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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
オカ研部長との邂逅
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菅原ゆたかとの邂逅


     *


「オカルト研究部、か」


 大学のサークル塔の中。

 記憶にあるそれよりも高い位置にある「オカルト研究部」と書かれた表札を認め、そのすぐ傍らにある扉を前にする。


 前に来たのはいつのことだったか。

 部長であるたくやに触れ合う機会なら幾度もあれど、部室に来たことはあまりない。


 一年のころからたくやと付き合いはあるのだが、たくやが所属しているサークルで何をしているのか、どう過ごしているのかは詳しくない。


 たくやに関わってるのでオカルトに対する興味があるのは間違いないのだが、それはたくやのすごさにつられてのもの。

 俺自身がそれに関する活動に勤しみたいというほどではないので、オカルト研究部との関わりはない。


 だから、こうしてオカルト研究部の部屋を目の前にすると、慣れない気持ちが先行してしまう。


 まあ、それでも行くしかないのだが。


「行こう」


 中にはオカルト研究部部長であるたくやがいる。

 行かねばならなかった。


 今の時刻は昼時を過ぎ、午後の講義が始まるころだろうか。

 そんな時間に、俺はオカルト研究部の部室前にいる。


 有り体に言えば、午後の講義をサボった。

 別に講義を蔑ろにしているわけではない。

 ただ、今のゆうなと同じ講義に出なくちゃいけないのが嫌だったというか、そんな心境じゃなかったというか……。


 ……ああもう。とにかく、だ。


 この時間にたくやが部室にいるのはあらかじめ知っていたこと。


 俺の中でのたくやはマメなイメージがあったのだが、本人からすると割とルーズらしく、選択制の時間割はほとんど空けているらしい。

 そのため午後に丸々講義がない日があり、その日は昼を食べ終えるとすぐに部室にこもるのだとか。


 曰わく、『おばあちゃんが拗ねる』と。

 講義ばかり受けてると、孫に構ってもらえないと言って拗ねてしまうのだそうで。

 まったくもって可愛らしいおばあちゃんだこと。


 そしてその話を聞いたときに、今日がたくやの午後のない日であることを知っていたから、俺はわき目も振らずにたくやの元に来た。


 たくやなら、オカルト研究部部長であるたくやなら何か知ってるだろう。


 そう踏んで。


「失礼します」


 二度のノックの後、外開きのドアを開け、中を確認する。


 相変わらず小さな部屋だ。

 五畳ほどの部屋に机や椅子、棚などが所狭しと並べられており、それらの圧迫感は異常のレベルにまで達している。

 部屋の中を歩こうとするなら、横歩きの他選択肢が見つからない始末。


 たしかたくやから聞いた話ではオカルト研究部は総勢六人だったはずだが、それにしてはさすがに狭すぎるだろう。

 見ればもっとも空間を使っている机ですら四つしか並べられておらず、内一つは対になる椅子さえない。


 もしこの部屋にオカルト部員の全員が集合しなければならなくなった場合、少なくとも三人は起立したまま活動する必要があるわけだ。

 いや、その前に誰かが机の上に乗らなければ六人も入りきらないかもしれない。

 そう憂いてしまうほど、窮屈な空間がそこにあった。


 まあ弱小サークルに部室が与えられているだけましというものか。


 そんなことを考えながら俺は正面に、発見した。

 奥の机に座り、窓の外を眺めているただ一人の人物を。


 窓から差し込む光の逆光。

 その中で窓際に座っている人物を見て――あれ? と首を捻った。


 肩口まで伸びる長い黒髪。腕や体からわかる線の細さ。

 すらっと伸びた手足に、程高い座高――


 ……あれ?


 それらに覚える違和感。

 俺の知っているたくやの特徴と相違していることに気付く。


 もしかして部屋を間違えたのかと思ったが、もう一度確認した表札の文字は「オカルト研究部」。間違いない。


 そして一番奥の席はたくやの定位置であると、本人から聞いたこともある。


 なのに、明らかにたくやとは別である人物がそこにいるのは……。


「ああ、あかりか」


 その人物が発する、耳に心地良い高い声。


「こんな時間にどうしたんだい?」


 それは女の声だった。

 窓際にいた女はすっと立ち上がり、狭い通路を難なくこちらまで歩み寄ってくる。


 そして、目の前にまで来たとき


「背ェ高っ!」


 女は、ざっと見ても百八十はあった。


「おやおや、割と久しぶりに会ったと言うのに開口一番がそれかい? なかなか傷付くこと言ってくれるね」

「い、いや、まあ……」


 目の前の人物の言葉なんて耳に入らなかった。


 半歩踏み出せば体をぶつけるような至近距離に女はいる。

 デカ女がそびえてる。


 顔を見ようと首を持ち上げると、もみあげから何から髪の毛が後ろに流れる。

 喉の皮が突っ張る。

 気道の確保がされる。


 つまり、俺との身長差は異常と言えるほどであって。


「し、身長は?」

「この間測ったときは百八十四センチだったね」


 高ぇ――!


 え、何、男の俺よりめっちゃ高いじゃん。

 日本人の成人男性における平均身長を上回ったぐらいの俺なんか比べるよしもないじゃん。


 しかも、しかもだよ?

 今のあかりの体で、首を上に向けずに真っ正面を見てみると、見えるのは胸元だよ胸元。

 目の前にあるのはあかりとはれるぐらい薄い胸だけど、視界の真っ正面にあるわけよ。


 何これ。ねえ何これ。

 何なの、この低身長と高身長の代表を並べてみましたみたいなこの差は。

 いや、もうマジで。


 あまりの身長差に唖然としてしまう。


 気持ちはまだ男のままである俺からすれば、こんなに見上げなければならない相手はニメートル以上の巨人クラス。

 そんな、万国ビックリショウじゃあるまいし。


 それに、ここまで背の高い女なんてあまり見たことがない。

 テレビで女子バレー選手の身長を数値で見たときは単に感心したものだが、それが実物となると……すごい迫力だ。


「どうしたんだい? 今日のあかり、なんか変だよ」


 いや、俺あかりじゃないから、あかりとして変も何もないわけで。


 不意に声を投げかけられて首を高みに向けて上げ、そこで我に返る。


 この超長身の女はあかりのことを知っているようだけど、俺は知らないし、俺が会いに来たのはたくやであって、この女ではない。


「あー……ちゃうねん」


 思えば初対面で身長を尋ねるなんていささか失礼だったか。

 なんだか罰の悪いような気がして、なんとなしにエセ大阪弁が口をつく。


「えっと、たくや……オカ研の部長に会いに来たんですけど」


 その言葉に、背の高い女はくすりと笑った。


「何を言ってるんだい。オカ研の部長なら私じゃないか」


 一瞬、思考。

 だけど、停止。


「……はい?」

「だから、オカ研の部長はこの私、菅原ゆたかだよ。もしかしてからかってるのかい?」


 ……マジで?


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