表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第一章 私は醜い公主でした

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/12

001 醜い私

 私は醜い。顔と腕に広がる無数の湿疹は日毎に増えていくばかり。弾けた水疱でただれた顔と腕を包帯で隠し、その包帯を隠すために、いつも黒い外套を羽織っている。


 でも、生まれた時から醜かった訳ではない。


 私は、砂漠に囲まれた碧砂(ビーシャ)国の公主として生まれた。生まれ持った銀髪と赤い瞳は、誰もが美しいと褒めてくれた。この国には色々な瞳の人がいるけれど、銀髪はとても珍しい。

 私は亡き母から容姿と、碧砂(ビーシャ)国を守護する龍神へ捧げる舞を引き継ぎ、その舞う姿から白兎の舞姫と呼ばれていた。


 母は皇后の侍女として後宮に入り、その美しさから皇帝に見初められ、側室となり寵妃となった。しかし、兄と私を産んだあと、私が五歳の頃、母が三人目の子を身籠っている時に、病で命を落としてしまった。

 

 母亡きあとも、私は変わらず皇帝である父に溺愛され、皇太子である兄や、義理の母である皇后にも大層可愛がられた。そして幼い頃から隣国の皇子との婚約も決まり、何不自由なく暮らしていた。


 しかし、十歳を過ぎた頃から全て崩れていった。


 何故か、身体の成長が止まってしまったのだ。

 周囲の者達からは奇病だと恐れられ、呪われた公主と陰で呼ばれた。


雪燕(シュウエン)様には近づいては駄目よ」

「見目麗しいのに、お可哀想に」

「あれは呪いよ。恐ろしい……」


 そんな言葉ばかりが耳に響いた。

 変わらず接してくれたのは、皇后と隣国の雲龍(ユンロン)国の皇子であり、幼い頃から私の許嫁である翡雲(フェイユン)だけだった。


 でも、それで十分だった。

 なのに……。


 十六歳になり、翡雲(フェイユン)との婚儀まで後半年となった。

 しかしその矢先、原因不明の赤い発疹が顔に現れた。

 顔だけじゃない。それは少しずつ腕にまで広がった。


「疫病かもしれない」

「王女を隔離しろ。死ぬまで部屋から出すな」

「あの顔を見たか? あれは化け物だ」


 部屋で一人、恐怖と痛みに耐えていた。

 翡雲(フェイユン)はそれでも私を訪ねてきてくれた。

 だけど──。


「こ、これ以上近づかないでくれっ」


 私の醜い姿を見た途端、優しかった翡雲(フェイユン)にさえ拒絶されてしまった。

 婚儀は延期され、代わりに二つ歳下の異母妹の春燕(チュンエン)が婚約を結ぶという話が上がっていた。


 そして今、私は皇后が見つけた腕利きの医師の元で治療する為、馬車で移動中だ。

 皆に見放され、最後まで私の側に寄り添ってくれたのは皇后だけだった。


雪燕(シュウエン)、大丈夫。私は貴女の味方よ」

「お義母(かあ)様……」


 水疱が弾け、顔や手が燃えるように熱く苦しかった夜、痛み止めの薬をくれて、顔や手に包帯を巻いてくれたのは皇后だけだった。

 そして、人目に怯える私に、銀糸で花の刺繍が施された、美しい黒い外套を着せてくれた。


 奇病が移るかもしれないからと、誰も近づかなかった私に、皇后はずっと優しく触れてくれた。

 皇后と過ごした時間だけ、身体の痛みが和らいだ。

 それは痛み止めの薬のお陰だけではないと思う。



 外は雨、遠くの方で雷鳴が轟いている。

 山道は荒れ、馬車は激しく揺れた。

 外套から顔が出そうになる度に、私は深く被り直した。

 馬車には私一人しか乗っていないのに。


 醜い自分を晒すのが怖かった。


 腕利きの医師が、もしも私の湿疹を治せたとしても、顔や腕に傷は残るだろう。それに、十歳のまま成長しない身体を、医者が治せるとも思えない。今まで出会った医者は皆お手上げだったのだから。

  

 馬車から外を覗くと、向こう側に崖が見えた。

 どうやら、この馬車は峡谷のすぐ横の山道を走っているようだ。

 このまま谷底に落ちてしまえば、一瞬でこの苦しみから解放されるのではないだろうか。


 暗く淀んだ紫色の谷底を眺めていると、急に馬車が大きく揺れた。

 馬がいななき、すぐ近くに大きな雷が落ちると、馬車は速度を上げて進み出した。


 簾が揺れてめくり上がり、馬車を見送るように山道に佇む男と目が合った。


「彼は……御者の……」


 御者は一人しかいないのに、その一人が馬車を降りていた?

 それとも、馬車から振り落とされたのか。

 私は揺れに抗いながら、馬車の前方の簾をめくった。

 

「やっぱり、誰もいない……」


 このまま馬を御す者がいなければ、馬車はどうなるのか。

 思考が止まり呆然としていると、またすぐ近くに雷が落ちた。


 稲光と落雷の地響きで、視界も全ての音も乱される中、馬のいななきと共に馬車はまた速度を上げた。

 さっきまで私が眺めていた


 ──紫色の谷底へと向かって。


 馬車に必死にしがみつき、義母がくれた外套を握りしめてキツく目を閉じる。

 怖くて身体は勝手に震えているのに、私は笑っていた。


「私は……」


 死ぬんだ。

 だったら、もう何も考えなくていい。

 この外套をくれた時の、皇后の笑顔だけを思い出して、幸せなまま終わろう。


 しかし、崖から落ちたはずなのに、いつまで経っても不思議と身体の痛みも衝撃も、何も来なかった。


 そっか。私はもう──。


「……死んじゃったんだ」


「──死んではいない。意識が戻ったようだな。君は崖から落ち、一週間寝たきりだった。身体は動くか?」


 知らない男性の声がして、私は重い瞼を開いた。


 一週間も寝たきりだったと男性は言った。

 さっきまで馬車に乗っていた気がしていたけれど、一週間も前のことだった、ということ?


 ここは屋敷の一室だ。

 豪華な家具が並び、まるで宮殿の中にいるみたいだった。


「あなたは……?」


 目の前には、若い青年が立っていた。

 私と同い年、もしくは年下くらいに見える。

 彼は色白で線が細く、きれいな長い黒髪は後ろで一つに結われている。

 そして意志の強そうな濃い深緑色の瞳で私を見ていた。






お読みいたたきありがとうございます。

先が気になった方はブックマークしていただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ