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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第一章 私は醜い公主でした

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002 峡谷のクスシ

「俺は薬師だ。脈を診るぞ」 


 青年は慣れた手続きで私の腕に触れ、脈を診ると、「大事なさそうだな」と呟いた。一週間も寝続けてしまったからか、頭がボーッとして状況が飲み込めない。


「クスシさんが、助けてくださったのですか?」

「……病人と怪我人を治療するのは、当たり前の事だ。身体に違和感はないか?」


 私のようなうつる病を持った誰もが避ける醜い女を、クスシさんは当たり前に助けてくれた。

 そして私の身体の心配までしてくれているなんて。


 そうだ。きっとこの屋敷が、腕利きの医師の屋敷なんだ。

 心の何処かで、そんな場所は存在しないって思っていた。

 本当は、疫病をうつしてしまうかもしれない私を、宮殿から追い出しただけだって、諦めていたのに。


 私は身体を起こし、クスシさんにお礼を述べた。


「助けていただきありがとうございます。身体は大丈夫です。あの、ここは金先生のお屋敷ですよね。金先生にもお礼を言いたいのですが……」


 皇后が見つけてくれた腕利きの医師は金先生という名前だと聞いていた。その医師は裕福で、山をいくつも所有し、とても立派なお屋敷に住んでいる。と皇后が言っていた。

 ここはその言葉通りの場所だ。


 でも、自分から会わせて欲しいとは言えなかった。

 病気をうつす可能性がある私は、気安く誰かと会ってはいけないのだ。


 クスシさんは暫し黙ると、予想外の言葉を発した。


「いや。ここは碧砂(ビーシャ)国と雲龍(ユンロン)国の国境の峡谷近くの山中の屋敷だ。それと、金という医師に知り合いはいない」

「えっ。そうなのですか?」


 じゃあ。彼は誰に頼まれるわけでもなく、当たり前に私を助けてくれたということになる。


 なんて心の広い方なのだろう。

 まさに聖人君子のような方が目の前にいる。


「おそらく君は碧砂(ビーシャ)国側の山道から谷底へ落ちたのだろう。あの日は悪天候だった。馬車は崖の岩にぶつかり半壊し、君は馬車から投げ出されて枝に引っかかっていた」


 山道から谷底へ。

 その言葉を聞いた時、降り頻る雨と落雷の衝撃が脳裏を一瞬だけ掠め、頭がズキンと痛んだ。


「大丈夫か?」


 クスシさんは私の頭に手を伸ばした。

 でも、私は咄嗟に避けてしまった。

 触れたら病気がうつってしまうかもしれないから。


「ご、ごめんなさい。えっと、ついさっきまで、馬車に乗っていたような気がするのですが、思い出そうとすると、頭が痛くて……」

「今は目覚めたばかりだ。あまり無理をせず安静にしなさい」


 確かにまだ頭がクラクラする。

 だけど、何か忘れている気がした。

 そうだ。馬車には私だけじゃなくて、御者が居たはずだ。


「御者がひとり、一緒だったのです。でも……」

「御者か……。山に異変があれば動物達が騒ぐが、特に何もない。川に落ちて流された可能性もあるな」

「そうでしたか。実は、馬車が大きく揺れて谷底へ走り出す時、御者は山道にいて……」

「振り落とされたのか」

「……分かりません」


 御者が振り落とされたのか、自ら降りたのかは分からない。山道に佇む御者は怯えた目をしていた。振り落とされた恐怖からか、それとも……。

 ふと視線をあげると、目の前の壁に、私の外套がかけられていることに気づいた。外套は真っ二つに裂け、千切れて丈が短くなっていた。

 一歩間違えば、私もああなっていたかもしれない。

 きっと皇后が守ってくれたのだ。


 視線を手元に落とすと、私は宮殿を出た時に着ていた青紫色の衣を着たままだった。真新しかった衣は土で汚れていた。

 しかし、腕に巻かれた包帯は真新しい。

 顔や頭も巻かれているが、どこにも痛みは感じなかった。

 皇后がくれた痛み止めを飲んでも、違和感や火照りは無くならなかったのに、今はそれすら感じない。


 症状が落ち着いたのか。

 それとも、よく効く痛み止めをクスシさんが持っていたのか。

 前者だったら、とても嬉しい。でも、それをクスシさんに尋ねる勇気が私にはなかった。


 私が黙り込んだせいか、クスシさんは心配そうに言った。


「心配なら、山の動物に聞いておくぞ」

「動物に? く、クスシさんは、動物と話せるんですか!?」

「……いや。話せない。言葉は分からないが、なんとなく言いたいことは分かる程度だ」

「すごいです。クスシさんは何でも出来るのですね。尊敬します」


 私が尊敬の眼差しを送ると、クスシさんは頬を赤く染め、恥ずかしそうに頭をかいた。


「た、大した事ではない。それから、俺の名前はクスシじゃないからな。食事を用意してくるから着替えておいてくれ。動けるなら湯あみもするといい。体力が戻ったら町まで送る。それまで安静にしろ」


 クスシさん……ではなくて、彼は指示を出すと、部屋を出ようとして扉の前で立ち止まった。


「分からないことは、この子に聞いてくれ」


 彼は足元を指差し、そう言い残していった。

 指さした場所には小さな黄金色の獣がいた。


「この子って……」


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