表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 優しすぎる薬師様に恩返ししたいと思います

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

014 祭り(泰然視点あり)

 それから、私が目覚めてから一週間が過ぎた。

 今日は碧砂(ビーシャ)国の緑淵の町に行く。

 そこで御者の男と会う約束をしているのだ。


 前日の夜、私と泰然(タイラン)様は相談の末、事故に遭ったとき、私が着ていた服を裂いて、その一部を御者に渡すことにした。

 黒い外套を翡雲(フェイユン)様が届けてくれたから、もう必要ないかもしれないけれど、私が事故に遭った証拠がないと、御者はこの任務から解放されないと考えたからだ。


 荷物を積み込み、私とリウリーは、また荷物と一緒に馬車に乗りこんだ。


 町の門をくぐると、先週とは様子が違い、賑やかな声があちこちから聞こえた。


「今日はお祭りかしら?」

『さぁ? 何かしら』


 馬車を泰然(タイラン)様の知り合いの医師の家に停め外へ出た。町外れだからか、入り口のような賑わいはなく、人通りもなく静かな場所だった。


 ここはもう医院を閉めた老医師の家で、今日はこの場所を貸してもらい、御者の娘を診る約束をしているそうだ。


「馬車で待っていてくれ。今日は祭りなどは無いはずだが、旅芸人の一座でも来ているのか……ここの医師に聞いてみる」

「はい」


 一座が来ていたら嬉しい。小さい頃、宮殿で見たことがあるけれど、あまり良くは覚えていない。


『えー、私も芸を観たいわ。でも、町の中でイノシシ連れはキツイわよね』

「布でくるんで私が背負うなんてどう?」

『うーん、見つかったら、毛皮のフリでもしようかしら』

「ふふっ、じゃあ決まりね」


 馬車の中でリウリーと話していると、後ろの簾が下の方だけめくれ上がった。

 泰然(タイラン)様が、忘れ物でもしたのだろうか。


 リウリーと二人で簾を注視していると、ひょこっと女の子が顔を出した。

 身なりが良く、歳は十歳くらい。良家のお嬢様だろうか。


 私とリウリーを見ると驚いて目を丸くしていた。


「どうしたの?」

「少しだけここに匿ってくれない? お金ならあげるから! あっ来た」


 女の子は私の返答を待たずに馬車に乗り込むと、簾を整え私の隣まで静かに移動した。


「今、持ち合わせがないの。だから、これあげる」


 女の子は持っていた扇を私に渡し、口元に人差し指を立てて静かにするようにと小声で言った。

 これは、舞を踊る時に持つ扇のようだ。飾りのついた扇は桃色の蝶が刺繍されとても綺麗だった。


梓晴(ズーチン)様~。梓晴(ズーチン)様~」


 多分この子の名前だろう。男性が大声で呼びかけている。


『追い出しちゃえば。なんか面倒だし』

「でも……」


 私が声を出すと、女の子に「しっ!」と言われてしまった。


 ****


 御者の娘に針を刺し、薬を処方した。足が悪いようだが、すぐに歩けるようになるだろう。俺は雪燕(シュウエン)の着ていた衣の切れ端を御者に渡した。


「これを」

「おおっ、見つけてくださったのですね。ありがとうございます」

「谷の毒が届かぬ川の下流の方で見つけた。探している子どもの物だといいのだが……」

「これです……ありがとうございます。では、こちらは治療代です」

「ああ、これで貸し借りはなしだ。もし身体に心配なことがあれば、また訪ねてくれ」

「はい」


 御者は衣の切れ端を布で包むと、大事そうに抱え、娘と帰っていった。


 それから、外の賑わいについて医師に聞いたところ、町は今、新たな舞姫の誕生を祝い、祭りが開かれているそうだ。

 それは雪燕(シュウエン)以外のものが舞姫になったということだろうか。医師は詳しいことはよく分からないと言っていた。


 なんだか嫌な予感がするので、早く町を出た方がいいかもしれない。


 俺は場所を貸してくれた医師に礼をし、家を出ようとしたが足を止めた。


 扉の向こう側に誰かが立っている気配がする。

 医師に許可を取り、俺は裏口から出て足を忍ばせ近づき、誰か立っているのか確認した。


 なんだ、彼か。彼は知り合いだ。

 今日も薬を売る予定である。

 この町で一番裕福な沈氏の従者で、確か名前は……。


「林殿か?」

「あっ」


 林殿は俺に気付くと手招きし小声で話しかけてきた。


泰然(タイラン)様、さっきまで中にいらっしゃいましたよね? いつの間に……」

「怪しい気配がしたから裏口を借りた。何をしていたのだ?」

「実は、お恥ずかしながら、当家のお嬢様が泰然(タイラン)様の馬車に隠れてらっしゃるんです」

「は?」

「馬車を見てすぐ泰然(タイラン)様の馬車だとわかりました。この家から話し声が聞こえたので、扉の前で待っていました。実は、お嬢様が舞の稽古中に逃げ出してしまいまして。出来ればでよいのですが、屋敷の前まで馬車を走らせていただけませんか?」

「それは構わないが……」


 中に雪蘭(シュウラン)がいることを伝えたほうがよいだろうか。


「ありがとうございます。お薬代に少々色を付けさせてください」

「いや、そこまでしてもらはなくて大丈夫だ。行こう」


 家の反対側に停めてある馬車へ行こうとすると、元気な女の子の声が聞こえてきた。もはや隠れてもいないのではないだろうか。


「やった! もう行ったみたい。礼を言うわ」

「これ、返すわ」

「いらない。貴方にあげたのだから。それに、今は持ち合わせがないって言ったでしょ。売ればお金になるわ」


 どうやら雪蘭(シュウラン)と話しているようだ。

 林殿も物陰に隠れて様子を窺っている。


「お金もいらないから。これで舞を練習してね」

「いらないのっ、舞なんて大嫌い。なんで私がヘラヘラ踊らなきゃいけないのよ。本当につまらないわ」

「舞が嫌いなの、私は好きだけどな」

「だったら丁度いいじゃない。それあげるから」

「私は、扇をもらうより、あなたに舞を好きになってもらえた方が嬉しいわ」


 そう言って雪蘭(シュウラン)は、扇をスッと開き、優雅に裙子を翻し、クルリとひと回りして見せた。

 ただ、それだけの動きなのに、あまりにも美しい動作に、それを目にした者の視線を釘付けにさせた。


「な、ななななにそれ!?」

「え? ただ回ってみただけよ。でも、この扇を持っていたから、素敵に見えたでしょう?」

「わ、私もやりたい。今の教えて!?」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ