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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
俺、女になりました
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俺、女になりました


「うわっ……!」


 視界の左右を占める大量の髪の毛の存在を視認した瞬間に、思わずあげた自身の声。

 それに俺はぎょっとして、もう一度声をあげかける。

 あまりにも高い声。

 女性の声と取るにふさわしい高さのそれが、間違いなく俺の喉から発せられたのだから。


 それに反応して喉元に手を当てると、俺はさらに驚いた。

 常にその存在をかたく主張し続けていた喉仏が、全くといっていいほどなくなっていた。


 突如長々と伸びた髪の毛と、女性らしい声への変貌。

 一秒にも満たない時間の中で繰り広げられた劇的変化に、戸惑わざるを得ない。


(な、なんで、こんな……っ)


 が、それに驚いていられる暇はなかった。

 なぜならこのとき、俺の家のドアからガチャガチャ鍵の開けられる音がしたからだ。

 突然聞こえたその音に、ドキリと心臓が跳ね上がる。

 ワンルームタイプである俺の家の玄関は、部屋の中央にいる俺から何が起きたのかを見ることができる。

 つまり、それだけ間近で何者かに部屋の鍵を開けられようとしているのだ。


 こんな状況で、こんな時間に誰が……。

 そう思って玄関先に振り向くと――


 勢いよくドアを開けた彼女の、ゆうなの姿が俺の視界に入ってきた。


「あかり、誕生日おめでとう!」


 淡いピンク色のニット生地のトップスに、深い色合いのスカート姿。

 いつも見ているそれより幾分か大きいバッグを手に、愛しい彼女、ゆうなの登場。


 ――俺の部屋に乗り込んできた彼女が開口一番に言った言葉。


 ゆうなには、うちの合い鍵を渡してある。

 いきなり部屋の鍵を開けられたときには誰かと思ったが、それがゆうなだったのなら納得だ。


 まさか終電のなくなるこの時間にうちへ訪問してくるとは思わなかったが、だからこそのサプライズとも言えるだろう。

 だが、


(あかりって……誰だ?)


 今日、ついさっきをもって誕生日を迎えたのは、他ならぬ俺、あきらだ。

 その俺の部屋に「誕生日おめでとう!」と乗り込んできたのにも関わらず、その矛先は誰ともわからぬ「あかり」という名前。


 わけがわからなくて閉口していると、靴を彼女用のスリッパに履き替えたゆうなが、俺のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。

 そして座り込む俺に視線を合わせるようにしゃがみ、間もなく――


「大好きだよ、あかり!」


 微笑む彼女に、俺は抱きしめられた。

 抱きしめられたことにより、むにゅ、と柔らかく潰れるゆうなの胸と……小さな、もう一つの胸。

 合わせて四つの柔らかい感触にぎょっとし、反射的に視線をそれへと向けた。

 すると、どうだろう。

 Cカップの大きさを誇るゆうなの胸が、“俺の小さな胸”と押し合っているではないか。

 その小さな胸の方は、ゆうなのそれと比べるのもはばかるほどの薄い膨らみしか持っていないが、淡くもたしかに俺の胸として存在を主張しているのだ。


 あまりのことに視線が釘付けになり、また、ろくに思考も巡らない。

 そこにある、という視覚の確認しか、俺の頭にはできなかった。


「もう、どこ見てるのよ。あかりのエッチ」


 すねるような、どことなくからかいの色を含んだゆうなの声が頭上から降り注ぎ、自然と視線がそちらに向ける。


 ……が、俺の視線がゆうなのにやけたそれと交わったのは、顔をだいぶ上に向けてから。

 つまり、お互いに座っていながらして、俺よりも身長が低いはずのゆうなを見上げているのだ。


「な……なんで……っ?」

「ん?」


 無意識に出したしどろもどろの、俺の女みたいな高い声に、ゆうなは可愛らしい仕草で小首を傾げる。


 ……いや、身長が高いだけじゃない。

 いつもは俺に“抱きつく”程度にしか密着できていなかったゆうなが……。


 なんで、俺を包み込むようにして“抱きしめて”いるんだよ!?


 わけがわからない。


 なんで?

 なんでゆうなが俺よりも大きく――


 いや、それよりも……。

 なんで俺は女みたいになってるんだよ!?


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