004 病の原因
リウリーと話していると、泰然様が食事ができたからと部屋を訪ねてきてくれた。
食事はリウリーの分も用意してあり、リウリーは部屋の隅で、平皿に盛られたキノコ湯をいただいている。
泰然様は、私の分の料理を机に並べてくれていた。
リウリーから、彼のことを少し教えてもらった。
彼の名前は蘇泰然。
推定年齢は十六歳で、多分私と同い年。
彼は数年前から、この山奥の屋敷に一人でこもり、病気に効く薬の開発をしているらしい。
ヤクシとは薬師の事で、リウリーは医師と似たような職だと言っていた。
そしてリウリーも私と同じように、森で餓死寸前だったところを彼に助けてもらったそうだ。
彼にかかれば、私の症状なんて簡単に治せてしまうのだと、リウリーは言っていた。
やっぱり泰然様は素敵な人だ。
きっと多くの人々を救ってきたのだろう。
まさに聖人君子だ。
「あの、泰然様。お食事ありがとうございます」
机の上に食事を並べていた泰然様は、驚いて動きを止め振り返った。
「名前は……教えたつもりはないのだが。それと、様付けはやめてくれ」
「お名前は、リウリーから教えてもらいました。泰然様と呼ばせてください。あっ、それとも、先生のほうが良いでしょうか?」
「リウリー……もしかして、あのウリ坊からか?」
「はい!」
リウリーはこちらを向いて首をブンブンと縦に振っていた。
その姿を見て、泰然様は眉間にしわを寄せている。
「君は、ウリ坊の言葉が分かるのか?」
「そ、そうみたいです。さっき初めて知りました」
「動物と会話ができるのは君だったみたいだな。まあ、そのウリ坊が動物かどうかは分からないが……。それより、食事は身体を治す為に必要だ。食べられる分だけでいい。無理せずに食べてくれ」
「はい。ありがとうございます」
泰然様もリウリーが普通の動物だとは思っていないみたい。
私の食事は白粥とリウリーと同じキノコ湯だった。
こんなに温かい食事は初めてかもしれない。
一口食べただけで、身も心もほっこりと温まる。
目覚めてから良い事ばかりだ。
これも全て泰然様のおかげだ。
泰然様に喜んでもらうには、どうしたら良いだろう。
そうだ。何か欲しい物はないか、本人に聞いてみよう。
「あの、私、こう見えて、碧砂国の公主なんです。本当は別のお医者様の所へ向かう途中だったのですが、泰然様のお陰ですっかり良くなりました。病を治していただいたお礼を差し上げたいのですが、今は何も持っていません。でも、国へ戻れば沢山お礼ができます。何か欲しい物はありませんか?」
「公主? ──しかし、礼はいらない。薬師として治療するのは当たり前だ。それに、崖から落ちた割に、君は掠り傷程度しか怪我をしていなかった。顔や腕のただれも、塗り薬ですぐに良くなった。大した事はしていない」
なんと謙虚な方なのだろう。
屋敷は立派だし、この方に必要なものなどないのかもしれない。
でも、どうにかして彼の喜ぶ顔が見たい。
「ですが、どんな医師も匙を投げてしまった私の奇病を、泰然様は治してくれたではないですか。なんでも良いんです。硬貨でも装飾品でも土地でも秘宝でも、なんでも父にお願いして用意してもらいます!」
「そんな物はいらない。俺が欲しい物は、どんな病にも効く薬だ。それは存在しないだろう。それより、奇病とはどういう意味だ?」
「えっ? 私、酷く醜い姿でしたよね。……十歳の頃から、身体の成長が止まっていたんです。そして、ひと月ほど前からは、顔や腕が赤くなり発疹が出て、あの様な姿に」
「……醜いとは思わなかった」
当たり前のように泰然様は言った。
あの姿が醜くない? そんな筈はないのに。
公主であっても、昔優しくしてくれた人達でさえ、怯え蔑み罵ったのに。
「ただ、どうしてあれほど湿疹が悪化したのか。それは気になった。あれは病ではない。まるで何度も顔に毒を塗りたくったような有り様だった。ひと月ほど前に、何か顔に触れる物を新調しなかったか?」
「毒だなんて……。あ、でも、顔に使う新しい白粉を二ヶ月ほど前にいただきました。二ヶ月も前ですし、関係ないですよね」
「今も持っているか?」
「はい」
私は、枕元に置かれていた荷物の中から白粉を取り出した。
白粉は、蝶々の模様が描かれた可愛い小箱に入っている。
リウリーは小箱を覗き見て尋ねた。
『あら、可愛い。誰からもらったの?』
「異母妹から誕生日にもらったのだけど……」
泰然様にそれを渡すと、彼は鼻を近づけ香りを確かめた後、私に尋ねた。
「開けてもいいか?」
「はい」
泰然様が調べ始めると、リウリーが私の隣に来て尋ねた。
『ねぇ。異母妹って、仲悪い感じ?』
「そうね。異母妹の母親は皇后なの。皇后は、幼い頃に母を亡くした私に、とても優しくしてくださって、私の一番の味方なの。私の成長が止まって、皆が私を避けるようになってからも、それは変わらず。でも、皇后は実の娘である異母妹にはとても厳しいの。異母妹から、それは私のせいで、私が母親を奪ったと罵られた事があるわ」
『あらー。そういうパターンで仲が悪いこともあるのね』
「私は仲良くしたかったのだけれど」
私の成長が止まる前までは、一緒に遊ぶこともあったけれど、奇病と言われるようになってからは、異母妹は私を避けるようになった。その頃から、皇后は私を心配して、私ばかり気にかけるようになっていたから、そのせいだと思う。
泰然様は小箱の蓋を閉じると、鋭い視線を私へ向けた。
「話し中に悪いが、おそらく原因はこれだ」




