寝起きの不意打ち
*
気がつくと自分の部屋の天井が見えたなんて、どれだけ陳腐な気の失い方をしたのだろう。
窓から差す明かりから見て、俺が風呂場でゆうなに襲われたのは昨晩のことで、今はその翌朝というところ。
朝独特の澄み切った空気が部屋を満たし、ときおり小鳥のさえずる鳴き声が閉め切った窓を通して聞こえてくる。
さて、俺は昨晩の途中から一切記憶がないわけだが……。
とりあえず起きようと思い、上体をベッドから起こすと――
「んん……」
ゆうなの悩ましげな声が隣から聞こえた。
そちらを振り向くと、そこには俺の横で就寝しているゆうなの姿。
ほどよく乱れた寝間着と、口端にかかった髪の毛がなんとも色っぽくて――
じゃなくてっ。
こうしてゆうなが隣で寝ているということは、昨日は一緒に寝たということ。
記憶がなく、夜を共にしていたということ。
よく見れば、ゆうなの腕はベッドと俺の首の間に通され、いわゆる腕枕の姿勢。
俺が立場的に女の子のそれ。
俺の記憶が途切れる直前のゆうなの攻め的性格を考えると……。
もしかして俺、ゆうなに一晩中にゃんにゃんされてた?
「おう……」
英語表記にしたら間違いなく「oh」とされるであろう発音で、ため息をつく俺。
出てきたため息混じりの声は、昨日も聞いた女のそれだった。
ということは、当たり前のように俺は女のままということで。
掛け布団を剥いで股間を確かめてみるものの、そこには何もなく、感じるのは喪失感と絶望感。
いや、さすがに朝目が覚めたら元に戻ってるなんて、さすがに都合が良すぎるとは思っていたけど、現実を見せられると……。
やっぱりへこんだ。
もう一度ため息をつこうかと思った、そのとき。
「――ひゃいっ?」
不意に腹部に触られた感じがし、くすぐったさもあって思いがけず変な声を出してしまう。
何だ、と思って見ると、そこには――
「あかりぃ……」
寝ぼけたゆうなが、腕枕をしていない方の腕で、俺の腹に抱きついている姿が見えた。
あまりに気持ちよさそうな寝顔を見て、自然と頬が緩くなってしまう。
そうそう、ゆうなはよく寝言で俺の名前を呼んでくれたっけ。
……いや、今のは「あかり」って言ってたけどね。
まあ、だからといってとやかく言うつもりはない。
なにせ、ゆうなからしてみれば、今まで「あかり」は「あかり」だったのだ。それが昨日の日付変更と同時に「あきら」へと変わってしまっただけなのだから、無意識下で呼んでしまう寝言で「あかり」と言うのも無理はない。
本音言うと、赤の他人に浮気されてるようで、少し悲しいのだが。
「ゆうな」
そっと起こさないように彼女の名前を呼び、まだ俺の腹に抱きついているゆうなの頭をなでた。
細く繊細な手触りの髪の毛が指に絡み、それでいてなでるとすっと抜ける。
俺が好きな、いつもの感触。
あれだけ拒否していたゆうなの頭を、こうして寝ているときになでるというのは卑怯だろうか。
なんだか不意打ちみたいで忍びないし、腕枕されて抱かれているこの上なく女の子みたいな状況であることもある。
けれど、その気持ち・状況以上に、俺の中でなでたい欲求が勝っていた。
むしろゆうな中毒の俺が、ゆうなを前にしてあれだけの時間、なでるのを我慢していたこと自体奇跡と言えるだろう。
もう少しでもお預けを食らっていたら、きっと何かしらの禁断症状が出ていたに違いない。うん、そうに違いない。
だから、今のうちにチャージしなくちゃ、っと。
「~♪」
ご機嫌のあまり鼻歌を漏らしながら、ゆうなの頭をなでる俺。
天頂部付近でなでる手を往復させたり、後頭部に向けてなで下ろしたり。
艷やかで柔らかい感触はたまらなく愛おしくて、
ゆうなが起きたら、またお預けを食らってしまうだろう。
だからこそ、余すことなくなでまくり。
手の大きさが男のときより小さいせいで若干感触に差異を感じるが、今の俺には取るに足らないこと。
そんなことよりも、なでてなでてなで倒す作業でしょ!
上からなでても良し。両手でわしわししても良し。
ちょっと強めにぐりぐりしちゃってもオッケー!
もう、マジでいいわぁー。