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俺はレズになりたくなかった  作者: ぴーせる
女装させられました
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お着替え教室


     *


「ゆうなのばかぁ……」

「まあまあ、気持ちよかったからいいでしょ?」


 全裸でベッドに寝転がりながらぼやくと、下着姿のゆうなはくすくすと笑いながら返してくる。


 図星、というか本当のことだったので、俺は何も言えずに押し黙ってしまった。


 代わりに起き上がり、その辺に放り投げてあった俺のパンツを手に取ってそそくさとはく。さすがに全裸のままいたくない。


 着替えの際、見下ろせばあかりの裸が否応なしに目に入るのだが……。

 なんていうか、あかりの体になってからというもの、肌色成分が多すぎて、違和感はあるにせよ、見慣れてしまった感じ。

 もっとこう、羞恥するというか、見てはいけないものを見てしまった罪悪感めいたものが湧くのかと思っていたけど、こんなな幼稚な体型だとその感じもない。


 どちらかと言うと、今はき直したばかりのパンツ。

 このぴったりと張りつくような感じが気になる、というか、なんだか嫌。


 男のときはトランクス派だっただけに、ブリーフにすら慣れていない俺には密着しすぎているし、布面積の少なさからすごく頼りないものに思えてしまう。

 本来持っていたはずの包み隠さなければいけないものがなくなって、今は覆い隠せばいいだけだから充分なのはわかるけど、足の付根にゴムの当たる感じも慣れなさすぎるなぁ……。


「あきら、ブラの付け方わかる?」


 不意にゆうなから声がかかった。


 そちらに振り向くと、そこには俺の、というかあかりのブラジャーを手に持っているゆうなの姿。


 ふりふりと振り、挑戦的な笑みを浮かべている。


「まあ、平気じゃね?」


 差し出されたブラジャーを受け取り、俺は軽く返答する。


 当たり前のようにブラジャーをつけた経験などないが、脱がした経験ならある。

 脱がすことができるのだから、着ることなどそう大差ないだろう。

 シャツやズボンだって、着るのと脱ぐのは逆の手順をたどればいいのだから。


 そう思っていたのだが……。


「……あれ?」


 ブラジャーの肩紐をかけ、金具を留めようと背中に手を回したところで――


 俺は固まってしまった。


「もしかして、うまくつけられない?」

「う、うん……」


 ブラジャーのホック部分がうまくかからない俺に、軽く上から目線でニヨニヨ笑ってくるゆうな。


 軽く言ってしまった手前気恥ずかしいが、できないものはできないのだと、俺は小さく頷いた。


「ほら、こうするとつけやすいわよ」


 ゆうなはそう言うと、俺の胸にあてがわれていたブラジャーを俺の首元にまでたくし上げる。


 何をするのかと思って黙って見ていると、さらにゆうなはブラジャーを回して前後を入れ替え、背中のホック部分を俺の正面に持ってきた。


「はじめに前で留めて、それから胸に合わして下ろすの」


 俺の眼下でブラジャーのホックがゆうなの細く白い指によって留められ、もう一度くるりと前後を入れ替えて、元のようにパッド部分が前にくる。

 そしてそれを少し胴の方に下ろし、薄い膨らみしか持たない俺の胸がパッドの中に納められていった。


 なるほど、この方法なら後ろ手に留め金をつけずに済むし、何より楽そうだ。


 俺には思い付かなかった発想に感心していると、


「このやり方覚えておくといいよ。お腹の方で留めてから着ける方法もあるけど。あかりは不器用で後ろで留められなかったからね、どうせあきらも不器用なんでしょ?」


 どうせってなんすか、どうせって。


「うん、やっぱり下着姿も可愛いよ」


 軽く図星だったことへの愚痴を内心ぼやいていると、自身の胸の前でパチンと手を叩いたゆうなが楽しそうな表情に変わった。


「また襲ってもい――」

「よくないから」

「えーっ」

「えーっ、じゃありません」


 元の世界では、ゆうなはもっと真面目な子だったのに……。


 すっかり「性欲持て余す」のワードがお似合いになってしまったゆうなをいなしつつ、俺は壁掛け時計を見て時刻を確認する。


 そろそろ、か。


「じゃ、着替えたら大学行くからな」


 俺は元の世界と同じ配置にあったタンスの中から着替えを探し始める。

 すると、俺の背中に体重を預けてきたゆうなが、肩越しに唇をとがらせた。


「えー、もう一回戦しようよー」

「んなことしてたら授業に間に合わないって」

「もう……あきらのいけず」


 ……元の世界では真面目な子だったんです。


 とにかく俺だけでも、と心の内で意思を固くし、俺は着替えを続行することにした。


 昨日までより幾分か高く感じるタンスの引き出しの中に手を伸ばし、なにか簡単に着れる服はないかと探す。軽く見て、目に付いたのは、


「ワンピース……」


 肩紐が細く、全体的に細身のワンピースだった。


 俺はそれを取り出し、肩紐のところを掴んで全体を見られるように広げる。


 肩口から裾にかけて徐々に桃色の染色が濃くなっているのが特徴のワンピース。シンプルではあるが、丁寧に作られているからか、なかなか良いものに見える。

 その淡い色合いもあって、なんだかほんわかとした雰囲気がした。


 昨日感じたあかりのファッションセンスとは似つかないものだが、あかりの容姿からすれば似合いそうなもの。


「あ、それ私があかりにプレゼントしたやつだ」

「ゆうなが?」

「うん、そうだよ。二週間ぐらい前に、だったかな」


 自身の唇に人差し指を当てながら俺の背中に寄りかかってきたゆうなの言葉。


 これがちょっと意外だった。


 意外というのは、なにもゆうながケチという話ではない。

 俺とゆうなの間柄では、俺はゆうなにプレゼントをあげる側で、ゆうなはもらう側の立場が常だったからだ。


 もちろん俺がしたくてプレゼントしているんだし、一応アルバイトをしてある程度の収入があるため不満はないが、もらってみたい気持ちがないわけでもない。


 というか、ある。大いにある。

 だから、昨夜にもらったネーム入りのシルバーネックレスはすごく嬉しかった。


 なのに、あかりは他にもゆうなにもらっていたと言う。


「あきら? どうしたの?」

「へ……?」


 肩越しに伸びていたゆうなの顔がこちらに向き、かけられた声で視線が合った。


「なんか、不満そうな顔してるよ?」

「ん……まあ」


 不満そう、と言ったらそうだろう。

 元の世界のゆうなからあまりプレゼントをもらえていなかった俺に対し、あかりは誕生日でもないのにワンピースをもらっている。


 そのことに……うん、やっぱり不満だ。


 世界やそれぞれの立場は違えど、ゆうなはゆうななのだ。同じゆうななのに、あかりだけがプレゼントしてもらえて、ずるい。

 まるで俺だけ冷遇されているような、惨めな気持ちが胸を巣食う。


「あんまり悲しそうな顔しないで」

「そんなこと言われても……」


 同じゆうなの恋人なのに、俺はゆうなを愛し、あかりはゆうなに愛されている。その違いが浮き彫りにされたようで……。


「ずっとそんな顔だと、脱がしちゃうよ?」


 ……いやいや、ゆうなさん。

 それ、落ち込んでる人に言うセリフと違いますよ?


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