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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
オカ研部長との邂逅
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不思議な幽体録


     *


 数分後というのは、教授が講義室にやってくる少し前のこと。


 たくやがいきなりノート類をしまい出したのが発端だった。


「え、なんで片付けてんの?」


 今まで机の上に出していたノート類を手提げの鞄に入れていくたくやを見て、俺が疑問の声をあげる。


 それはそうだろう。

 普通ならば授業前にノートなどを出し、それを片付けてるのは終わってから。

 それが定型的であるのにも関わらず、教授の顔も見ない内にそれを行ったのだ。


 疑問視せざるを得ない行動に対し、張本人はこう言う。


「抜き打ちテストがあるから」

「……はい?」

「今日、抜き打ちテスト」


 リピートを求めたわけではなかったが、意図せずとも二度繰り返されるたくやの言葉。


 抜き打ちテスト?


 可能性で考えれば、なくはない。

 入学したばかりのこの時期。

 一般教養という授業柄、学力を測る意味で最初の授業に抜き打ちのテストを行う可能性は多々にあろう。


 だから、可能性で考えればなくはない。

 だが、何故たくやは“抜き打ち”をあらかじめ知っているような口をきくんだ?


 抜き打ちと言うからには、学生側には何の連絡もされていないのが当たり前だ。

 だってあらかじめ知り得ていたのなら、それはただのテストと変わりない。


「どうして抜き打ちテストがあるなんてわかるんだ?」


 対し、たくやは無表情で答える。


「おばあちゃんが教えてくれた」


 おばあちゃん何しとるんっ!


 思わず見知らぬおばあちゃんに声をあげそうになったが、次第に紡ぐたくやの言葉に俺は聞くほかなかった。


 たくやの小さく短い言葉を繋ぎ合わせるに、事のあらましはこうらしい。


 まず、たくやが講義室の席に着くと守護霊であるおばあちゃんの姿が見えなくなった。

 普段はたくやの周囲におじいちゃんと共にあるらしく、不審に思ったらしい。


 そこで辺りを探すたくや。

 俺が話しかけたのはこの辺りだと言っていた。


 すると、どこかに行っていたおばあちゃんが戻ってきた。

 ここが俺が無視されたと思ったところ。


 聞くに、可愛い可愛い孫のために、おばあちゃんは教授がどんな人かを探りに行っていたらしいのだが、その時に教授が大量のテスト用紙を持ってくる姿を発見。

 戻ってきたおばあちゃんはそれをたくやに伝え、抜き打ちテストがあることを知る結果になった、というわけだ。


 まあ、正直に言おう。


 胡散臭え……。


 守護霊のおばあちゃんが勝手にさまよって、教授が大量のテスト用紙を運ぶ姿を見た?


 これを一言で済ますなら、


「ハハッワロス」


 だってそんなオカルチックなことを淡々と申されましても、そんなものとは地上波を経てしか関わりのなかった俺としましては返答に困るわけで。


 まあ話の流れはわかった。

 その中には俺が講義室に入ってきた時に辺りをキョロキョロと見渡していた理由もあったし、俺の話を遮って「あ」と呟いた経緯もあったし、虚空を眺めて俺を無視していた理由だってあった。

 で、それが後付けにならない根拠は?


 つまりそういうことである。


 こんなの考えればいくらでも嘘がつけるし、どうとでも言える。

 つじつまなんてのは後から付け加えればそれっぽさなど山のように付加されるのだ。


 信じる、信じられない。

 その選択肢で言うなら、俺は笑い捨てる。


 そんな心境だった。


 ――教授が大量のテスト用紙を重そうに運んでくるまでは。


「……うそーん」


 バーコード頭に脂汗をびっしょり滴らせながら、小太りの教授が大量の用紙を教卓の上に置く。


(い、いや、まだ紙だ。テスト用紙と決まったわけじゃない)


 動揺が抑えきれない心を落ち着かせるように、俺は心の中で呟く。


 教授が持ってきたのは、あくまで大量の紙。

 もしかしたら何かのアンケートかもしれないし、連絡用の紙……いや最初の授業だから、その手の紙かもしれない。


 まだテストがあるなんて決まったわけじゃない。


 下手に回る頭で導き出さんとする解答は、


「早速だが君たちにはテストをしてもらう!」


 バーコードハゲの教授の一声によって、粉々に砕けた。


 抜き打ちテスト。

 たくやが言ったように、これは抜き打ちテストだったから。


 そうだ、よくも考えてみろ。

 これがテストであるかないかなんて問題ではない。


 たくやは、大量のテスト用紙を運ぶ教授、と言っていた。

 つまり、たくやが言っていたことは真実。

 それがテスト用であろうがなかろうが、大量の用紙を持ってきている事実に変わりはなかったのだ。


(守護霊が、マジ……?)


 不意にたくやと目が合う。


 今まで無表情しか見せることのなかったたくやが、この時ばかりは口端を上げた。


 そして紡ぐ。


「ね?」


 短い言葉に、鳥肌が立った。


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