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朝練

 焔流に入門して以降、晴奈は急速に、剣士としての力を付けていった。

 元来、強い魔力を持つと言われる猫獣人であり、その資質が火の魔術剣を真髄とする焔流と親和性が高かったことは確かだが、それを差し引いても、師匠である柊雪乃の指導や鍛錬が行き届いていたからだろう。


 その日も二人は、早朝から稽古に打ち込んでいた。

「えいッ!」「やあッ!」

 二人の木刀が交錯し、カンと乾いた音が、他に人のいない修練場に響き渡る。まだ日も昇らぬ、山中の冷え切った空気が立ち込める時間帯であるにも関わらず、二人は活き活きと木刀を振るっていた。

「いい調子よ、晴奈! それ、もう一度!」

「はいっ、師匠!」

 二人の出会いから1年が過ぎた双月暦507年、14歳になった晴奈は紅蓮塞で揉まれるうちに――周りの無骨な者たちの影響を受けたらしく――性格や口調が、大きく変化していた。

「てやあッ!」

 晴奈は飛び上がり、雪乃の頭上に思い切り木刀を振り下ろす。

「りゃあッ!」

 雪乃も木刀でそれを防ぎ、身をひねりながら足と木刀を使って、晴奈を投げ飛ばす。

「なんのッ!」

 飛ばされた晴奈も、空中で体勢を立て直してストンと地面に降り、雪乃に再度、斬り込もうとする。だが残念ながら姿勢が伴わず、踏み込みを見誤ってよろめいた拍子に、雪乃に木刀を弾き飛ばされてしまった。

「あっ……」「勝負ありね、晴奈」


 そして朝の稽古を終え、二人は風呂で汗を流す。これも毎日の習慣である。

「いくら身軽な『猫』とは言え、性急な攻めはまだ無謀ね」

「はは……お恥ずかしいです」

「もう少し体幹を鍛えなきゃ、あの攻めはうまくつなげられないわよ」

「ふむ……ならばしばらくは、姿勢の鍛錬を重点的に行うべきでしょうか」

 二人で朝風呂につかりながら、ここはこうだった、次はこうした方がいいと、稽古の内容について熱く意見を交わしている。

「それでは昼までの精神修養は、……くしゅ」

 議論に熱を入れすぎたせいか、逆に体から熱が奪われ、湯冷めしてしまったらしい。年相応の可愛いくしゃみをした晴奈に、雪乃が笑う。

「あはは、ダメよ晴奈。いついかなる時も体を健康に保つのも修行の、……くしゅん」

 が、笑っていた雪乃もくしゃみをしてしまう。

「……はは」「……うふふ」

 師弟二人はばつが悪くなり、互いに笑ってごまかした。


 風呂から上がり、晴奈たちはさっぱりとした気分で朝食を食べていた。もちろん、これも毎日の習慣の範疇(はんちゅう)である。ちなみに先程とは違い、ここでは二人とも会話しようとしない。と言うよりも央南の人間は、基本的に食事中しゃべることが少ないのである。

 だから二人で黙々と食べていたところに「晴奈、お客さんが来ているよ」と声をかけられ、部屋の戸を開けられた時には二人同時にむっとした顔をしたし、伝言に来た者もすぐさま謝った。謝ってきたから雪乃はすぐ表情を直し、軽く頭を下げ返したのだが――晴奈は依然、いぶかしがって表情を変えずにいた。

「私に客ですか?」

 単身、紅蓮塞に乗り込んできた晴奈に、外界からの客などいるはずがないからである。

「ああ。何でも、黄海から来られたそうだ」

「黄海……ですか」

 故郷の地名を聞くなり晴奈の食欲は途端に無くなってしまい、ぱたりと箸を置いた。

「客の名前は?」

 渋々ながら晴奈はそう尋ねたが、伝えに来た者は首を振る。

「いや、ただ『晴奈に会いたい』としか。中年の『猫』で、なかなかいい身なりをしていた。見たところ、どこぞの名士のようだったな」

 それを聞いた瞬間、晴奈は恥ずかしさと苛立たしさを同時に覚えた。

「そうですか……」

 その様子を眺めていた雪乃も箸を置き、心配そうに尋ねてくる。

「どうしたの、晴奈? と言うか、そのお客さんってもしかして……」

「ええ、どうやら父のようです。私を連れ戻しに来たのでしょう」

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