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とめ、はね、おしはかる


「もし、また私がおかしな方向にいきだしたらすぐに止めてほしいんだけど……」


 そんな前置きをして、ゆうなは俺に向かって話し始める。


「やっぱり、あきらだけがこんなに失敗し続けるのって、どこかおかしいと思うのよ」


 俺だけ失敗し続けていたイメージの習得練習。

 あかりはとうの昔に習得していて、ゆうなはチャレンジ一発目で成功。

 ゆたかは失敗したが、俺と違って何回かの練習を経て成功に至っている。

 その成否を分ける差がわからない。

 それを見極めるための原因追求だったが、ゆうなは“何者かによる邪魔”なのではないかと言う。


「私はあきらと一日も一緒に過ごしてないけど、あきらが特別想像力に乏しいなんてことはないって感じてるの。少し流されやすいところはあると思うけど、特にこの“裏側”を見つけてから、反省会をやってからはあきら自身が答えを見つけようといろんな可能性を考えて頑張ってたから、やっぱりそんなことはないと思うんだけど……菅原さんはどう感じてる?」

「私も同感だよ」


 問われたゆたかは首を縦に振る。


「あきらがオカルト研究部を訪ねてきたときも、先生のミステリースポットなんて眉唾の仮説を一生懸命聞き、理解してくれようとしていたからね。そうできる想像力はあるだろうし、飲み込む力もあると思うよ」

「そうよね。ありがとう、菅原さん」


 ゆたかの話を聞き、ゆうなが頷く。

 それはゆうなの話を裏付けるものだったらしい。


「そうは言っても、変身するためのイメージが私たちの言っていた想像力に基づくものだとは限らないんだけどね。もし、もっと芸術的な力がないといけないってことなら、さっきみそらさんが出したホワイトボードに絵を描いてみたらわかるんでしょうけど、そんなことをしなくたって、多少なりとも関係すると思うのよ。でも、あきらはほとんどイメージに成功できない。変なトラブルはあったりしたけど、さすがに誘導がなくちゃイメージに成功できないほどとは思えないのよ」

「う……」


 変なトラブルと聞いて思い出した記憶は、急いで頭を振って払い飛ばす。

 そのことは置いておくと、ゆうなの言うことは、たしかに俺も感じていたことだ。

 俺の知らないコツなどがあれば別だけど、さっきまで練習していたやり方に大きな間違いはなさそうだし、できる限りのことをみそら先生に伝えたときには、おおよそ合っているとお墨付きももらった。

 しかし、現に俺は自力でイメージに成功していない。

 それが示すことを、ゆうなが言う。


「私、性格がねじ曲がってるからこんなこと考えちゃうんでしょうけど……誰かがあきらの邪魔をしてるかもしれないって考えがよぎっちゃったのよ。それなら、ここまであきらが失敗し続けている理由になる気がして……」


 言い淀むのは、先ほどゆうなが自省した出来事に由来しているのだろう。

 自分の中ではそれが正解だと思っているのに、口に出すのがはばかられているような印象があり、酷くもどかしそうだった。


 もし、ゆうなの言うとおりであったとする。

 俺のイメージに限って、何者かが何かしらの手段を使って阻害していた。

 そうだったとするなら、俺がイメージに失敗していた原因は俺にあるのではなく、その妨害者によるもの。

 その妨害行為がどんなものかを見つけ、やめさせることができたら、俺は成功することができる……?


「ううん、どうだろうね」


 ゆうなの考えに否定的な温度感を示したのは、ゆたかだった。

 困ったように眉尻を下げ、こめかみを人差し指で軽く突いて考える様子のゆたか。

 少しの間を空けてから、


「突拍子もない、というのが正直な感想かな。仮にゆうなの考えが合っていたとして、あきらの邪魔をしているのは誰だろう? ここにいない誰か? それとも私たちの中の誰かだろうか? そしてその目的は何だろう? その誰かにメリットがあることなのかな? 唐突に悪意の仮説が立てられても、私には違和感を覚えると言うか……」

「そう、違和感なのよ」


 ゆたかの言葉を食い、ゆうなが告げる。

 前のめりになるようなゆうなの様子に、俺は無意識に拳を握りしめていた。

 それを認識したとき、自分が何かに怖がっていることに気がつく。


「私は、あきらだけが失敗している現状に違和感があるの。私の口からこんな言葉が出るのは変かもしれないけど、あきらとあかりは別世界の同一人物なんでしょ? で、みそら先生が見送ったって言う別のあきらもいた。別のあきらとあかりは成功できているのに、こんなに何回もやっているあきらだけが成功できないのに、すごく違和感があるのよ」

「それはわかるよ。私自身、自覚するところでは想像力はあまり富んでいないと思っている。私は自分の目で見たことを受け入れていくタイプの人間だからね。絵を描いたり芸術的なことも得意ではないから、私がイメージに成功して、あきらが成功しないことに違和感を覚える気持ちはわかるつもりだよ」


 わかる、と同意する姿勢は見せるものの、ゆたかの表情は硬い。

 続く言葉は、ゆうなを咎める色を持つ。


「でもゆうなは、一度見つけた仮説に盲信しすぎじゃないかな。もう少し冷静になって考えてみようよ。今のゆうなは、まるであきらを“ごっこ遊び”だって一蹴したときの様子と被るんだ」

「あ……」


 小さな声をあげたのは俺だった。

 俺が恐怖を覚えたのは、きっとそれ。

 俺の存在を強く否定されたときの光景が脳裏に甦り、顔が引きつるのがわかる。

 でも……俺はそれを振り払う。


「大丈夫だよ、ゆたか。ゆうなは最初に前置きしてくれただろ? だから、今度は大丈夫。ゆうなは自分のそういう癖もわかってるはずだから」


 ゆたかには言えていない、二人きりのホテルで聞いたゆうなの反省。

 それを聞いていた俺は、もう怖がらなくって良い。

 あんな前置きをしたのも、終始言い淀んでいるのも、ゆうなは自覚しているから。

 そう自分に言い聞かせるように、ゆたかに言う。


「ありがとう、あきら。それに、菅原さんも」


 柔和な表情で答えたのは、ゆうなだった。


「私って、やっぱり視野が狭くなっちゃうところがあるから、信じてくれるあきらも嬉しいし、疑って止めてくれる菅原さんも嬉しいわ。うん、大丈夫。前みたいに頑なになるつもりはないの」


 ゆうなは瞼を下ろし、ゆっくりと息をつく。

 自身を落ち着かせるようにも見える行動の後、目の前にいるあかりの頭を撫でる。

 撫でられるあかりは迷惑そうに眉をしかめるが、ゆうなは真剣な表情で俺たちの方を見ている。


「頑張るって言ってくれたあかりのために、私もできるだけのことはしたい。私の思いついたことが間違ってたらすぐに取り下げるわ。だから、私の中でつじつまが合ってしまったことを解きほぐしてほしいの――」


 そう言って続けたのは、ゆうなが疑うに至った根拠の話。

 いわく、とても頼りない、でも何かがおかしいと感じること。


「まず、あきらがイメージに成功したときを思い出してほしいんだけど、全部で四回あるわ。一回目はみそらさんに言われて、みんなでこの場所の色を黒から白に変えたとき。二回目と四回目はみそらさんに誘導されて変身したとき。三回目が異例で、一部だけ変身できちゃったときね」


 異例として特別取り上げるのは、何も俺の恥を粒立てるためではない。

 あえて言うには、そうする理由がある。


「三回目の異例のやつ、あれってどうして起きたかわかる? 今となっては申しわけないんだけど、こんな危ない状況になるなんて思ってもみなかったから、あれが起きるちょっと前から久しぶりに会えたあかりと二人でおしゃべりしてたのよ。積もる話もあったしね。そのときに、ふと練習してるあきらの方を見てあかりが言ったの。『あそこだけ戻ったら面白いのにな』って。そしたら、あの三回目が起きたの」

「そ、そうなの?」

『あー……』


 俺はあかりを見て、あかりは瞬時に目をそらす。

 その動作が俺の中の疑念を確信に。


「あのときは因果関係があるなんて思わなかったし、あかりだって、そうなるのがわかってて望んだわけじゃないと思うのよ。まあ、悪気はあっただろうけど」

『フォローになってないって、ゆうな……』


 俺から目をそらした流れのまま、あかりは振り向いてゆうなの裾を引く。

 くすりと小さく笑ったゆうなは、なだめるようにあかりの頭をぽんと撫でる。


「でね、あかりのつぶやきが叶ったことを考えてみて、さっきの私の実験をしてみたのよ。結果は見た通り、イメージは他の人に影響を与えることができることがわかったわ。もしかしたらみそらさんの誘導も、ただの言葉だけの誘導なんじゃなくて、あきらに対して何らかのイメージが働いているのかもしれないって思い始めてるんだけど、まあそれは脱線した話ね」

「ほう、ほう、なるほど。その可能性はあるかもしれないね。私は催眠誘導に近しいことをしていたつもりだが、たしかに“裏側”ならではの効果を得られているかもしれない」


 みそら先生が相づちを打ち、感心したように深く頷く。

 あかりが俺にしたことがイメージで、みそら先生が俺のイメージを成功させた誘導もイメージによるもの……?

 イメージを成功させるためのイメージという言葉が上滑りするも、みそら先生が納得しているようだから、俺にはよくわからないけど、そういうこともあるのかもしれないと思って飲み込む。


「その前提に立ったとき、ここまであきらがイメージに成功しないことがおかしい――ううん、作為的なものなんじゃないかって思えてきたのよ」


 ここからがゆうなの伝えたい本質の部分。

 あかりの頭を撫でる手を止め、今はゆうなより高くなった俺の目を真正面に見つめる。


「あきらが成功した四回のどれも、あかりかみそら先生のイメージによる影響を受けている。そして、二人のイメージの影響を受けていないときはすべて失敗していた。こう並べてみると、成功したパターンはプラス補正がかかっていて、失敗したのはマイナス補正がかかってたって気がしない? そのマイナス補正っていうのが、私は作為的な気がするのよ」


 ゆうなが言うのは、成功と失敗が極端過ぎるということ。

 俺は、補助のあった場合を除いて全てのイメージに失敗している。

 もし俺の素質的にイメージに成功しそうになければそれも納得できるが、そうではないとゆうなたちは言ってくれている。

 だからこそ、俺は何者かにマイナス補正的な邪魔を受けていて、みそら先生の誘導があったときにはそれを超えるだけのプラス補正が受けられ、成功できているのではないか。

 それがゆうなの考える可能性だった。


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