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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 優しすぎる薬師様に恩返ししたいと思います

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015 自分を好きに(泰然視点あり)

「やったぁ! 今の綺麗だったでしょう?」

「ええ、とても素敵だったわ」


 梓晴(ズーチン)は得意気に笑った。ほんの少し教えてあげただけなのに、とても綺麗に舞えていた。

 きっと普段のお稽古も頑張っていたのだと思う。


「大事なのは楽しむことよ。扇は大切にしてね」

「うん。でもお礼したいし……」

梓晴(ズーチン)が楽しそうで、私も楽しかったから要らないわ」

「そうだ、屋敷まで来て! 絶対にお礼したいの」


 気持ちは嬉しいけれど、困ってしまう。

 もしかして、私も泰然(タイラン)様に、同じようなことを言っていたのではないだろうか。


「じゃあ、いつか梓晴(ズーチン)も誰かに舞の楽しさを教えてあげて。私がしたことは、私に返さなくていい。他の誰かに繋いでほしい」

「うーん? 分かった」


 首を傾げながらも梓晴(ズーチン)は了承してくれた。それを見計らったかのように、家屋の裏から、先ほど梓晴(ズーチン)を探していたと思われる男性が声をかけてきた。


梓晴(ズーチン)様!」

「げっ、見つかっちゃった」


 従者の方らしき男性は、なぜか泰然(タイラン)様と一緒にいた。

 私と目が合うと、泰然(タイラン)様は微笑んでくれた。


「ねえ、私、後で町の広場で舞を披露するの。お昼くらいかな。見に来てね」

「ええ、行くわ」

「では、私がお迎えに伺います」


 従者の方がそう言うと、梓晴(ズーチン)は元気よく手を振り機嫌よく帰っていった。

 その後ろ姿を見送ると、泰然(タイラン)様は尋ねた。


「舞う時は、扇を使うのか?」

「そうですね。扇がある方が、舞っていて楽しいです」

「そうか」

「あっ、御者の方はどうでしたか?」

「娘さんの病気も快方に向かっている。端切れを手に、都へ向かうだろう」


 御者の件は上手くいったようで一安心だ。


「よかったです。あの、旅の一座は来ているのですか?」

「いや、それが……新たな舞姫が誕生を祝う祭りが開かれていると聞いた」

「新たな舞姫……」

「残りの薬を届けながら、もう少し詳しいことが分からないが聞いてみよう」

「はい」


 新たな舞姫。その言葉に胸騒ぎを覚えつつ、泰然(タイラン)様と一緒に情報を集めることにした。


 町の人に聞いたところ、どうやら異母妹の春燕(チュンエン)が舞姫になったということが分かった。


 今、それを祝してあちこちの町で祝の祭りが開かれ、春燕(チュンエン)も国内中の町を巡っている途中だそうだ。

 先日、隣町に春燕(チュンエン)が来たことから、この町にもそろそろ来るのではないかと、町の人々の熱気は高まっていた。


 満月の夜に都で舞を踊ることから、小さな村までは巡ることができないとのことで、村に住む者達は、ひと目春燕(チュンエン)を見ようと、近くの町に集まって来ているそうだ。


「また舞姫が現れて大変だな」


 泰然(タイラン)様は薬を買いに来た商人の男性に尋ねた。彼は、先週、舞姫なんかいらなかったと言っていた人だ。


「何を言ってんだよ、泰然(タイラン)様。あの春燕(チュンエン)様が舞姫だぞ。これほどめでたいことはないじゃないか。農家は豊作で潤い、多く採れすぎた野菜は都へ送る。春燕(チュンエン)様のためなら、いくらでも送ってやるさ」

「そ、そうか」


 泰然(タイラン)様は苦笑いで相づちを打ち、私に耳元で囁いた。


「馬車から薬を取ってきてくれないか? 無くなってしまった」

「はい」


 私に聞かせたくなかったのだろう。

 でも、私は大丈夫だ。

 民が笑っていてくれるなら、それでいい。


 舞姫が必要だって言ってくれたことが嬉しかった。もしかしたら、私が都で舞っていた時も、みんなもこんな笑顔だったのかもしれないのだから。


『みんな調子いいことばっか言うわね。この間は、舞姫がいなくなって不安だったのかしらね。作物が取れなくなるかもしれないから、怖くてあんな酷いことを言ったのかもしれないわよ』


 背中の布の中からリウリーの声がした。なるほど、舞姫を失い不安だったから、舞姫なんて元からいなかった時を肯定したかった、ということか。


「私は、いらない存在じゃなかった……のかしら」

『当たり前でしょ。ああいう器の小さい男はね、女に振られたら、その相手のことをボロクソに言うような奴に決まってるわ。はぁ、せいせいした。あんな人達のために、雪燕(シュウエン)はもう舞を踊らなくていいってことでしょ?』

「そっか、もう踊らなくていいんだ」


 踊るのが当たり前だった。

 でもそれは、決して嫌なことではなかった。


『そうよ。だから、好きな時に踊ればいいのよ』

「好きな時に?」

『もう、雪燕(シュウエン)には長い手足があるんだから、好きな時に好きなことをしなさいよ』


 続けて、私はしたくてもできないことばかりなんだから、とリウリーはつまらなそうに呟いた。

 舞が好きなら、好きな時に踊っていい。

 心がスッキリ晴れて、自由になった気がした。


「うん」


 でも、いいのかな。

 春燕(チュンエン)は大丈夫だろうか。あの子が舞っているところなんて、一度も見たことがない。

 無理に押し付けてしまったのだったらと、申し訳なく感じた。


『もう、どうせまた、つまんないことを考えてるでしょ。誰かから必要とされることって嬉しいし、周りのことも気になるかもしれないけどね、そんなことより、まず自分が自分を好きになれたらいいんじゃないかな。って、雪燕(シュウエン)を見てると思う』

「自分が自分を?」

『うん。舞が好きなんでしょ? その大好きな舞を美しく舞える自分も好きなってあげて。それで、雪燕(シュウエン)が笑っていられた方が、周りも笑顔になれると思うわ』

「うん。ありがとう、リウリー」


 ****


 町はお祭り騒ぎだ。

 普段なら、心躍る日であるはずだが、今日は複雑な心境である。


 町の者達は、新たな舞姫が春燕(チュンエン)であると歓喜している。

 もう誰も、雪燕(シュウエン)の話などしない。

 まるで彼女なんていなかったみたいに。

 それがとても辛い。


泰然(タイラン)?」

「えっ? 翡雲(フェイユン)、いつ来たんだ? なんだか顔色が悪いが大丈夫か?」


 額に触れると手を振り払われた。

 少し熱かった気がするが大丈夫だろうか。


「やめろ、人前で恥ずかしい」

「あ、すまない。それでどうした?」

「父から許可をもらった。しばらく私も秘薬作りに参加させてくれ」

「許可が下りたのか、無理かと思っていた」


 密仙(ミーシェン)国との話はどうなったのだろうか。まあ、こんなところでする話ではない。

 帰ってからゆっくり聞くとしよう。

 

「色々あってな。それより、さっき見ていたのだ。雪蘭(シュウラン)が子供に舞を教えていたな。それがまた、雪燕(シュウエン)に見えてしまった」

「…………」

「そんな顔するな、わかっているから。──わかってはいるんだけど、私は彼女が恋しい」


 そう言ってしゃがみこんだ翡雲(フェイユン)の背中には哀愁が漂っている。本当にこのまま黙っていていいのだろうか。


翡雲(フェイユン)、雪──」

「あれ? 翡雲(フェイユン)様?」


 言いかけた時、雪蘭(シュウラン)が戻ってきた。

 彼女を視界に捉えると、翡雲(フェイユン)はパッと顔を明るくさせた。


「おお、雪蘭(シュウラン)、手伝いに来たぞ」


 俺はさっき、何を言おうとした? 

 俺が伝えるべきではないのに。

 これは、二人の問題なのだから。



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