決策を探し、考えればいい。

 考えるだけの知識がないのなら、学べばいい。


 しかし、残る疑問。


「なんとなくはわかったけど……一つ、いいですか?」

「なにかな?」


 反応を示した菊地原先生を見る。


「レズビアンについて学ぶのはいいんですけど……それが元の世界に戻る方法に繋がるんですか?」


 仮に、俺がこれからレズビアンについて学ぶとしよう。


 近くにはレズビアンのゆたかもいるし、学ぶ必要があるなら、頑張ってその手の社交場にも顔を出してみる気もある。

 直接ゆうなに聞かずとも、知る、学ぶことだけなら方法は多数だ。


 が、疑問はそれ以降。


 俺がレズビアンについて熟知して、それがどうなるのか。

 ただ知識幅を広げ、経験を深くするだけで、世界間を渡る方法を見つけられるのか。


 それが、俺の脳裏に浮いた疑問だった。


「たしかにレズビアンについて学ぶのは、ゆうなを知る上で必要なことだとは思うんです。俺のいた世界とこの世界、みんな性別が違うのにゆうなだけは一緒で、そのゆうなはレズ……ビアンかそうじゃないかって違いがあるので」


 気がついたときにはまた俺の頭をなでているゆたかの手を感じるも、そろそろ諦めて俺は続ける。


「でも、それが元の世界に戻ることに繋がるんですか? ゆうなが唯一のヒントであるのはわかるんですけど……」

「まあ、そうだろうね」


 菊地原先生の返しは頷き。


「一見して、レズビアンについて学ぶだけでは平行世界の秘密に近付けるとは思えないのが意見だろう」


 剃り方が荒いのか、少しの剃り残しのひげを気にするように顎に手を当てる菊地原先生。


「私も、必ず解決法に繋がるとは考えてないよ」


 無責任な発言をされた。


「え……」


 漏れるような、驚いた俺の声。

 発するつもりのなかったそれが耳に届くが早いか、俺は声をあげた。


「か、解決法に繋がらないってどういうことですかっ?」


 何かしらで繋がると思っていた予想を裏切られた衝撃は大きい。


 この人は、俺よりもずっとその手のことについて詳しい。


 オカルト研究部の部長であるゆたかが勧めた人物だ。

 その点については疑う由もなく、俺の知らぬ知識を用いて解決法まで導いているものだと思っていたのに……。


「まあまあ、落ち着きたまえ」


 ひげを触る動作を続けながら、菊地原先生は言う。


「必ずしも繋がるとは限らない。私はそう言ったんだ」

「必ずしも……?」


 ああ、と頷く。


「あくまで可能性に過ぎないことなんだ」


 そう言われ、ああそういうことかとわかった。


「もしそれが必ずというのであれば、私は今ごろ平行世界間を行き来しているよ」


 かもしれない。


「そしてもう一つ」


 人差し指を立てる菊地原先生を、ゆたかに頭をなでられ続けながら見る。


 表情は固い。


「可能性として、君の世界に帰れないことがあるのを知ってほしい」


 ……それか。


 できることなら聞きたくない話。


 最悪のケースだ。

 もしものそれを想定し、俯きがちになる。


 が、なでるゆたかの手がぽんと一叩き。


「立ち向かう覚悟は、逃げない覚悟。ね?」


 ……また難しいことを。


 でも……決めなくちゃ。


 菊地原先生がこれから話そうとしているのは、きっと残酷な可能性の話。

 俺にとって、聞きたくもない絶望のそれ。


 決めなくちゃ、こうして助けてもらってる意味がなくなる。

 逃げてちゃ、スタートラインに立つことだってできない。


 だから俺は、


「……知るだけなら」


 受け入れる覚悟はできないけど。


 それでもなんとか。

 なんとか、向き合うようにしよう。


 そう思った。


「いい返事だ」


 意思を汲んでくれたのか、菊地原先生が笑う。

 丸みを帯びた体型もあってか、柔和な印象を受けた。


「それでは話そう」


 俺は、自身の体の前で両手を握りしめ。

 ゆたかは、俺の後ろから頭と肩に手を置き、聞く。


「――偶然。その可能性を」


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