006 白兎の舞姫
私は母の力と容姿を引き継いで生まれた。銀髪で赤い瞳の母は、美しい雨乞いの舞を踊り、銀狐の舞姫と呼ばれていた。
小さい頃は母の雨乞いの舞を見ているだけだった。しかし母が亡くなってから、また母に会える気がして舞を踊ると、龍神の池が光り輝き舞姫と認められたのだ。
小さな私が踊ると、白兎が跳ねるかのような舞いだったことから、白兎の舞姫と呼ばれ、みんなから必要とされ、大切に育てられてきた。
身体の成長が止まってしまう奇病にかかってから、人は遠のいていったけれど、民からの贈り物は絶えずに続いた。
贈り物をもらう度に、民の為になっているのだと希望が持てた。たとえ周りの人達から避けられても、必要としてくれる人がいるのだと思えたから。
「雨を呼ぶ舞姫ということか。それならば稀有な存在であり、帰国しても大丈夫なのだな。失礼なことを言って申し訳なかった」
「いえ。いいのです。心配してくださりありがとうございます」
泰然様は納得してくれたけれど、リウリーは不満そうだ。
『でも、もう一つの方の問題は誰の仕業なのよ。まだ分かってないじゃない』
「それは、身体が成長しなかった呪いのこと? それなら、宮殿へ戻ってから父と義母に話すわ。きっと病だと思っていたから治らなかっただけだもの」
「確かに、呪いに精通する者がいなければ、気付くことは難しいかもしれないな。だが、誰かが君に呪いをかけたことは間違いない。それだけは忘れないように」
「はい」
誰かが私に……。でも、命を奪うような怖い呪いではない。理由は分からないけれど、父にお願いすれば、きっとすぐに解決するだろう。
『でも……。まぁいいわ。宮殿に戻ったら異母妹を成敗しちゃいなさいね』
リウリーはまだ納得のいかない顔だったが、急に笑顔になったかと思うと物騒なことを言い出した。確かに異母妹には反省してもらいたいけれど、罰を与えたいわけではない。
「そんな事しないわ。私は異母妹を許そうと思っているの。髪色は変わってしまったけれど、今まで失っていた本来の私に戻れたのだから、もう何の憂いもないの」
見方を変えれば、異母妹の毒のおかげでここに辿り着けたと言っても過言ではない。きっと異母妹は義母を取られた寂しさから、こんなことをしてしまっただけなのだから。
『へぇー。面白い子ね。私も宮殿について行っていい? 異母妹がどんな子か見てみたいし、雪燕が舞う姿も見てみたいの』
「ええ。いいわよ。そう言えば、あれから一週間経ったということは、今日は満月だわ。──あの、外に出たいのですが……」
満ち溢れる満月の夜は、舞を踊る日だった。
しかし、泰然様は外を見ると、首を横に振った。遠くから狼の遠吠えも聞こえた。
「夜はやめておいた方がいい。昼間も危険だが、夜は更に濃い毒霧に覆われている。それに、山の動物は毒に慣れているから、夜は狼だって出る」
「そうですか……。では、ここで雨乞いの舞を踊っても良いですか?」
「駄目ではないが、目覚めたばかりだ。無理はするなよ」
「はい!」
私は荷物の中から小瓶と翡翠の腕輪を取り出した。
母の形見の翡翠の腕輪を右腕に通し、小瓶を窓辺の机に置いた。小瓶の中には龍神の池の水が入っている。
どこにいても龍神の加護があるようにと、小さい頃、母がくれたものだ。
窓の簾を上げると、ちょうど真ん丸の月がよく見えた。
いつもは庭で舞っていた。こんなに近くに誰かが見ている前で舞うのは初めてだからか、少し緊張する。
雨乞いの舞は、本来なら龍神の池の前で舞うのだけれど、龍神はどこからでも舞姫を見ていると母は言っていた。
だからきっと、ここで舞っても届くはず。
私は碧砂国の繁栄を祈りながら舞った。
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時を同じくして、碧砂国では、雪燕と同様に雨乞いの舞を踊ろうとする者がいた。
「お父様。お母様。どうか見ていてください」




