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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 優しすぎる薬師様に恩返ししたいと思います

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001 質屋と翡翠の腕輪

 それから、残りの薬を配り終え、私は泰然(タイラン)様に行きたい場所があると言って、商店が立ち並ぶ通りに連れてきてもらった。

 私が目指す場所は一つだ。


「行きたいところがあると言っていたが、見つかりそうか?」

「はい。ここです」


 私は一直線にリウリーが場所を教えてくれた質屋に来た。

 泰然(タイラン)様は、どうしてか驚いていた。


「ここが質屋だということはわかっているか?」

「はい。実は、都の者と会えた時のために、身分が分かるものをと思って、着ていた衣を持ってきていました。それをお金に替えたいのです」

「そうか、しかしなぜ金が必要なのだ。買いたい物があるなら言ってくれ。それくらい」

「いけません! これ以上、泰然(タイラン)様にご迷惑をかけられません。泰然(タイラン)様だけではありません。もう、誰にも迷惑をかけたくないんです。治療代だって払わせてください」


 やっぱり泰然(タイラン)様は優しい。

 でも甘えていてはいけない。

 このままでは、恩を返すどころか増えていくばかりだ。


「治療代のための金なのか? それならばいらない。金を持っていない者から治療代は受け取っていない。払える時でいいのだ」

「でも、払える時が来るかどうかもわからないので……」


 碧砂(ビーシャ)国には帰らない。

 母の故郷を頼るといっても、それまでにもお金は必要だ。  

 売れる物があるなら、売る選択肢しか私にはない。


 泰然(タイラン)様に一礼し、私は店の中へ入った。

 店主のおじさんと目が合った。


 宮殿で迫害された日々が脳裏に蘇る。

 私と話すことなんて、誰もが嫌い、避けることだった。


 でも、私はもう醜い姿じゃない。

 呪われた子どものままの姿でもない。

 病気を移すこともない。


 だから、大丈夫。


 店主のおじさんは、私を見ていらっしゃいと笑顔を見せた。私は包んでいた布から服を取り出した。


「すみません! これを売りたいのですが!」


 つい気合が入りすぎてしまい、大きな声を出してしまった。でも、店主のおじさんは変わらず笑顔のままだった。


「おお、威勢のいいお嬢さんだ。うーん。上質な衣だが……破れや汚れが酷いな。おっ、その翡翠の腕輪なら買い取ってもいいぞ」

「これを……ですか?」

「ああ、一両でどうだ?」


 この腕輪は母の形見だ。これを手放すことはしたくない。

 しかし、私の持っている物は、異母妹からの毒入りの白粉と、龍神の池の水、そしてこの腕輪だけだ。

 着ていた服が売れないのなら、この腕輪しかお金になるものはない。


「わかりました。この──」

「その倍の値で俺が買おう」


 私は驚いて声がした方へと顔を向けた。

 勿論、声の主は泰然(タイラン)様だ。


「なっならば、私がその倍だそう!」

「では、俺はその倍だそう」


 店主は急に焦りだして言うと、食い気味で泰然(タイラン)様が言い返した。

 もしかしたら、腕輪は安値で買い取られそうになっていたのだろうか。

 さらに店主はムキになって言い返してきた。


「ではその倍で!」

「それならその十倍で」

「それならばその……ん? じゅ、十倍だと……」


 さすがに高値なのか、店主が悔しそうに唸ると、泰然(タイラン)様は私の手を引いて言った。


「店を出よう」

「えっ、でも」

「出よう」


 強引に手を引かれ、荷馬車まで戻ってくると、泰然(タイラン)様は少し怒った様子で私に尋ねた。


「その腕輪を売るのか? 大切なものではないのか?」

「……大切なものです。ですが、服が売れないのでしたら、しかたありません」

「治療代以外にも金が必要なのか?」

「母方の故郷に身を寄せて、今後のことを考えたいと思っています。そのための旅費にしようと思ったのです」

「ならば……俺が百両で買おう。治療代として一両もらう。残りの金で旅費は賄えるし、買いたい物があれば買うといい。それでいいな?」


 百両……? それが妥当な額なのか分からないけれど、さっき質屋で言い合っていた金額よりも高い気がする。

 それに、泰然(タイラン)様にお礼がしたいのに、結局、泰然(タイラン)様のお金でお礼をすることになってしまう。


「ですが、お礼をしたい方にお金をいただくのは変ではないですか?」

「俺が腕輪の持ち主になるのだから、おかしなことではない。ほら、暗くなる前に帰るぞ」


 泰然(タイラン)様に背を押され、馬車へ乗り込んだ。

 私は馬車で待っていたリウリーに質屋での出来事を相談した。


「いいのかしら。泰然(タイラン)様がこの腕輪を買って、お金をいただいても、恩を返せたような気になれないのだけど」

泰然(タイラン)は、その腕輪が大切なものだと思って、自分の手元に置いておいてくれようとしたんじゃない? 質屋に入れたら、自分の所に戻ってくる可能性は低いから』

「それじゃあ……やっぱり迷惑をかけてしまったってことよね」


 また気を遣わせてしまった。

 気持ちだけじゃない。お金まで使わせてしまっている。


『腕輪は泰然(タイラン)の物になるのだし、腕輪とお金を交換したってことなんだから。それに百両くらいなら泰然(タイラン)なら簡単に用意できる額だし、気にしなくていいんじゃない?』

「でも……」


 どうしてだろう。泰然(タイラン)様の言葉を思い出すと、申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り交ざる。

 泰然(タイラン)様が優しすぎるのだ。

 でも、その優しさに何も返せない自分が情けない。


『ふふっ、前向きにいきましょ。落ち込んでも、なにもよくならないんだから』

「うん。自分に何ができるか、考えるわ。ありがとう、リウリー」


 リウリーは得意気にフゴッと鼻を鳴らした。

 リウリーも、言葉の一つ一つがいつも優しいな、と感傷に浸っていると、馬車が停車した。

 そして前の簾から泰然(タイラン)様が顔を出した。


「少しいいか?」





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