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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 優しすぎる薬師様に恩返ししたいと思います

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016 新たな舞姫

「今日から一緒に暮らすことになった、よろしく!」


 翡雲(フェイユン)様は笑顔でそう言うと、山の屋敷に誰もいなかったため町にいるだろうと思って、ここへ来たということを説明してくれた。

 どうやら、密仙(ミーシェン)国との婚約については、向こうの国の都合で数カ月ほど待っててほしいと言われたそうだ。

 とても機嫌がいいのはそのせいだろうか。


「もうすぐ次期女帝が決まるそうなんだ。そのため、婚約の話は、それが決まるまでは保留とのことだ。──そうそう、実は大工を呼んだ。今、倉庫を改築させている」

「「えっ?」」


 私と泰然(タイラン)様は同時に驚いて声が重なり、二人で顔を見合わせてしまった。

 なんだか背中でリウリーもモゾモゾ動いている。喜んでいるのかな。


「はぁ、仲がいいねえ。また酔って泰然(タイラン)が部屋を間違えないように、泊まれる部屋を増やそうと思って倉庫を改築させたんだが、必要なかったか?」


 翡雲(フェイユン)様は、泰然(タイラン)様の隣にある倉庫を自分の部屋にするとのことだ。私は今のまま翡雲(フェイユン)様の部屋だったところを使っていいと言ってくれた。


「……いや。ただ、大工の苦労を思うと胸が痛いだけだ」

「はははっ、今頃、青い顔で必死に作業中だろうな」

「大丈夫なのですか? 昼だと言っても毒が……」

「大丈夫だ、一番強い解毒薬を飲ませている。ただ、みんな怖がりでな。心配することはない」


 作業は寝台を運んで組み立てるくらいだそうだけれど、大丈夫だろうか。

 泰然(タイラン)様はあきれたように遠くを見て、何か思い出したように言った。


「そうだ、そろそろ沈家の娘の舞の時間のようだな」

「沈家?」

「ほら、林殿が迎えに来ている。雪蘭(シュウラン)を呼ぶように頼まれたのだろう。今日の分の薬は渡し終えた、俺も行こう」

「舞か、私はやめておこう。緑淵には久しぶりに来た。商店を見て回ってくるよ」


 翡雲(フェイユン)様は手を振り人混みへと消えていった。

 どうしたのだろう。翡雲(フェイユン)様は舞が好きなのだと思っていた。

 満月の日は、いつも来てくれていたから。本当は嫌いだったのかな。


「心配しなくても大丈夫だ。町に来るときは侍衛がついているから」

「侍衛ですか?」


 辺りを見回したけれど、どの方が侍衛なのか分からなかった。碧砂(ビーシャ)国に来る時に連れていた方と同じだろうか。


「ああ、気づかなかったか?」

「はい」

「侍衛は山の屋敷には来ないが、近くの町で待機している。町に出る時は必ず合図を送り、侍衛をつけることになっている。さて、林殿を待たせている。行こう」


 今日は本当に人が多い。背中のリウリーが引っかかってしまわないよう、リウリーが前に来るように結び直した。

 林殿に付いていくため、泰然(タイラン)様はいつもより足早に進んでいく。おいていかれないように気をつけていたら、急に泰然(タイラン)様が足を止めたので、背中に額をぶつけてしまった。


「す、すみません」

「大丈夫か? 急ぎすぎたな。悪かった」

「いえ」

「こっちだ。もうすぐ着く。良かったら、掴まってくれ」

「はい」


 私は、目の前に出された泰然(タイラン)様の肘の辺りの服を掴んで歩き進めた。


 向こうの方から琵琶が奏でる音楽が聞こえてきた。

 人々は、町の真ん中を通る川沿いに集まっている。


 川に架けられた幅の広い橋の上で、梓晴(ズーチン)は舞を披露していた。豪華な桃色の衣装に濃い化粧、それに負けないくらい優美に梓晴(ズーチン)は舞を踊っていた。

 私との練習なんて、必要なかったのではないかと思うくらい堂々としている。


「すごい」

「間に合ってよかったです。お嬢様も喜ばれます」


 林殿いわく、あの橋は梓晴(ズーチン)の曽曽祖父様が建てた歴史ある橋だという。

 林殿が見やすい場所へ案内してくれたから、梓晴(ズーチン)とも目が合い、笑顔を向けてくれた。

 

「いえ、私の方こそ、お礼を言わせてください。泰然(タイラン)様、……あれ? 泰然(タイラン)様?」


 いつの間にか隣にいたはずの泰然(タイラン)様の姿が見えなくなっていた。


「少し出店を見てくると言っていましたよ」

「そうでしたか、すみません。舞に魅入ってしまっていました」

「そうだ、ご存じですか? 先ほどご到着されたのですよ。春燕(チュンエン)様が。泰然(タイラン)様達は、この村には週に一度しかいらっしゃらないのに、舞姫様をお目にかかれるとは、運がいい」


 楽しそうに話す林殿とは裏腹に、私はスッと血の気が引いていくような感覚に囚われた。


 春燕(チュンエン)がここに来る?

 それも今……。


「おっ、あの輿に乗っておられるのが春燕(チュンエン)様ですよ」


 橋の近くに煌びやかな輿が停められた。そして、輿から薄碧色の衣を纏い現れたのは異母妹の春燕(チュンエン)だ。

 あちこちから歓声が上がり、笑顔でそれに応える春燕(チュンエン)

 私に毒の白粉を贈り、醜聞を広めていた春燕(チュンエン)


 ここでは目が合ってしまうかもしれない。

 もし、春燕(チュンエン)が私に気付いたら……。


 私は目眩がして一歩後退り、後ろの方にぶつかってしまった。


「す、すみま──」


 謝ろうとしたら、目の前に薄紅色の扇が開かれ視界が塞がれ、耳元で囁かれた。


「大丈夫か?」

泰然(タイラン)様」

「今すぐ帰ろう」


 ポツリと言った言葉に、強張った心が解されていく。

 しかし、その言葉を聞いていた林殿は残念そうに言った。


「帰られるのですか? 今から春燕(チュンエン)様も舞を披露してくださるのですよ」

「いえ……、見ていきます。きっと、二度と見ることはないだろうから」







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