表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第一章 私は醜い公主でした

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

003 紫色の髪

「フゴフゴ!(よろしくね!)」

「えっ?」


 今、声が二重に聞こえた。小ぶりの動物から出た声とは別に、可愛らしい女の子の声がしたのだ。


『フゴッフゴフゴ!(私は猪の子供のウリ坊に──した、──よ!)』

「まぁ、猪の子供だったのね」


 時折、雑音が混ざったように聞こえて、女の子の声の方だけ聞こえなくなる箇所があるけれど、何故声が聞こえるのだろう。

 死にかけて不思議な力が目覚めたのかしら。


 がしかし、そんなことどうでもよくなるくらい、目の前の猪がとにかく可愛い!


 背中の縞模様は薄茶色と金色で、クセっ毛なのか毛先が少し丸まっている。

 

 可愛くて、つい抱きしめたくなってしまう。

 でも、私はそんなことをしてはいけない。

 病をうつしてしまうかもしれないから。


 伸ばしかけた手を、私は胸に止めた。

 

『フゴッ! フゴフゴ(あなた! 見た目によらず賢いのね)』

「あら、褒めてくれるのね。あなたは見た目も可愛いけれど、素直で素敵な子ね」


 嬉しくてウリ坊のことも褒め返すと、ウリ坊は琥珀色の瞳を輝かせた。


『フゴッ。フゴフゴー!(気に入ったわ。私のことはリウリーって呼んで!)』

「よろしくね。リウリー」

『フゴー。フゴッ? フゴ、フゴゴ!(もちろんよ。あら? あなた酷い格好ね。動けそうだし着替えましょ)』


 リウリーは箪笥に向かって走ると、大胆にも体当たりの反動で引き出しを開けた。

 そしてフゴフゴ言いながら新しい服を見繕い、ベッドまで持ってきてくれた。服は男性物だけれど、とても上質な生地で仕立てられている。


 私が服に手を伸ばそうとすると、リウリーは首を振り、私の手首を甘噛して包帯をほどき始めた。


『フゴゴ。フゴー(もう取っていいのよ。ほら自分でやって)』

「えっ、でも……」


 着替えをするのに、爛れた肌を晒してしまうと、擦れて痛いのではないだろうか。痛み止めが効いているようだけれど、どうなのだろう。


 私が戸惑っていると、リウリーは豪快に包帯を咥えて引っ張り、頭を派手に振り回しながら全ての包帯を外してしまった。


「嘘……。傷痕が、ない」


 腕は真っ白だった。肌は以前と同じように張りと艶を取り戻し、手で触れても痛みは感じない。

 傷跡もなくすべすべだった。

 私が驚いている内に、リウリーは頭の包帯も全て外してくれた。長い髪が顔にかかる。

 そして私はあることに気付いた。


「か、髪が……紫色に変わってる」


 私の長い銀髪は暗い紫色に変わってしまっていた。

 母から譲り受けた自慢の髪は、見る影もなかった。


『フゴ、フゴゴ?(鏡があるけど、見てみる?)』

「鏡……」


 リウリーが咥えてきてくれた手鏡を受け取り、鏡を覗き込んだ。

 そして自分の姿を見て、髪色なんてどうでもよくなってしまった。


「ぇ……。わ、わたし? 嘘……本当に?」


 髪は全て紫色になってしまったけれど、爛れた肌は腕も顔も元の白い肌へ戻り、そして驚くことに、私の身体は年相応の身体つきに成長していた。

 髪色は違えど、宮殿に飾られた母の肖像画と瓜二つの、夢にまで見た成長した自分になっていたのだ。


『フゴゴ。フゴーゴ。フゴゴゴ(あなたも大変だったわね。彼に会えなければ死んでいたわよ。無愛想だけど、腕は確かよ)』

「全部彼のおかげなのね。きっと宮殿へ戻れば、お父様もお義母様も喜んでくださるわ。彼にも沢山、謝礼を渡さなくちゃ」


 私は成長した身体に感動しつつ、宮殿にいる家族の顔を思い浮かべた。

 馬車に乗った時は、こんなに嬉しいことが起こるなんて想像もしていなかったのに。

 ああ。生きていて良かった。


『フゴ、フゴゴー(向こうで湯浴みできるわよ)』

「本当に? すごいお屋敷ね」


 私は寝台から立ち上がった。なんだか、背が高くなったみたい。

 いや、実際に背が高くなったのだろう。寝込んでいた割には足も動くし、湯浴みもできそうだ。


『さっき貴女が目覚める前に、彼が針を刺してくれていたから、歩くこともできるのではないかしら? さあ、こっちよ』

 

 私はリウリーに案内され湯浴み場を借り、新しい服に着替えた。やはりとても上質な服だ。

 彼は貴族か、もしくはどこかの王族なのではないだろうか。

 お礼は何をあげれば喜ぶだろう。


「ねぇ、リウリー。あなたのご主人様は何者なのかしら?」

『フゴゴ、フゴー。フゴゴーフゴーゴ(別にご主人様ではないわ。私の──を彼が──ないと)』

「えっ? リウリーの何をどうするの? 獣の声とあなたの声が重なって聞こえているからか、たまに聞き取れないところがあるの」

『フゴ。フゴフゴ!? (え。私の声が聞こえているの!?)』

「ええ。女の子の声がするわ。リウリーは妖か何かなのかしら?」


 リウリーはくるりと私へ向き直り、じっと私の瞳を見つめると口をつぐみ、今度は女の子の声だけで話しかけてきた。


『そういえば、さっきから私の名前、呼んでるわね……。リウリーっ、久しぶりに呼ばれた……あなた。──なの?』

「ごめんなさい。うまく聞き取れないわ」

『そう。──のことは誰にも言えないから、聞こえないのだわ。まぁいいわ。私の事はアヤカシだとでも思って、どうせ説明できないし、特に詮索しないでもらえると有難いわ。えっと、貴女の名前は何だったかしら』

「私は雪燕(シュウエン)よ」

『もしかして碧砂(ビーシャ)国の公主だったり?』

「ええ、そうよ」

『そういうことね。──改めまして、雪燕(シュウエン)。今の私と話ができる人に初めて会ったわ。とても嬉しい、よろしくね』


 リウリーは小さな右手を前に出し、私はその手を握り返して握手をした。

 初めて、ということは、これは普通のことではないようだ。


「ええ、よろしく。ねぇ、あの方とも話せるの?」

『あの方?』

「私の病を治してくれた彼のことよ」

『何となく分かってはくれるけど、私の声は聞こえていないと思うわ。そんなことより。貴女、自分が病だったと思っているの?』

「ええ。そうだけど……」


 病でなければ何だと言うのだろう。元々の体質? 

 それとも……。

 医学の知識のない私には思い当たることが何も無かった。


 リウリーは口にするか迷ったのか、暫く間を空けてから言った。


『……ふーん。泰然(タイラン)は、なんて言っていたの?』

泰然(タイラン)?」

『蘇泰然(タイラン)。さっきの彼、この屋敷の主の名前よ』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ