プロローグ
覚えているか?
初めてお前に出会った、あの夏の日のことを。
外は焼けるような暑さで、だけどあの楽器屋は心地良くて。
窓から差し込んだ陽の光がやさしく波打ち、ヴァイオリンの弓先に、
お前の眩しいくらいの金の髪が反射してきらめいた。
あれから、ずいぶん時が経ったな。
あの頃のお前は今よりずっと小さく、華奢で、
鍵盤の上で指を震わせ、それでも懸命に音を探していた。
ソロでは迷っても、不思議と俺の音にだけは迷わず寄り添ってくれたな。
俺たちの音は最初からずっとあった一つの楽譜のようだった。
まるで、何百年と続いてきたような。
お前の音が好きだ。
俺の音をまっすぐ受け止めて、やわらかく返してくれるその響きが。
そして何より、お前という存在が、
俺の生きる理由になっていたことを、今だから言える。
ありがとう。
俺はきっと、この言葉を何度言っても足りない。
お前がくれたすべての音に、
そして俺の傍にいてくれた時間に、
心から感謝している。
離れた時もあったけれど、ずっと俺の音を待っていてくれてありがとう。
ピアノを辞めずにいてくれてありがとう。
これからも、たくさんの音を聴かせてくれ。
お前の奏でる旋律が、この世界をやさしく満たすように——




