見つけた尾を追いかけて
一つ、渇いた喉に些細な水分をと、ごくりと喉を鳴らす。
「その、ヒントって……?」
恐る恐るといった、俺の高い声。
様々な感情の混ざるうち、一番は緊張。
そして待ちきれない気持ち。
今か今かと、俺の問いへの返答を待ちわび、
「君は、確かあきら君と言ったかな」
「は、はい」
問われ、思わず噛みそうになってしまった舌を慌てて収める。
「そのヒントだが、」
また、一つ喉を鳴らす。
待ちわびたそれに、俺の薄い胸の下にある鼓動が高まるのを感じた。
そして、一言。
「君は、レズビアンについて詳しく学びたまえ」
……?
一度、思考が止まる。
(俺は今、何て言われた?)
自問。
(レズビアンについて学べ、と言われた)
自答。
そこまでして、俺はようやく言葉の意味を理解する。
「あの……何でですか?」
当然の疑問だと。
話がそらされたものだと思った。
が、菊地原先生は何でもないように口を開く。
「それがヒントだからだよ」
「ああ、なるほど」
隣のゆたかが、何故か納得していた。
「な、何で……?」
菊地原先生は何でもないように言うし、ゆたかは気付かされたように頷いている。
なのに、俺にはそれを理解に至らない。
俺が、レズビアンについて学ぶ。
それが、どうして元の世界に戻るヒントになりえるのかわからなくて。
「俺、わかんないんだけど」
言うと、頭に感触。
ゆたかが、大きな手のひらを俺の頭に乗せていた。
「それは君の彼女、ゆうなが関係してくるからだよ」
何気なく俺の頭をなでようとしていたゆたかの手を払う。
「ゆうなが……?」
ゆうなが関係している。
それは、前にゆたかと話して導き出した可能性。
この世界と俺の世界。
両者において、ゆうなだけが異質だと。
そう結論付けて――
(それだけ、だったはず)
結論から導き出されることはなく、停滞。
ゆうなが異質な存在だから、それがどうしたというのか。
異質は所詮異質であり、とてもじゃないが一般人であるゆうなに元凶を求められるようなものではない。
そう考え、それについては終わったものだと思っていた。
なのに、またゆうなが絡んでくる……?
「やはり、ゆうなが重要人物だったんだ」
そう言うのはゆたか。
今度は素早い手つきで俺の頭をなで、髪の毛の感触がこそばゆい。
「ゆうなが重要人物と言われても……」
またゆたかの手を振り払い、俺は考える。
前述のように、それはわかっていることだ。
それを今さら言われたところで、どうと言うのか。
加え、菊地原先生の言葉。
レズビアンについて学べ。
ゆうなに絡ませて考えるなら、たしかにゆうなはレズビアンだ。
それは本人から直接聞いたから間違いない。
だから、レズビアンについて学ぶ上で、ゆうなを絡ませるなら――
「……あ」
ふと、思考に違和感。
絡ませる?
いや、違う。
ゆうなは、ゆうな自身がレズビアンなのだ。
無理に絡ませていく必要などない。
それは、既に。
(レズビアンについて学べ、か……)
そして、気付く。
学ぶのは、単にレズビアンそのものではない。
この世界のゆうなの特徴である、レズビアンを学べと言うのだ。




